夏目漱石が旧制松山中学の教員だった時の話である。「I love you.」を「我、君を愛す。」と訳した学生に、「そんな日本語は無い。そういうときは「月が綺麗ですね」とでもしておくものだ。」と教えたそうだ。まあ「I am a cat.」=「我が輩は猫で或る」なんて云う日本語だって似たようなものだから、漱石がホントに言ったか怪しいものだが、意訳の難しさを表す有名なエピソードではある。ちなみに、二葉亭四迷は、それを「死んでもいいわ。」と訳したそうだ。
で、松浦亜弥さんのカバー曲にノラ・ジョーンズさんの「Don't Know Why」があって、頑張って英語で歌っているのだが、これがあまり戴けない。彼女の発音があまりにも昭和的カタカナ英語なのが理由の1つなのだが、かといって、訳詞で歌うよりはマシなのだろうとずっと思っていた。やはり英語の歌は英語で歌うべきだと。
でも松浦亜弥さんが「Feel Your Groove」を日本語で歌っているのを聴いて、ちょっと考えが変わってきた。本当の意味で心に響いてくるのは、ネイティブで語ったときかもしれないからだ。
I waited 'til I saw the sun
I don't know why I didn't come
I left you by the house of fun
I don't know why I didn't come
I don't know why I didn't come
When I saw the break of day
I wished that I could fly away
Instead of kneeling in the sand
Catching teardrops in my hand
My heart is drenched in wine
But you'll be on my mind
Forever
Out across the endless sea
I would die in ecstasy
But I'll be a bag of bones
Driving down the road alone
My heart is drenched in wine
But you'll be on my mind
Forever
Something has to make you run
I don't know why I didn't come
I feel as empty as a drum
I don't know why I didn't come
I don't know why I didn't come
この楽曲で何回も登場する重要なフレーズが「I don't know why. I didn't come.」である。直訳すると「自分でもどうしてなのか分からない。私は彼のところに行かなかった。」であろうか。これ、何と意訳すればいいんだろう。もちろん唱えるようにである。って、なんで「come」なんだ?
例えば、I feel as empty as a drumの「drum」の解釈1つとっても、太鼓とか、ドラム缶とかいろいろあって、様々な解釈に基づいた全然違う訳文が出てくる。
僕らの感覚から云うと、太鼓とドラム缶は全然ベツモノだ。でも向こうの人に「drum」って太鼓なのドラム缶なのって聴いても、ドラムはドラムだよって答えると思う。密閉されて中身の無いものは全部ドラムであって、概念からして違うのだ。つまり、ここを太鼓とかドラム缶とか訳してしまうと、踏み込みすぎってことになる。