2023年3月19日日曜日

松本零士「男おいどん」「戦場まんがシリーズ」「ワダチ」

漫画家「松本零士」先生が逝去されました。訃報がマスコミ各社によって報道されたとき、氏の代表作として紹介されていた作品が「宇宙戦艦ヤマト」と「銀河鉄道999」でした。

宇宙戦艦ヤマトは、僕が最も影響を受けたアニメですし、銀河鉄道についてはそれほどの思い入れはありませんが、氏の代表作とすることに異論はありません。ただ、ヤマトについて云えば、松本零士氏は、宇宙戦艦ヤマトのキャラクターデザインを担当しましたが、ヤマトの原作者ではありませんし、企画の中心人物でもありません。ヤマトの各キャラクターは確かに松本零士作ですが、物語の構成は全然松本零士っぽく無いですよね。

とは云っても、キャラクターあってのアニメーションですから、「ヤマト=松本零士」というイメージが、これからも残っていくのでしょう。それにしても、宇宙戦艦ヤマトって格好良すぎです。まあ、元になった旧帝国海軍の戦艦大和が理想的な船型だったってこともありますし、それに宇宙船としてのアレンジが程好くされていて、子どもだった僕は、一目で虜になってしまいました。

で、ヤマトは横に置いといて、僕が、松本作品の中で印象に残っている作品をあげるならば、「男おいどん」と「戦場まんがシリーズ」でしょうか。あと「ワダチ」も喜んで読んでました。

「ワダチ」は、世間的に無名ですし、それほど高い評価を受ける作品では無いかもしれませんが、日本中の建物を取り壊して瀬戸内海を埋め立てるとか、奇想天外なストーリーに、子どもだった僕は惹き付けられました。松本先品は、出てくるキャラクターが全部同じなので、いろんな話が記憶の中でこんがらがっていますが、印象に残っている場面は、新国連軍の攻撃から移民宇宙船を守るために、老い先短い老人たちが盾となって、対戦車ミサイルをぶっ放しているところとか、移民した「大地球」の木が意思を持ち歩き回っているとこでしょうか。終末思想にエヴァンゲリオンっぽさを感じるのは、僕だけでしょうか。そういえば、「浦沢直樹」氏も「ワダチ」に衝撃を受けたとネット記事にありました。僕は、浦沢氏と、ほぼ同世代ですので、その気持ちよく分かります。

「男おいどん」は、「週刊少年マガジン」で1971年から2年間にわたって連載された「四畳半漫画」です。僕は、この漫画で、この世に「ラーメンライス」なる食べ物があることも知りました。親にせがんでマネしたような記憶があります。さすがに「玉子酒」はマネしませんでしたけど・・・。

この作品は、氏と氏の下宿仲間たちの実体験を描いた作品とされていて、作者の人生観が、台詞の1つ1つに表れています。今思うと、若干、説教臭い感もありますが、子どもだった僕には、その一言一言が心に響いたものです。

そんな漫画を喜んで読んでいた僕も、やがて学生になり下宿生活を送ることになりました。「おいどん」とは違って、田舎の学生ではありましたが、農家の納屋を改造した全6部屋の間借りで、風呂無し、流し・トイレ・玄関共同の生活を送っていました。家賃は8000円。僕は、仕送りもそれなりにもらっていたので、極貧な生活というわけではありませんでしたが、それでもテレビはなくって、ラジカセが唯一の情報源。布団は万年床で、冬はコタツで寝ていました。一週間分の洗濯物をボストンバックに詰めて、歩いて15分のところにある銭湯に通ってました。もう少し近いところにも2軒ほど銭湯があったんですけど、そこが一番広くて気持ち良かったんですよね。気になって調べてみたら、今もちゃんと営業していてびっくり、市内で残っている唯一の銭湯とありました。

僕にとって、これぞ松本作品と云えるのは「戦場まんがシリーズ」でしょう。バッグナンバーを床屋や歯医者の待合室で断片的に読んだだけですので、未読の話もかなりあるかと思います。以前、このブログにも投稿した「亡霊戦士」とか「成層圏に鳴くセミ」の記憶があるので、第4巻「わが青春のアルカディア」は、読んでいたようです。

零士氏の父親は、旧帝国陸軍の佐官で、軍用パイロットの草分け的存在だったそうです。戦時中は飛行学校の教官を務めていたともありました。戦後は、自衛官への誘いを頑なに拒み、炭焼きや野菜の行商を生業とし、かなり貧しい生活を送っていたそうで、その生き様は、松本零士氏の戦争漫画に大きな影響を与えたと云われています。

この物語で登場するのは、敗色濃厚な日本軍やドイツ軍の兵士です。敵味方を善悪で分けることなく、戦場における男の戦いを、両軍の立場から描いています。その作風は、決して戦争賛美ではなく、かと云って反戦漫画でもなく、戦争をロマンにしていると云えばそうかもしれませんが、理系目線で第二次世界大戦を描いた物語は、軍事ヲタク少年であった僕には、とにかく格好良く思えました。

松本零士氏の作品の中で、最も再読したいと思ったのが「戦場まんがシリーズ」です。