2021年10月31日日曜日

米津玄師の「Lemon」を歌った「丸山純奈」の進化

この歌を聴くために、ちゃんとNHK+に登録しましたよ。MCを別撮りにするなど、コロナ禍での苦労が窺えた放送でした。公開収録でありながらのノーレスポンス・ライブですから、音楽祭っぽさは感じられませんでしたけど、開催できて何よりです。丸山純奈さん(すーちゃん)は、収録のステージでは2曲歌ったとのことでしたが、放送されたのは米津玄師氏の「Lemon」のみ。まあ、よくある話であります。


さて、「Top-Girls1」さんが、歌唱テイクを上げてくださいましたので、早速、視聴させていただきましょう。確か、埋め込み不可ですので、リンクになるかと思います。東京の高校3年生が、アコースティックバンドをバックにして歌う「Lemon」ですよ。

なんか、ドクターの声が聞こえてきた気がしますけど、それ必要かなぁ。

で、3年前、徳島の中学3年生の「Lemon」が、こちらになります。こちらも生バンドですね。さて、進化の具合は如何でしょうか。

真っ先に気付いたのは、キーを上げたことでしょうか。前のは、一番高い音を地声で出せるキーに合わせといて、出だしの低音を頑張るっていうチャレンジングな歌唱でしたけど、今回は、低い音を無理なく出せるキーにして、高音は裏声を使う正攻法の歌唱に変えてきました。歌を聴かせるか、声を聞かせるかってところですけど、感情を込めやすい今回の方が、無難な選択かと思います。歌怪獣さんだったら、きっと地声で張り上げてくるでしょうね。

最後のレモンの「レ」は、難しいですね。地声だと上がりきらないし、裏声だと戻すのが大変そうです。たくさんの歌自慢がカバーに挑戦してますけど、皆さん苦労しているところでした。

後は、ブレス音が少し気になったでしょうか。まあ、楽曲によってはワザと入れる時もありますから、良い悪いの話ではないんですけど。それから、最後の方で時々視線が下がるのは歌詞のプロンプターでも見てたのかなぁ。

すーちゃんは、前回歌った「ハナミズキ」とか、TikTokに投稿した「糸」みたいなバラード系の方が良さを出せるとされていたし、その通りだと思っていたから、「Lemon」を歌ったと聞いた時は、ちょっとビックリしました。でも、歌うだけで精一杯になりそうな曲を、情感込めて歌えたのは、さすが、すーちゃん。特に、歌の出だしからサビ前のところが良かったです。あんな優しい声で歌うことって、今までなかったように思います。サビから先は、いつもの純奈節になりましたけど。

ただ、びっくりするくらい上手くなっているかって云われると、どうなんだろう。確かに、発声とかは安定していると思うけど、高校1年生の時から、このくらいは歌えてたような気もしないではありません。

同じ三年間だったら、高校の3年間よりも、POLUのボーカルとして活動していた中学の3年間の方が、歌唱は確実に進化したと思います。歌唱力を向上させる一番の方法は、ステージに立って人前で歌うことでしょうから。でも、あのまま、歌い続けていたら、今頃は燃え尽きていたかもしれません。

僕は、すーちゃんの進化の時計は、それほど進んでないと思います。でも、それは、これから進化していくために、つまり、内面を成長させるための必要な停滞なんだと思いますし、そうあって欲しいです。

インタビューでは、デビューの話もしてくれました。見出しが「デビュー控える高3シンガー」ですから、来年のデビューは、ほぼ確実(!?)のようで、嬉しい限りです。なにせ、事務所は天下の「トライストーン」。小栗旬さんとのバーターで、大河ドラマに村娘の役でカメオ出演したり・・・妄想は膨らむばかりです。

すーちゃん、中学2年生の歌唱を貼り付けさせていただいてお終いにします。小柳ゆきさんの「あなたのキスを数えましょう」ですけど、この時は、山田姉妹(妹)に惨敗したそうですよ。

上手いかも知れないけど、それだけですかね。一本調子になっているのは、感情の込め方が分からないのかなぁ。でも、「Lemon」を歌った今のすーちゃんだったら、きっと良い勝負になると思います。

