2020年7月25日土曜日

「アシガール」に登場する家族とその魅力 ① ~主役の二人と速川家~

昔と比べると、コミックを実写化したドラマってホントに多くなったと思う。まあ、それだけ日本のコミックのレベルが高いってことなんだろうけど、画がそのまま使えるアニメ化と違い、人間が演じる実写化は、人物に違和感が出ちゃったり、世界観を表現しきれなかったりと、いろいろと難しいこともあるようだ。そんな中で、実写化の成功例とされているのが、NHKドラマ「アシガール」だ。

いきなりですけど、SPドラマのラストシーンです。


で、こちらがコミック12巻のラストシーン。アシラバさんによると、このコマはコミックの方がドラマに合わせて挿入したらしい。


というわけで、今回は、コミックとドラマを見比べながら、アシガールの登場人物とその家族について妄想してみた次第である。


1.まずは主役の二人から


アシガールがドラマ化されるにあたって、主役の「速川唯」については原作者さんからの指名(内田Pのオファーとも)で黒島結菜さんに決まっていたそうだが、若君はオーディションをしたらしい。
当時、コミックは7巻までが刊行されていて、すでに多くのファンが付いていた。ファンの若君に対する思い入れは熱く、伊藤健太郎君(当時の芸名は健太郎)に決まったときも、イメージに全然合ってないとか云われちゃったそうだ。今では、想像もできない話である。


アシガールのカップルは、どこまでも格好いい若君と、ちんちくりんな女子高生という、典型的な凸凹カップルだ。コミックの速川唯は、計算高いところもあって意外と性格も悪い。オマエみたいな男がホントにこんな彼女で良いのか、ってツッコミを入れたくなるようなカップルだ。まあ、ドジな女の子に王子様キャラの彼氏っていうのは、少女漫画によくある設定だ。多分、読者が感情移入しやすいんだろう。

若君は、少女漫画では盛り放題だが、生身の人間はそうはいかない。どんな好青年だって完璧なんて有り得ない。で、唯之助を演じる黒島結菜さんは、女優だからそれなりに可愛い。だから、コミックでは凸凹カップルだった二人が、ドラマでは程よく釣り合って、お似合いカップルになっちゃってる。


こんなドラマみたいなカップルを街中で見かけたら、ガン見しちゃうだろう。(ドラマでした。)

アシラバさんたちの中には、二人がリアルでもお付き合いしてくれれば良いのになんて思っていた人もいたようだ。特に、健太郎君の中年オバさんファンからは、結菜ちゃんならOKみたいな書き込みがあった。まるで、息子のお嫁さん選びである。

でも、共演をきっかけに交際ってことにはならなかったようだ。番宣などでの二人を見ているとなんとなくのよそよそしさを感じる。どちらかと云うと、伊藤君が遠慮気味な感じがする。二人は同じ1997年生まれだけど、黒島さんの方が学年が1こ上ってこともあるかもしれないし、収録が始まった頃は、役者としての実績は黒島さんの方がちょっと上だったってこともあるかもしれない。

黒島さんのインタビュー記事には、同世代の共演者よりも、スタッフさんとかベテランの俳優さんとかと話をすることが多いと書いてあった。もしかしたら、同世代の男からすると、取っ付き難い雰囲気を持っているのかもしれない。アシガールの現場でも、この二人って、ほとんど話などして無いんじゃないかって思う。

今年になって、二人には、それぞれ熱愛報道があった。伊藤君には活発な女の子の彼女ができたようだし、黒島さんは落ち着いた大人の彼氏とお付き合いをしているようだ。これをきっかけに、二人とも素敵な大人の役者へと成長していくんだろう。まあ、続編制作のことを考えると、リアルで付き合っていない方が、仕事がしやすいってこともあるわけで。


