2019年1月14日月曜日

「紀平梨花」2017全日本J選手権 FS ~トリプルアクセルからの3連続ジャンプが意味するもの(妄想)~

ジャンプはフィギュアスケートの華であり、最大の得点源である。素晴らしいジャンプは、僕らのような素人にも分かるし、フィギュアの勝敗はジャンプのデキで決まると云っても過言ではないだろう。

一方で、ジャンプは、選手にとって体力的に大きな負担であり、大きな怪我にもつながりかねない。だから、ルールによって細かく規制がかけられている。
女子のフリーならば、ジャンプは7回、そのうち連続ジャンプは3回までで、3連続は1回だけ。さらに、同じ種類のトリプルジャンプは、2種類を2回までしか跳ぶことができないし、どちらかは連続ジャンプにすることが義務づけられている。したがって、跳ぶことのできるジャンプは最大11本、そのうち3回転ジャンプは最大8本ということになる。
このような縛りは、6種類あるジャンプをどのように組み合わせるか、というパズルゲームに似た面白さを演出することになる。

紀平梨花選手の今シーズンのフリーにおけるジャンプの構成は、次の通りである。

①3A+3T ②3A ③3Lo ④3Lz+2T ⑤3F ⑥3Lz+2T+2Lo ⑦3S

ほぼ上限に近い構成である。得点向上の余地があるとすれば、どちらかの2トゥループを2ループと入れ替えるくらいで、後は、4回転を跳ばない限りこれ以上の構成はありえない。世界最高難度と云われている所以である。

今回、取り上げさせていただくのは、一昨年に行われた全日本ジュニア選手権のフリープログラム。梨花ちゃん15歳の演技である。僕が彼女を知ったのは、一昨年の全日本選手権からだから、この演技のことはYouTubeで見るまで知らなかった。

さて、梨花ちゃんは、演技ごとの出来・不出来が激しいのが特徴であるが、この大会でもショートプログラムで大失敗していて6位からのスタートになっている。田村コーチからの「このままじゃあ、帰れないから。しっかりやれ!」という声が聞こえてくる。
解説は「村上佳菜子」さんのようだ。


何と云っても圧巻は、冒頭の3連続ジャンプであろう。村上さんが言葉を失うのも無理のないことで、3アクセルと3トゥループの連続ジャンプだけでも、女子史上初だというのに、さらに2トゥループを付けてしまったのだから。
続けて、GOEで+2点が付いた単独の3アクセル。この2つのジャンプだけで、技術点が27.10という破壊力である。

トリプルアクセルからの3連続ジャンプと云うのは、男子だって、そう簡単に跳べるものでは無い。羽生結弦選手は、3アクセル+1オイラー+3サルコウという大技を持っているが、現在のルールでの基礎点は12.8点。一方、梨花ちゃんの3アクセル+3トゥループ+2トゥループの基礎点は13.5点で、羽生選手のそれを上回っている。いかに冒頭のジャンプが凄いのかが分かると思う。

もちろん、男子には、宇野昌磨選手の3アクセル+4トゥループ=17.5点のように、さらに高難度のジャンプがあるので、男子の方が凄いことには変わりが無いのだが、現在の日本人選手の中では、梨花ちゃんの技術点は、羽生選手、宇野選手に次いで3番目に相当するのである。

この時のジャンプの構成は、次の通りである。

①3A+3T+2T ②3A ③3F ④3Lz+2T ⑤2(3)Lo ⑥3Lz+2T ⑦3S

5回目のジャンプは、予定していた3回転ループが2回転になってしまったようだが、まあ、これは誰にでもあるミスだ。
問題なのは、2トゥループを3回跳ぶというミスを犯しているところである。このため、3本目の2トゥループが0点になってしまった。たかだか、2,3点のこととは云え、最初から規定違反になるような構成にするなんて有り得ないから、どこかでミスをしているはずだが、それがよく分からない。

まず考えられることは、3回の連続ジャンプにおいて、どこかの2トゥループが、本来は2ループにするはずだったということである。

田村コーチが、演技が終わった梨花ちゃんに「ループが・・・」と話しかけている。これは3回転ループが2回転になったことを悔やんでいると考えるのが普通だが、もしかしたら、連続ジャンプでループを付けられなかったことを指摘している可能性もある。

ただ、梨花ちゃんのジュニア時代から今に至るまでの演技構成を見てみると、彼女がセカンドジャンプで、ループを一度も跳んでいないことに気づく。ロシアの女の子たち、例えばザギトワ選手には、3ルッツ+3ループという必殺技があるのだが、梨花ちゃんのセカンドジャンプは常にトゥループであって、ループは跳んでいないのである。

その理由として考えられることは、彼女はループがあまり得意でないのでは、ということである。この日もループを失敗しているし、成功したときも、他のジャンプと比較すると加点も少ない。
もう1つは、彼女のジャンプの特性である。ジャンプには、回転するための滞空時間を、高さで稼ぐタイプと、飛距離で稼ぐタイプがあるのだが、彼女は明らかに飛距離で稼ぐタイプで、ランディングした時の滑走スピードが速い。そのため、着地した足だけで踏み切るループジャンプは跳び難くいのではないだろうか。

彼女が、ループジャンプを付けるとしたら、勢いが落ちてくるサードジャンプの時である。今シーズンでも、3ルッツからの3連続ジャンプでは、3ルッツ+2トゥループ+2ループという構成になっている。っていうか、これが本来の彼女の構成なのである。

つまり、規定違反になってしまった要因は、冒頭の3連続ジャンプでトゥループを跳んでしまったことにあるわけで、それを防ぐには、3アクセル+3トゥループ+2ループを跳ぶしかない。しかし、いくら梨花ちゃんでもこんなジャンプが可能だとは、とても思えない。

だとすれば、最大の問題点は、冒頭に3連続ジャンプを跳んだこと、そのものである。このことによって、構成が崩れてしまい規定違反になったのではないだろうか。つまり、ここで3連続ジャンプなど跳ぶ必要は無かったし、跳ぶことによってかえって得点が低くなってしまったのだ。

何故こんなことになってしまったのか。これはもう、跳びたかったから跳んだとしか考えられない。女子フィギュアで誰も跳んでいない、トリプルアクセルからの3連続ジャンプを跳びたかったのだろう。そのために、構成が崩れて規定違反となり、得点が下がるとしても、梨花ちゃんは跳んでみたかったのだ。

全ては、僕の憶測であって、本当のところは知らない。インタビューか何かで答えているかもしれないけど、僕は知らない。ただ1つ、確実に云えることは、梨花ちゃんは最高に面白いスケーターだということだ。

実は、勝つことだけを考えるならば、ショートプログラムでのトリプルアクセルは不要だ。ミスの許されないショートプログラムにおいては、リスクの高いトリプルよりもダブルアクセルの方が現実的な選択ではある。もし、梨花ちゃんがショートプログラムでのトリプルアクセルを封印していれば、この前の全日本選手権だって優勝していただろう。なのに、梨花ちゃんは、圧勝と惨敗を繰り返しながら、トリプルアクセルにこだわり続けてきた。

3年後の北京冬季オリンピックで彼女に金メダルを期待する声は大きい。だけど、梨花ちゃんは、梨花ちゃんのスケートをして欲しい。やがてクワドジャンプ(4回転)にもこだわる時がくるだろう。結果として大コケしたとしても、全然構わない。繊細でありながら超攻撃的、それが梨花ちゃんの魅力だからだ。

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