2021年10月23日土曜日

フィギュアスケート「紀平梨花」~女子4回転の功なき絶望の時代~

紀平梨花選手(梨花ちゃん)ですが、今シーズンから念願のカナダ入りしたかと思えば、あっちが痛い、こっちが痛いと言って、全然試合に出てきません。左足首を痛めて一年近くルッツを封印していたのが昨シーズン、その後は腰を痛め、今度は右足首の「骨軟骨損傷」だそうです。

体が少しずつ変化していく中で、高回転ジャンプの練習ばかりしていましたからね。どこか1カ所を痛めると、その影響で別なところも痛めてしまうなんてことは、よく聞く話です。フィギュア選手は、どこかしら故障を抱えているものだそうですけど、症状が長引いているのは心配です。

夏には、デービッド・ウィルソン氏の振り付けによるフリー演技「タイタニック」の披露がありましたけど、楽曲も振り付けも、それからスケーティングもわくわくしないんで、コメントもスルーしてしまいました。今の梨花ちゃんのスケートは、見ていても全然楽しくありません。きっと梨花ちゃんだって、滑っていても楽しく無いんじゃないかと勝手に思っています。


ダイジェスト映像のようですね。腰を痛めていて、狭いアイスショーのリンクで、これだけ滑れればたいしたものです。わくわくしないと言った前言は、訂正、お詫びさせていただきます。

解説が入っていませんから、代わりに私がジャンプ構成を・・・。
①3S  ②2A+1Eu+2S  ③3S  ④3S+2T  ⑤2A+1Eu+2S
で如何でしょうか。2アクセルとサルコウしか跳んでませんね。絶不調の時の構成であります。まあ、フリーのお披露目にはなってませんけど、アイスショーとして見れば問題ないでしょう。

今になって思うと、代表枠を3つ取れていたのは、良かったです。梨花ちゃんは、NHK杯も欠場して、年末の全日本選手権での一発選考にかけることになるでしょう。結果如何によらず代表に入るでしょうけど、調子が上がらないのに代表決定なんてことになれば、アンチがすぐに騒ぎ出すに違いありません。でも、そのための3枠目ですからね。1,2枠は実力でも、3枠目は大人の事情で決まるというのが、昔からの日本式選考方法です。


イマイチなのは、梨花ちゃんだけではありません。北京オリンピックでは金メダル確実と言われていた「コストルナヤ」選手も本調子ではないし、僕が密かに応援している「シェルバコワ」選手(アーニャ)も怪我の後遺症に苦しんでいるようです。「トルソワ」選手(サーシャ)も怪我をしているとのことです。アメリカも韓国の選手も、みんな全然輝いてません。結局、頑張れてるのは、ベテランの「トゥクタミシェワ」選手(リーザ)と新人の「ワリエラ」選手だけの印象です。ロシアのオリンピック代表枠も日本と同じ3人。これをリーザとワリエラが獲得すると、今まで表彰台を独占してきた「コストルナヤ」「アーニャ」「サーシャ」の中で、オリンピックに出場できるのは、一人だけであります。僕が新横浜で、3人娘を見た時は、本当に輝いていましたからね。こんなことになるなんて予想もしてませんでした。

先月、世界選手権で4Sを女子で初めて成功させた、カザフスタンの「トゥルシンバエワ」選手が引退してしまいました。無理もありません。減量をしながら4回転の練習ばかりしていたら、体に良くないのは素人にも分かります。こんなことをしていれば、誰だって、いずれ怪我をしてしまいます。

怪我をする前、つまりシニアに上がったばかりの年に、運良くオリンピックを迎えられた選手が活躍するという、生年月日でメダルが確定するような情況は、スポーツとして正しいはずがありません。

腰を痛めてから、4回転ジャンプについて消極的な発言が目立つ梨花ちゃんですけど、今回の怪我で、4Sや4Tへの挑戦は完全に無くなったと思います。北京オリンピックまでに、2018年のグランプリファイナルのレベルに戻せれば御の字じゃないでしょうか。グランプリシリーズを欠場したのは、「ブライアン・オーサー」新コーチの指示とも伝えられています。良い結果を期待するばかりです。

恐らく、アーニャは、もう4回転ジャンプを跳ぶことはないと思います。4Lzなどは、ずっとプレローテーションとかで叩かれていて、今までは、ぎりセーフという扱いでしたけど、ジャンプの質が下がってくると、もう見逃してはくれないと思います。昨シーズンの世界選手権は、3Aも4回転も無しでチャンピオンになっていますからね。疑惑の4回転に固執するよりも、演技の質を高めた方が彼女は輝けるし、僕も嬉しいです。