2.速川家の人々


コミックの速川家は、ごく普通のサラリーマン家庭という設定だ。母親は専業主婦で、弟の「尊」は有名進学校に通っている発明の天才だが、不登校ではない。

それと比べて、ドラマの速川家は、キャラが立ちまくっている。母親は内科と外科の開業医で、父親は家事が好きすぎて会社を辞めた専業主夫。弟はいじめられっ子の引き籠もりである。

母親が開業医というのは便利な設定である。若君が瀕死の重傷を負って平成に送り込まれた時も、救急車を呼ぶときにどうやって説明するかとか、入院したときの医療保険はどうするんだろうかとか悩まなくって済む。まあ、これはコミックだって同じ事なんだけど・・・。

コミックの速川家の両親は、常に受け身だし、常識的に悩んだりもするので、お隣に住んでいる向坂名誉教授の助けを必要とするのだが、ドラマの速川家は、とにかく明るくて前向きだ。引き籠もりの尊に対する態度もそうだけど、新型タイムマシンの起動スイッチの仕様書を提案するのも両親だし、戦国の皆さんに手土産を持たせようなんて発想も最高である。


僕は、最初にSPドラマを見たとき、若君は、このまま平成で暮らすのかと思った。若君は永禄では死んだことになっている(お墓もちゃんとある)し、唯の幸せを第一に考えたとき、若君が現代で生きるという選択をすることもアリだと思ったからだ。だから、この結末は、ちょっとした衝撃でもあった。

コミックの速川家は、常識的な家族であるから、唯たちが戦国時代で暮らすことを認めた場面では、無理をして納得しているっていうか、重苦しい雰囲気を感じてしまう。一方、ドラマにそれが無いのは、この家族だったら、若い二人の想いを認めちゃうんだろうなっていう大らかさがあるからだ。

コミックでは、御月家の家系図が発見され、そこには、戦国に戻った唯たちが、明治維新まで続いた緑合藩御月家の藩祖になっていたことが書かれていた。これで時空は完全にループし、唯は歴史を変えたのでは無く、唯の行動そのものが歴史だったことになった。

この場面を挿入することで、コミックの速川家と読者は安心することができた。だが、ドラマには家系図は出てこない。収録時にはコミックがそこまで進んでいなかったってこともあるのだろうけど、あったとしても、この家族には不必要だろう。


若君の、唯を伴って永禄に帰りたいというのは、彼のエゴだと思う。だけど、現代で暮らすのが幸せで、永禄で生きることが不幸だなんてのも、現代人のエゴでしかない。

誰も不幸にしない、ハッピーエンド・・・タイムトラベルもので、この結末ってアリなのだろうか。そんな懸念を抱かせない不思議な魅力が、この家族にはある。


実は、静岡県人は、唯の父親「速川覚」を演じている「古舘寛治」氏には特別の思いがある。静岡県限定の、パチンコ・コンコルドのCMにレギュラー出演しているからだ。コンコルドのCMは、炭焼きレストラン「さわやか」と並ぶ静岡県の名物で、インパクトのみのくだらないCMである。いや、インパクトすら無いと云っていいだろう。それでも「娯楽惑星コンコルド」とか「娯楽仮面コンケルド」とかやってた頃は、くだらない中にもストーリー性があって、ブラックなユーモアとか、人間にとって娯楽とは何かみたいな深遠なテーマがあった(と思う)のだが、2012年に古館氏が登場して「コンコルド人間、略してコンコルゲン」とかやりだしたら、本当にくだらないだけのCMになってしまった。       
だから「古舘寛治」氏は、静岡県では早くから有名だったけれど、しょうもない三流の喜劇役者だと思われていた。彼が大河ドラマ「直虎」に出演したときは、何かの間違いだろうってみんな思ったくらいだ。

もちろん、今では、彼が立派な俳優さんであることは、静岡県民だって知っているんだけど、コミックの速川唯の父親のイメージから、どういう思考回路を経れば古館氏のキャスティングになるのか、全く理解できない・・・・けど、それが最大のヒットなのかな。

