2019年1月27日日曜日

「紀平梨花」2016JGPスロベニア大会 ~6種類8回と二人のアクセルジャンパー~

写真は、2016年のジュニアグランプリ・スロベニア大会表彰式の場面。セレモニーの後で、スマホを持ち出して自撮りをする3人の姿である。紀平梨花選手とザキトワ選手は、この時14歳。本田真凜選手は、1つ年上。微笑ましく、可愛らしいショットである。この大会では、紀平選手が優勝、ザギトワ選手は、ジャンプでの両足着氷などがあって3位となっている。


この後、3人は揃ってファイナルの出場権を得る。そのファイナルでは、ザギトワ選手が紀平選手に30点の大差を付けて圧勝。紀平選手は4位、本田選手はインフルエンザにより欠場とあった。

この子たちは、ジュニアの頃から、こんなふうに世界を舞台に競い合っていたのである。


で、今回、取り上げさせていただくのもジャンプに関する話である。ジャンプと云えばトリプルアクセル、トリプルアクセルと云えば、伊藤みどり選手と浅田真央選手となろう。

トリプルアクセルの先駆者「伊藤みどり」選手は、当時採用されていたコンパルソリーを大の苦手としていて、結局金メダルを獲得することができなかった。浅田真央選手も、バンクーバー五輪ではキム・ヨナ選手に金メダルを阻まれてしまい、アクセルジャンパーは金メダルを獲れない、というジンクスができてしまう。

そして、浅田真央選手が全てを懸けて臨んだソチ・オリンピック。ところが、ジャンプの失敗がひびき、ショートプログラムでは16位に沈んでしまう。メダル獲得が絶望的となるなか、翌日のフリーでは、6種類のトリプルジャンプを8回という、女子の誰もが為し得なかったプログラムを見事にこなし、或る意味、金メダル以上に感動を与えたことはご存じの通りである。

あれから5年。女子でも4回転を跳ぼうかと云う時代になってきたが、今もなお、フリー演技の中に組み込むことができる3回転ジャンプが、最大6種類8回であることは変りない。(現行のルールでは、4回転と3回転を合わせて8回までであるから、4回転を跳んだ場合は、その分3回転を減らすことになる)

実は、浅田選手は、この時跳んだ8回のジャンプの2つで回転不足の判定を受けている。だから、メディアがこの演技を紹介するときには、成功しましたという表現を避けて、見せましたみたいな、微妙な言い回しをすることが多い。

回転不足には、回転がわずかに足りないアンダーローテーションと、大きく足りないダウングレードがある。当時は、異常なまでに回転不足の判定が厳しかったのだが、浅田選手が受けた判定は、アンダーローテーションなので、6種類8回のジャンプを「跳んだこと」は認定されている。それに減点されているとはいっても、オリンピックという大舞台での記録であるから、その偉大さは少しも揺らぐことはないのだが、まあ、6種類8回ということが、それだけ大変なことだとも云える。

この、トリプルジャンプ6種類8回を、世界で初めて、回転不足やエッジエラーの無いノーミスで成功させたのが、写真を紹介した2016年JGPスロベニア大会での紀平梨花選手である。


 この時の構成は、次の通りである。

①3A ②3Lz +3T ③3Lo ④2A+3T ⑤3F+2T+2Lo ⑥3S ⑦3Lz
  
梨花ちゃんの良いところは、6種類のジャンプが教科書通りに跳べて、得意、不得意などのバラツキを感じさせないところにある。動画の後半は、演技のリプレイになっていて、全部のジャンプをスローで再生してくれるのだが、これがとても良い勉強になる。僕が6種類のジャンプをどうにか見分けられるようになったのも、この動画のおかげと云っていい。

で、世界初の快挙を成し遂げた梨花ちゃんだが、この年の全日本ジュニア選手権では、総合順位11位と惨敗してしまう。

冒頭のトリプルアクセルで片手をつくと、一気にスピード感を失ない、後半のジャンプで2回転倒。3サルコウに2トゥループをつけるなど懸命なリカバリーを見せるものの、成功したジャンプでも回転不足をとられるなどして、フリーの得点は100点にも満たず、6位以上に与えられる全日本選手権の出場権を得ることさえできなかった。

世界初の快挙を成し遂げ、当時のジュニア女王ザキトワ選手を破った子が、国内選手権の出場権さえ獲得できなかったのである。調子に波があると云っても程がある。が、ジュニア時代は身軽な反面、技術的・精神的には未熟であるから、トリプルジャンプ6種類8回という構成は、やはり14歳の彼女には分不相応であったのだろう。YouTubeに動画もあるが、まあ、貼り付けるのはやめておこう。

大躍進の今シーズンでさえ、減点無しで6種類8回を達成したのは、NHK杯のフリーだけだと思う。
同じNHK杯のフリーでは、トゥクタミシェワ選手も3アクセルを成功させているのだが、彼女は3フリップを跳んでいないし、浅田真央選手も、サルコウとかルッツが苦手で、絶頂期でも跳ばない時期があったので、3アクセルが跳べるからと云って、6種類を全部揃えるのは容易いことでは無い。シニアになって技術的に成熟したとしても、今度は体の成長という問題を抱えたりもする。

実は、梨花ちゃんが出場できなかった2016年の全日本選手権というのは、浅田真央選手が出場した最後の大会でもあった。この大会で浅田選手は12位におわり、平昌オリンピックを前に、競技生活から引退してしまう。二人のアクセルジャンパー、紀平選手と浅田選手との共演は、遂に実現することはなかったのである。

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