サーシャは跳び続けると思います。彼女にとって4回転はスケートそのものですから。でも、成功の確率は確実に下がっています。強豪揃いの中で3枠しかないロシアの代表権を獲得できるか微妙です。

結局、北京オリンピックで4回転を跳ぶ選手って、ワリエラだけなんですよ。ワリエラのニックネームは「絶望」。相手に勝ち目のない演技を見せつけて絶望に追い込むのが彼女の凄さ。北京オリンピックは絶望の時代になるのは確実とされています。でも、そのワリエラだって、次のオリンピックは分からないわけです。

フィギュアスケート女子に、4回転時代なんて来てたんでしょうか。

2021年10月17日日曜日

「もちまる日記」の炎上に心を痛めている人間がこちらです

世の中には、犬派と猫派がいるようだ。僕は、どちらも飼った経験が無いのだが、圧倒的に猫派である。

犬は、上下関係の中で生活する生きものである。対等は有り得ない。自分より偉いと思えば、尻尾を振るし、下だと思えばマウントを取りに来る。人間にもそういうヤツがいる。そして、僕は、下に見られることが多かった。だから、相手によって態度を変えるヤツは、例え僕がチヤホヤされる側だとしても、嫌いなのである。

仏像巡りで寺院に行くと、よく野良猫に出会う。拝観していたお堂の中から、猫が出てきて驚いたこともある。(危うく、野良猫を拝むところだった。)ここを縄張りにしている彼らは、重要文化財の建物だろうが自分の物だと思っているから、侵入者である僕を睨み付けてくる。一方、僕だって、拝観料を支払っているわけだから、引き下がるわけにはいかない。こういう対等な緊張感は、相手が犬では味わえないだろう。

猫の仕草は、見ていて飽きない。その理由の1つは、前足の使い方にある。犬にとっての前足は、足でしか無いのだが、猫の前足は、手として使われている。怪しいものをつんつんしたり、獲物をキャッチしたりできる。親猫が仔猫を前足で抱きかかえて舐め回す仕草も猫ならではである。

犬の喧嘩は、野蛮に噛みつき合うだけだが、猫の喧嘩は、取っ組み合って、キックもパンチも繰り出す、正に格闘である。世の中には、暇な人も多いようで、YouTubeには、猫の喧嘩を撮影した動画がたくさんアップされている。

そんな猫の動画を面白がって見ていた僕に、ユーチューブのAI機能が、お勧め動画を提案してきた。リモートワークで在宅勤務をしている「下僕」さんが、立ち耳のスコティッシュフォールド「もちまる」との暮らしを綴った、YouTubeチャンネル「もちまる日記」の動画である。

猫との平凡な日常を記録した、何の刺激も無い動画なんだが、ついつい見てしまった。清潔感有りまくりな部屋で、猫との優雅な二人暮らし。かなりの人気チャンネルのようで、2021年9月には「YouTubeで最も視聴された猫」としてギネス世界記録に認定されたそうだ。チャンネル登録数が150万以上、総再生回数は、7億回を超えているそうだから、かなりのものである。フォトブックやカレンダーも発売されているらしい。

「もちまる日記」の人気の理由は、もうすぐ2才の雄猫「もち様」の可愛らしさにあるのはもちろんだが、飼い主である「下僕」氏の動画センスが大きいだろう。動画には、飼い主の手が写ることはあっても、顔や声が入ることは無く、動画は字幕だけで進んでいく。で、この字幕の付け方が、じつに上手い。そりゃあ、中には、本当にそうなの?ってのも無いことはないが、表情豊かな「もち様」の仕草に、あの字幕がつくと、見ているこちらが癒やされる。それを、4分程度の動画とはいえ、ほぼ毎日更新してくるんだから、恐れ入るばかりである。

もう一つは、「もち様」と「下僕さん」の、男同士の友情と信頼関係であろう。もち様が去勢手術を受けることになったとき、下僕さんは猫にだけ絶食させるのは申し訳ないと、(多分、本当に)自らも絶食したらしい。そりゃあ、中にはヤラセもあるだろうけど、下僕さんが、愛情を込めて飼育しているのは、確かなことに思う。