と、思いの外、長くなってしまったので、今日はここまで。続きは近いうちに。

高山家の二人については、こちらの記事で。

2020年7月18日土曜日

戦国時代劇としての「アシガール」 ~羽木VS高山の合戦を検証する~

NHKラブコメ時代劇「アシガール」。再放送からの再ブレイク凄かったですね。NHKオンデマンドのドラマ部門ランキングでは、大河や朝ドラを押しのけて全13話が全て15位以内に入るという快挙。総合でも20位以内に4、5話がランクインしていました。DVDの売り上げも伸びていて、一時は在庫切れになったそうですし、コミックも1巻から最新刊までを大人買いする人がかなりいるとのことです。再放送とかしちゃうと、DVDなんて売れなくなるんじゃないかって思うんですけど、そういうものでもないんですね。

ブレイクの原動力は、スカーレットからの伊藤健太郎君のファンの方々のようですが、ついでに黒島結菜ちゃん可愛いなどと云って貰えるので嬉しい限りです。


「アシガール」では、物語の主人公である羽木(御月)家と、隣国の高山家は、祖父の代から領地を争ってきた宿敵という設定になっています。今回は、羽木家の宿命のライバル高山家を取り上げさせていただきます。


まずは、アシガールでの個性派キャラ。「村田雄浩」さん演じる高山家の当主「高山宗鶴」です。


こちらは、高山家嫡男で、「加藤諒」さん演じる「高山宗熊」です。


お二方とも「超」が付くほどの個性派俳優さんですね。高山家の二人って、コミックのキャラクターとは全然似てないんですけど、これが物語に見事にハマっています。

1.小垣城夜襲


さて、アシガールは、永禄2年にタイムワープした唯が、敗走する足軽隊に紛れ込むところから物語が始まります。

この時の戦では、小垣城を守る200人の羽木勢は、高山軍2000の夜襲に遭い、生き残った者18人(コミックでは28人)という惨敗を喫し、城も奪われてしまいます。
小垣城は、高山領と国境を接する最前線の城ですから、それなりに警戒をしているはずです。その城に対して、2000もの軍勢が敵に気付かれずに夜襲するのは極めて高度な戦術が必要で、そのことだけでも高山が如何に戦上手かが分かります。


国境の重要な拠点である「小垣城」を奪われたことは、羽木にとってはかなりの痛手になったようで、進んでいた松丸家との縁談(同盟)も保留になってしまいます。

2.小垣城奪還戦


ドラマ第3話では、占領された小垣の地が、高山軍の略奪行為により疲弊していることが報告されます。占領軍による略奪は「乱取り」といわれ、雑兵への恩賞代わりとして黙認や公認されていた行為でした。雑兵どもは、乱取りができるから、命を懸けた戦に赴いていたとも云えます。

しかし、勢力拡大の視点で考えると、占領地は自国の領地となるところです。その地が荒廃してしまうのは、領国経営上好ましいことではありません。また、合戦が完全に終了していないのに乱取りが始まってしまうと、軍隊の統率も乱れてしまいます。大河ドラマ「麒麟が来る」では、今川義元が、乱取りに逸る自軍の兵に激怒する場面が描かれていました。実際、桶狭間の戦いでの織田信長の勝因に、今川軍の乱取りを指摘する説もあるくらいですからね。

上杉謙信は領土的野心が無い武将と云われ、美談のように語られることが多いのですが、上杉軍は遠征先でしばしば乱取りを行っています。略奪によって目先の生活が楽になればOKってことですね。一方、天下統一をめざす織田信長などは、乱取りを厳しく禁止する触れを出していたようです。と考えると、高山軍は古いタイプの軍勢であるとも云えます。


さて、小垣城奪還の機会を伺っていた羽木ですが、高山軍が隣接する野上衆を圧迫したことで、両者が一触即発の状態になっていることが、成之によって知らされます。羽木軍は、これを好機として、小垣城の奪還に動き出します。唯之助は小荷駄組の百姓足軽として、この戦に参戦しました。