そんな「もちまる日記」だが、注目されるにつれて、叩かれることも多くなってきたようだ。マネジメント契約とか、フォトブックの発売など、ビジネスが絡むと風向きも変わってくる。ワニの時もそうだったけど、ネットの世界というのは、未だにビジネス化への拒絶反応があるからだ。動画の人と猫との素敵な関係が嘘っぱちじゃないかというのがアンチの指摘するところだが、そう云われてしまうと、そんな気になってしまう自分がいる。人の心は、猫以上に変わりやすいってことか。             

でも「もちまる日記」は、ドキュメンタリーでなくって創作物なんだから、作られた舞台での演出は視聴者も承知しているはずだ。年収が億を超えたとしても、それは下僕さんの動画編集の才能に対する正当な対価であるし、人間様が飼い猫を金儲けに利用したことだって、悪いこととは思えない。

ユーチューバーとして生計を立てるのであれば、期待される動画を上げるのは至上課題だろうし、確かに挑発したり、からかっているような動画を配信している時もある。僕は猫の習性に関する動物実験だと思って見ていたけど、中には、それを動物虐待だとする人もいるってことのようだ。気ままな猫が相手なんだから、ネタが無い日は休止すれば良いと思うし、日常なんだから同じような動画が続くことも致し方ないと思うけど、仕事とあれば、そういうわけにもいかないとすれば悲しいことである。

このチャンネルで視聴者が癒やされていたのは、もち様の可愛らしさだけでなく、下僕さんの優しさによるところが大きかったと思う。人って、こんなにも優しくなれるんだってのが、伝わってきた。飼い主の優しさに癒やされる・・・それは、擬似的とは云え、猫と人間との「対等」な関係が演出されていたからこそで、「もちまる日記」の人気の秘密もそこにあったんじゃないのかなぁ。

ではこのへんで、ばいばーい

#もちまる日記  

2021年10月9日土曜日

「丸山純奈」がNHK「もっと四国音楽祭2021」で米津玄師の「Lemon」を歌うらしい

高知県民文化ホールで行われた「もっと四国音楽祭2021」の公開収録は、無事終了したとのことである。今は、10月29日の放送にむけての編集作業を行っている頃だろうか。

コロナ禍での収録となった今回は、観覧者数がかなり絞られていたようだ。元所属事務所のアクアチッタさんも落選したらしい。(僕的には、落選したことよりも、応募したことの方が驚きでしたけど)

「あおぐみ」さんたちも観覧希望の葉書を出したものの、ことごとく落選との報告があった。そのため、収録時の情報が全然伝わってこなかったのだが、番組のテーマソングである「ふるさとの色」と米津玄師氏の「Lemon」を歌ったらしいことが分かった。情報元は、公開収録に参戦されていた「三山ひろし」さんのファンの方とのことで、感謝である。

「Lemon」は、過去にも歌っているし、米津氏は徳島県の出身ってこともあるから、完全な予想外ってわけではないんだけど、ちょっと意外な選曲ではあった。

で、誰?

音楽祭も今年で4回目だから、四国を一巡したことになる。丸山純奈さん(すーちゃん)は、皆出席(昨年はVTR出演)だ。公開収録された歌は、過去2回ともカットされていないから、今回も大丈夫と信じている。

すーちゃんは、最近は精力的にTikTokへの投稿を行っていたようだ。僕もいくつかは、聴いてみたんだけど、どれも声を張り上げるだけの似たような歌唱に思えた。まあ、これは、60秒間という制約のなかで歌を披露しているからであろう。そういう意味でも、すーちゃんが、1曲丸ごとちゃんと歌うというのは、本当に久し振りのことなので大変楽しみである。

放送は四国限定のようだが、BSかオンデマンドで流して頂けると信じている。

NHKの金曜日の7時30分というのは、ローカル局の時間帯である。先週の静岡放送局では、新東名の浜松SAに置いてある街角ピアノに定点カメラを設置して・・・なんて番組をやっていた。それなりに面白かったんだけど、60才でピアノを始めました、なんていうオジさんの拙い演奏を県民に聴かせるんだったら、ちゃんとお金をかけて制作した、歌怪獣さんや、けん玉演歌歌手さんのステージを放送した方がずっと良いと思う。29日の放送が、街角ピアノの続編とかだったら悲し過ぎる。

さて、すーちゃんは、3年前の、2019年2月9日のライブでも「Lemon」を歌っていて、母上様が歌唱の一部をツイッターに投稿してくださっている。

当時のブログの記事を再掲させていただこう。

ついこの間までのテイクだと、低音は厳しいかなと思ってしまう場面があったのだが、確実に成長しているのは、嬉しい限りである。歌手の世界では、高音が出せる男と、低音が出せる女こそが無敵だからだ。そして、特筆すべきは、Cメロの部分であろう。時間制限のあるTwitter動画で、この部分を選んで貼り付けたのは、このCメロを聴いて欲しかったからに違いない。この歌は、渇ききった無機質のような世界観が特徴で、米津氏の歌唱も正にその通りなのだが、歌詞の内容は、それとは真逆の昭和の演歌調であるところが面白い。多分、そのギャップが、彼と、この歌の魅力なのだろう。米津氏のそれと比べると、彼女の歌唱は、切なく重く湿ぼったい。そして、血の通った人肌の温もりを感じる。これが純奈節である。純奈節である限り、彼女の歌唱はモノマネにはならない。実は、歌詞の世界観からすれば、こちらの歌唱の方が自然だと云えなくも無い。もちろん、米津氏のファンからすれば、こんなの「Lemon」じゃないとなるだろうが、虫の音と鳥のさえずりのように、質的に異なるわけだから、どちらが好みかということはあっても、どちらが良いかという比較は意味を成さないのだ。彼女は、このステージから一週間後のライブでは、「Lemon」は歌わなかったらしい。これだけ完成度の高いカバーを、たったの1回しか披露しないと云うのだろうか。ファンからすれば勿体ない話だが、彼女にしてみれば、これも数ある挑戦曲の1つに過ぎないのだろう。

もっと四国音楽祭のステージでは、どんな歌唱を披露してくれるのだろう。3年間の進化を実感できる日が楽しみである。

本当にあの(東京っぽい?)お姿で出演したのかなぁ。

#丸山純奈 #もっと四国音楽祭2021

2021年10月3日日曜日

斎藤佑樹投手と早慶戦

 汗はハンカチで拭うようになった。以前は、(子どもの頃からずっと)シャツの袖か何かで、適当に拭いていたんだけど、試しにハンカチを使ってみたら、調子良いこと此上なかったからだ。きっかけは、もちろん「ハンカチ王子」こと「斎藤佑樹」選手である。

その斎藤選手が、現役を引退するらしい。ここ数年は、怪我とかもあって、全く結果を出せていなかったようだから、早いとこ見切りを付けた方が良いんじゃないかって思ってたんだけど、ここまで引退しなかったのも、契約を打ち切られなかったのも、きっと深い理由があってのことだろう。まあ、プロ野球に全く詳しくない僕には、難しくて関係の無い話である。

何だかんだ云っても、2006年の甲子園は面白かったし、凄かった。その後の「ハンカチ王子」のフィーバーぶりはドン引きするレベルだったが、それは、斎藤投手の甲子園での活躍があってこそだ。キレのあるストレートに多彩な変化球。クールなマウンドさばきにクレバーな投球、それでいて、ここぞという場面では、明らさまに三振を取りにくるハートの熱さ。まるで水島新司の野球漫画から、そのまま飛び出てきたようだった。早稲田実業の試合を見た僕は、彼の投球に魅了され、それからの早実の試合は、都合の付く限り見るようなった。

決勝戦は、奈良のホテルで見た。仏像巡りを始めた頃で、とにかく暑い日だった。早めにホテルにチェックインして、テレビを付けた。マー君と投げ合って再試合になった、あの試合である。スコアは1対1。延長15回まで、互いにピンチを凌ぎ合う展開は、スリリングで水島新司の世界そのものだった。

やがて、斎藤選手は、早稲田大学に進学した。それもスポーツ科学部でなくって教育学部だ。

彼が大学2年生の頃、父を誘って、2回ほど早慶戦を見に行ったことがある。僕の父は漁師の倅で、大学進学を希望したものの、結局、叶わなかった。そのためだろうか、父は大学スポーツが大好きで、野球も駅伝も、ずっと早稲田を応援していた。正月には、箱根駅伝のラジオ中継を聴いていたのを覚えている。テレビでの中継が始まるずっと前、箱根駅伝が今のように注目されていない頃の話だ。そんな父と、自分の興味半分、親孝行半分で、神宮球場に行ったわけである。