以前、投稿させていただいたブログ記事へのリンクです。 

       小垣城奪還戦と小荷駄組

この時の羽木軍の軍勢は3,000と推定されます。時代考証に無頓着なコミックでは、1万人と云うトンデモナイ数字を出しています。戦国時代の軍勢の動員力に関しては、一万石あたり、侵略戦で200人程度、防衛戦で300人~350人とされていますから、1万人の軍勢を動員できる羽木家は、40万石の大大名ということになってしまいます。


一方、小垣城の高山軍は、数百人ほどと思われます。数的に劣勢な高山軍としては、小垣城に籠城して援軍を待つことが定石の戦い方ですが、この時は、城を出て奇襲を仕掛けるという作戦をとっています。高山の本軍が野上衆との戦いに動員され、援軍が期待できない情況では、籠城は不利になると考えたのでしょう。


高山軍は、小垣城へ向かって狭い山道を行軍する羽木軍を待ち伏せたようです。羽木勢は、隊列が細長くなっていたところを側面から奇襲されます。剣を振るい敵をバッタバタと倒す、伊藤健太郎君演じる「羽木忠清」は、格好良いこと此の上ありませんが、総大将が敵の雑兵と直接切り結ぶなど、軍勢としては恥ずべき失態であります。一歩間違えば、桶狭間の戦いのように、奇襲により総大将が討ち取られてしまうなんてこともありえたわけで、この時、高山軍がとった戦法は理にかなったものと云えましょう。

3.鹿之原の合戦


ドラマ5話では、降伏した野上衆を取り込んだ高山軍が、小垣城を奪い返しに来ます。この時の作戦は、野上衆に羽木の本城「黒羽城」を攻めさせ、高山軍は小垣城を攻撃するという二方面作戦です。野上衆には黒羽城を陥落させるほどの戦力は無いはずですから、こちらは陽動部隊で、主目的は高山軍による小垣城の奪還です。羽木勢は、戦力を分割せざるを得なくなり、小垣城に迫る高山軍3,000に対して、羽木勢の援軍は1,000という、圧倒的に不利な戦いに臨むことになります。

この時の唯之助は、羽木の重臣「天野」の下人として戦に参加します。赤備えの鎧で統一された天野勢200は、羽木軍の中核的存在で、唯之助の部隊は先鋒を任せられています。百姓足軽から天野家の正規兵になったのですから、兵が足りなくて急遽採用されたとはいえ、なかなかの出世であります。アルバイト社員が子会社の正社員に採用されたと云ったところでしょうか。

若君率いる羽木勢1000は、小垣城に入らず、近くの「鹿之原」で野戦に臨みます。野戦は兵の数で勝敗がほぼ決まりますから、3倍の敵に野戦を仕掛けるというのは、極めて無謀なことであります。本来ならば、籠城して高山軍を引き付け、野上勢を退けた本軍が援軍に来るのを待つべきなのですが、あえて、野戦に臨んだのは、籠城戦になった場合に、小垣の城下や付近の村々に被害が及ぶことを、若君が嫌ったためとされてます。

この時、数的に有利な高山軍は、羽木軍を包囲殲滅しようと鶴翼の陣で構えます。高山軍は夜の間に行軍して陣を構えますが、このことからも、高山軍が如何に訓練された軍勢であるかが分かります。

対する羽木軍は、鋒矢の陣で中央突破を狙います。鋒矢の陣は、強力な先鋒をもって敵陣に突入していく超攻撃的な戦法です。


ドラマでは、「天野小平太」率いる先鋒が、高山軍の鉄砲隊に三方から撃ちかけられ混乱していたところを、(総大将であるはずの)若君が自らを先陣として突入し・・・・という展開でしたね。
この時、若君に従っていた重臣「天野信近」が「もはや、これまでか・・・」みたいなことを云います。未だ、槍も交えていないのに、随分あきらめが早いなあと思ったんですけど、鋒矢の陣は、超攻撃的な陣構えですから守りには不向きです。先鋒が抑えられてしまったら、高山軍の両翼から側面攻撃を受けてしまいますから「もはやこれまで」なんですよね。ですから、無謀でも何でも、先鋒は敵陣に突入して、相手の陣形を崩さなくてはならなかったんです。