早慶戦は、「佑ちゃん」人気で賑やかだった。外野席までほぼ満席だったし、おばちゃんたちの黄色い声援もあった。慶応の応援席には、付属の子どもたちも来ていた。応援団は、内野と外野に1つずつ、双方合わせて4つあって、それぞれがエールの交換をするので、やたら時間がかかる。内外2つの応援団は、連携しているようだが、厳密にコラボしているわけでは無いから、熱が入ってくると、球場全体がカオスになって、何が何だか分からなくなった。

早慶戦では、早稲田が一塁側と決まっている。これは、1933年に慶應の三塁手「水原茂」に早稲田の応援席からリンゴが投げられて、騒動になったことが発端らしい。以来90年間、早稲田の応援席は、一塁側に固定されているそうだ。でも、それだと今度は慶応の一塁手が困る、って、物を投げることを止めさせれば良かっただけの話じゃないのか。まあ、早慶戦というのは、そんな感じで、1つ1つが伝統という名の決まり事で支配されている、面白い世界だ。

僕は、中学生の頃、吹奏楽をやっていて、中体連の野球部の応援に駆り出されたことがあった。僕らは、高校野球のマネをしていたわけだけど、その高校野球の応援団は、大学野球の真似事をしていたわけで、それはプロ野球の応援スタイルにも影響を与えているはずだから、日本式野球観戦の原型は早慶戦にあると云って良い。

僕らは一塁側の、でも応援団からは少し離れた席に座った。そこからは、慶応の応援団がよく見えた。ちょっと考えれば分かることだけど、応援というのは、相手に見せるためにある。だから、一塁側に座ってしまっては、自分たちの、つまり早稲田の応援は聞こえないのだ。でも、慶応の応援も凄く格好良かったし、僕らは、無縁ではあったけれど憧れだったその場に居ただけで満足だった。

昨年の秋の早慶戦らしい。音速と光速の差がよく分かる。コロナ禍により、観客は内野席に入れて声無し応援。応援団は外野席で活動とのことだった。これって野球と応援が、両方バッチリ見れて最高のステージになっている・・・けど、声無しじゃぁ、つまらないか。

 肝心な試合についてだけど、早稲田が斎藤投手の好投でリードするのものの、終盤に打ち込まれて、逆転負けみたいな試合だったと記憶している。斎藤投手は、大学でも活躍はしていたけど、早稲田実業の時のような凄さは、もう感じられなくなっていた。

スタンド裏の売店で弁当を買っていたら、斎藤選手がすぐ横を通り過ぎていったことがあった。オーラはあったけれど、普通の男子だったように思う。調べてみたら、身長176cmとあったから、野球選手の中では小柄な方だ。桑田真澄選手の例があるにしても、プロのピッチャーとして活躍するには難しかったのかもしれない。大谷君をみていると、体がデカいというのは最高の才能なんだと、つくづく思う。

引退試合の発表もあった。プロで15勝しかあげていない投手に、如何なモノかという批判もあるようだ。たぶん、先発して、先頭打者と対戦したら、すぐに交代じゃないかと思う。相手打者がわざと三振ってこともあるらしいけど、その時は、裏の先頭バッターも打たないというのが、暗黙のルールらしい。そんな茶番劇を公式戦で行うことに、プロ野球を冒涜する行為という意見もある。けど、それで、最下位に低迷するチームの観客動員がちょびっと増えて、多少なりともグッズが売れるんだったら、興行的にはアリなんだろう。プロ野球の世界では、客寄せパンダの価値しかなかったことは悲しいが、それも仕事(プロ)ならば、致し方のないことである。

斎藤選手を指導者に、みたいなコメントもあった。ファイターズに残るという報道もあるらしいけど、アマチュア野球の指導者なんて如何だろうか。(教育学部卒なんだし)アマチュア野球で輝いていた選手なんだから、アマチュア野球に戻ってくるのが一番に思う。早稲田大学のコーチにでもなって、ゆくゆくは監督ってのも良いし、高校野球の解説者とかやってくれれば、嬉しいこと此上ない。


#斎藤佑樹引退  #ハンカチ王子 #早慶戦