羽木勢の進軍を止めたのは、高山軍の鉄砲隊でした。実は、永禄2年という時期に、鉄砲隊を組織的に運用していた戦国大名というのは、あまり例がありません。大河ドラマ「麒麟が来る」でも描かれていたように、この頃(長篠の戦いの16年前)は、戦での鉄砲の使い方を試行錯誤している段階なんですよね。当時、大変高価な武器であった鉄砲とその弾薬を一定数揃えることができるのは、かなりの財力を持った大名だけだったと思います。ちなみに、羽木勢には鉄砲が全く見られません。

この財力の違いが、それぞれの居城で表現されているのは、アシラバさんたちの指摘の通りであります。


高山家の居城「長沢城」では、唯が軟禁された部屋を始め、ほとんど全ての部屋は総畳敷きになっています。一方、羽木家の居城「黒羽城」では、奥座敷を除いてほとんどの部屋が板敷きで、畳は、当主が座るところだけにしか置いてありません。
当時、畳は大変高価な品物でしたから、総畳敷きというのは大変珍しかったはずです。まあ、贅沢な暮らしをしている高山家と、清貧な羽木家という対比での演出だと思いますが、さすが、NHK時代劇班。見事な時代考証であります。で、高山家は、その財力を軍事にも投入しているわけです。(ちなみに、コミックの黒羽城の奥御殿は、江戸城の大奥もビックリの贅沢な造りになっています。)


高山家の財力の源は、どこにあるのでしょうか。高山家と羽木家は長年のライバル関係にありましたから、領土などの国力は大差ないはずです。となると、考えられるのは、高山領が交通の要所であったとか、鉱山や港を持っているとかの経済力の差です。あとは、領民に重税を課していたとかもありますけど、それでは、領国経営が永続しませんからね。(ちなみに、織田信長が治めていた尾張は、さほど大きな国ではありませんが、熱田湊・津島湊という良港を持っていました。)
高山宗鶴の代になって、高山軍が攻勢を強めた背景には、高山領で何らかの経済的発展があっからだと考えられます。経済力があると云うことは、召し抱える家臣の数も多かったでしょうから、これが、高山軍の迅速な行動に結びついていたとも考えられます。

さて、唯が平成に戻っている間に、羽木家では跡継ぎをめぐってお家騒動が起き、それに乗じて高山軍が羽木の領内に2度侵入したことが、お袋様によって語られます。若君が全軍を率いて高山軍を撃退し事なきを得るのですが、高山の相手の混乱を察知する情報力(スパイ活動にもお金がかかるはず。)はさすがですね。

4.万代橋の戦い


ドラマのクライマックス第11話と第12話では、羽木・高山両軍は、国境の川を挟んで対陣します。本来は川の名を合戦の名前にしたいところなんですが、川の名前が分からなかったので、とりあえず「万代橋の戦い」といたします。


羽木勢は若君を救出するため、高山軍は若君を捕らえるための出陣です。どちらも急な出陣ですが、高山軍が数千の軍勢を集めたのに対して、羽木勢は1,000足らずです。
高山軍の優れているところは、戦に於いて常に数的優位な情況を作り出せるところにあります。そのためには、兵の招集から陣触れまでの命令系統がしっかり構築、訓練されていなくてはなりません。一方、羽木軍は常に劣勢です。羽木は物語の主人公ですから、劣勢でも頑張って戦って、それはそれで格好いいと描写されますが、戦略的には褒められたものではありません。

羽木勢は、後から援軍を送ることになりますが、この戦力の逐次投入というのは、最も避けるべきことであります。
典型的な例が、太平洋戦争の「ガダルカナルの戦い」です。日本軍は戦力をダラダラと投入し続けて、最終的には、3万人もの大軍を派遣するのですが、結果は大惨敗となります。戦力というのは、最初にドカーンと投入するべきで、そのための輸送とか兵站とかを如何に構築できるかが勝敗を分ける決め手になるわけです。

この時の戦いでは、高山軍は薄い鶴翼の陣と見せかけて、山の後ろに3,000の伏兵を配置します。羽木勢を預かる「羽木成之」は、優勢な高山軍が攻めかかる気配を見せないことを不審に思い、様子をみることにします。もし、若君救出に逸って攻撃を仕掛けていたら、伏兵に包囲され大敗北を喫していたと思われます。


とはいえ、高山軍は優勢なのですから、攻めてこないと思えば、攻勢をかければ良いわけで、尊が発明した「まぼ兵君」が無ければ、小垣城に拠ったとしても、かなりの苦戦を強いられたはずです。この時の戦の様子は、ドラマでは軽く流してしまいますが、舟橋を使った作戦など、コミックでは詳細に描かれていて、読み応えがあります。


羽木勢は、敗戦となるべき戦いを、唯の活躍や、尊の発明で乗り越えていきました。郷土史家でもある社会科の木村先生は、「羽木家が突然滅んだのは郷土史上の長年の謎」と語りましたが、合戦の情況を検証すると、高山軍が勝てなかったことが最大の謎であって、唯の存在が無ければ、高山宗鶴は戦国時代の名領主として、高く評価されるべき人物になっていたと思います。

2020年7月11日土曜日

黒島結菜「みうらはんと~のんびり週末旅~」のハラハラ感が堪らない

黒島結菜さんだけど、ネット記事で取り上げられることが多くなって嬉しい限りである。先日も、ネット配信ドラマ「呪怨:呪いの家」の宣伝関連の記事に、インタビューが掲載されていた。それによると、自粛期間中で暇だったときは、自宅でお菓子作りに挑戦したり、星を眺めたりしてたらしい。
でも、お菓子というのは食べてくれる人がいるから作る気になるものだし、星空だって一人で眺めるのは余程のモノ好きだ。きっと、作ったお菓子を食べてくれたり、一緒に夜空を眺めて流れ星を数えてくれる人がいたんだろうと勝手に想像してしまう。まあ、自粛期間中も充実した生活が送れたようだし、推しが幸せそうなのはファンとしてもこれまた嬉しい限りではある。

さて「みうらはんと~黒島結菜ののんびり週末旅~」は、テレビ朝日のミニ番組だ。関東地区限定放送だけど、番組内容が京急の公式チャンネルからアップされているので有り難い。


番組の中で、彼女自身が収録日を6月5日だと云っているから、自粛開けの最初の仕事が、三浦半島でのロケだったのだろう。ミニ番組とはいえ、番組名に名前が付いた、いわゆる冠番組であるから大したものである。現在第4回まで放送されているが、ずっと同じゴリラ(猿の惑星らしい)のTシャツを着ているので、1回のロケで何話分もまとめて撮ったんだろう。

番組のイメージとしては、「ぶらり途中下車の旅」を細切れにしたような感じだが、とにかくユルい。旅番組というのは、旅先で偶然出会ったような演出でも、実際は何日も前から担当ディレクターが現地に入って、ぜーんぶ構成済みなのが普通だ。だから出演者は、台本に沿って旅人を演じていればいい。ガチで、ぶっつけ本番旅をしているのは、驚異的な知名度に支えられた「鶴瓶の家族に乾杯」くらいだと思う。

「みうらはんと」だって、京急電鉄がスポンサーになっている三浦半島のPR番組だから、どこで何をするのかなんて全て決まっているはずなのに、とにかくユルい。恐らく、舞台だけは設定しておいて、あとは黒島結菜さんにお任せという演出なんだろう。でも、これは心配だ。今まで、彼女が気の利いた返しやアドリブを披露したところなんて見たことが無い。得意だったら、もっとバラエティー番組に出ていたはずだ。(もし、台本とかきっちり決まっているのに、このユルさを醸し出しているのであれば、それはそれで驚異的なことである。)

で、番組に漂うユルさの1つが彼女のしゃべり方である。素で喋っているときの彼女は、前の言葉の語尾まできちんと話さずに、次の言葉を被せてくる癖があって、いわゆるハキハキとしてない。
あと、自分の発言に対して、自分で照れてしまうのもユルさの要因だ。トマトジュースを飲んだ時も、食レポっぽいことを云おうとして、自分でツッコミを入れてしまった。
まあ、その醒めたような自信の無さが彼女の魅力であるし(と周防正行監督も云ってたような・・・)インスタに自撮りを上げないというところにもつながっているのだろう。

と考えると、サブタイトルが「のんびり週末旅」になっているのも納得である。まったり週末旅でも良かったかもしれない。(担当が浜辺美波ちゃんみたいなタレントさんだったら、きっと「わくわく週末旅」って副題を付けていただろう。)
ただ、ファンとしては、そのハラハラドキドキ感が楽しみでもあるし、これは黒島結菜のプロモーション動画だと思えば良いのだが、一般の視聴者的にはどうなんだろうと、勝手に心配してしまった。


でも、食レポは成ってないが、食いっぷりは素晴らしい。眉毛の動きとか、眉間にシワを寄せて食べるところとか、黒島結菜さんの顔芸・・・表情の演技は最高である。
確かに、本人も云っているように、彼女は「おいしい」と「あま~い」しか云っていない。実は、高校時代に撮った映画「あしたになれば」で葡萄を食べている時も、アシガールで干菓子を食べている時も、「おいしい」と「あま~い」しか云っていない。
でも、彼女のオイシイは、実にバリエーションが豊かである。予想どおりの美味しさなのか、意表を突かれたオイシイなのか。マグロの刺身と、鮪のカツの美味しさの違いは、ちゃんと伝わってくる。

リポーターが語彙力で美味しさを表現するのが仕事ならば、役者は演技にて美味しさを伝えれば良いのだ。今週の放送は、「葉山の名物プリン」だそうだ。マネージャーさんのインスタによると、ハンバーガーを食べるロケもしていたようである。これからも、これぞ女優の食レポというべき、見事な食べっぷりを披露してくれるだろう。

2020年7月5日日曜日

POLU中学生シンガー「丸山純奈」~天王洲アイルのライブは学級崩壊状態だった話~

今回、貼り付けさせていただくのは、2018年7月27日に、天王洲アイル「CANAL GARDEN PARTY’18」イベントステージで開催された「POLU」のミニライブです。動画を視聴しながらライブレポートを読み返したんですけど、あれから丸2年経ったんですよね。


前日に思い立って参戦した「CANAL GARDEN PARTY」は、天王洲セントラルタワーのデベロッパーである「中川特殊鋼」さんが主催するオフィス街の納涼祭でした。広場をぐるりと取り巻いたテントでは、ビールとか焼きそばとかを良心価格で販売していて、仕事上がりのビジネスマンたちで大賑わいでした。
この日は、台風が接近していたんですけど、夕暮れの運河沿いの会場は、吹く風も心地よくって、生ビールを飲むには最高のコンディション。金曜日の夕方ですからね。OLやビジネスマンが、職場単位でテーブル囲んで、ビール飲んで盛り上がっていました。

で、POLUのステージが始まったんですけど、誰も歌を聴こうとしないんですよ。まあ、夏祭り会場ですからね。皆さんビールを飲みに来たのであって、音楽を聴きに集まっているわけではありませんから。

イベント会場には、1,000人ほどの群衆がいたと思います。その中で、POLUを目当てに集まっていたのは、たぶん50人ほど。そんな中で、彼らは、MCをほとんど挟まず、オリジナル曲ばかりを6曲演奏したんです。
で、すーちゃんの歌声に皆が引き込まれていって・・・・なんてことには全然ならないんです。天王洲のビジネスマンでPOLUのことを知っている人なんて居るわけ無いじゃないですか。演奏そっちのけで、大声でおしゃべりしている。もう、完全な学級崩壊状態ですよ。可愛い女の子に歌わせておいて、男どもが酒盛りをしているという、これ以上無いってくらいのアウェーのステージでした。

まずは、2曲目に演奏した、ドラムの啓太さんの作品「19歳のブルース」という曲です。青春時代の屈折した心情を、14才の女の子が歌うというのも違和感ありすぎなんですけど、だからダメかと云うと、そうでも無いのが歌の面白いところであります。



ね。ステージの前をビールを持って平気で横切っているんだから、僕の話が全くの作り話でないことは、お分かりいただけたかと思います。

天王洲は、彼らのテーマ曲「ミズイロ」のMVを撮ったゆかりの場所でもあるんですよね。この日は、ボサノバ風アレンジで演奏してくれました。ちょっとお洒落な感じで、16才になった今のすーちゃんだったら、丸の内のCOTTON CLUBで演奏しても似合うかもです。



さて、学級崩壊状態も少しは収ってきたでしょうか。だって、台風接近で進行を急いでいたとは云え、MCを全然挟まないんだもん。ボーカルのすーちゃんは、まだ中学三年生の14才なんですよとか、テレビの歌番組にも沢山出ているんですよとか、この曲で、2000組が参加したオーディションを勝ち抜いて「Mステ」に出場したんですよとか云えば、誰だって、へえ~って思うじゃないですか、でも、そんなこと何も言わないで「Sing」とか演奏したって、なかなか聴いてくれない。良い演奏をすれば聴いてくれるってわけでは無いんですよね。



もちろん、ビジネスマンたちだって、彼らに全く無関心だったわけでは無くって、最初は、まばらだった拍手も、セットリストが進むにつれ大きくなってはいたんですよね。でも、興味を持ち始めたなぁってときには、ミニライブも終了って感じでした。彼らにとっては、知らない若者がやってきて、知らない曲を演奏して帰っていったってところでしょうか。
6曲全てオリジナル曲で勝負するというのは、それなりの信念があってのことだとは思いますけど、完全アウェーのステージなんですから、最初の2曲くらいは、誰でも知っている曲をカバー演奏した方が良かったんじゃないのかなぁ。著作権のこととかあるにしても、他のステージではやっていたことだし、それなりの手続きを踏めば良いことだし、まあ、それをしない不器用さというか、真っ正直なところが、彼らの魅力といえばそうなんだけど。なんとも勿体なかったというか。

「夢みる虹色」です。途中でマイクの音が切れるアクシデントもあったんですけど、動ずること無く終了。

改めて聴いて思ったことは、野外ライブでのすーちゃんの安定感。ライブ会場では、それほど思わなかったんですけど、動画で聴いていると、絶好調だったんじゃないのかなぁって思います。バンドボーカルとしての歌唱もサマになってきて、CDと比べても遜色ないのも、さすがだと思いました。もちろん、進歩の余地はあると思いますけど、あれから2年たって、引き出しもきっと増えているだろうし。



あとは、歌を聴かせるだけでなく、歌っている自分を観客に見せられるようになれば完璧ですよね。まあ、これは、メジャーデビュー後に期待しましょう。

この年の夏は、イベントやフェスに多数出演して大活躍の丸山純奈さんでした。ところが、秋には体調を崩されて、で、いろいろあって半年後にPOLUは解散。もう次の夏は無かったんですよね。これが最大の勿体ないだったのかも。

今年は、コロナ禍でイベントが相次いで中止だけど、天王洲の夏祭りは、今年も開催するんだろうか。