2019年8月4日日曜日

黒島結菜とNHKドラマ「アシガール」 ~小垣城奪還戦と小荷駄組~

「アシガール」は、戦国時代を舞台としたコミックですが、互いの軍勢が白兵戦で斬り合う場面は出てきません。まあ、実際の合戦でも、武将と足軽が斬り合うことなど無かったと云われてますし、アシガールは、そこがメインの作品ではありませんから、無理をして描かないというのは正しい選択かと思います。

一方、ドラマでは、この合戦シーンが一番の見せどころとなっています。コミック、アニメ、実写と物語の表現方法っていろいろありますけど、時代劇に関しては、実写に敵う物はありません。百年以上前の白黒無声の活動写真の頃から、チャンバラ映画を撮っていたわけですし、殺陣師なんて芸術の域ですからね。VFXなんかとは歴史の重みが違います。


アシガールでの最初の合戦シーンは、ドラマ第3話、コミックでは第2巻に描かれている「小垣城奪還戦」です。この時、唯之介は、小荷駄組の足軽として参戦することになります。

リンクは、長野県富士見町の今井建設さんのブログです。今井建設さんは、野外ロケの支援作業を請け負っている企業さんです。10分あまりの合戦シーンのために、たくさんのお金と汗と愛情が費やされているかが分かります。
ロケが1週間、その準備に1週間、ロケハンから含めるとそれ以上なんですね。これを見る前までは、ロケって適当な野原に行って撮影してくるだけかと思っていました。
ロケ現場への大型機材の搬入にそなえての林道の整備、仮設トイレや更衣室用のコンテナの設置、整地に下草刈り・・・すごく勉強になりました。



百姓足軽の唯之介が、小荷駄組(小荷駄隊とも)に配属されたというのは、秀逸な設定です。時代考証が滅裂だなって思わせておいて、こんなふうにキラリと光る絶妙な設定があるんですから、不思議な物語です。

戦国モノって数え切れないほどありましたけど、荷駄組を取り上げた話というのは記憶にありません。僕も荷駄組なるものがあったことは知っておりましたが、映像として再現されたものを見るのは初めてでした。同時期に放送されていた大河ドラマ「おんな城主・直虎」を上回るかのクオリティー。とても、ラブ・コメディーの1コマとは思えませんですね。


ドラマでは、小荷駄組は軍勢の「尻」という名台詞が出てきますけど、尻にあるのは、それだけ大切なものだからです。何千人もの軍勢を運用するには補給が如何に大切か戦国武将達は身をもって知っていたわけで、荷駄組は進軍の時は最後尾に置いて、撤退の時は先頭に配置していました。(太平洋戦争で、輸送船団をおいてきぼりにして撤退してしまった、どこぞの海軍とは大違いです。)


ドラマでは、大荷駄組と小荷駄組という言葉が出てきます。一般的には、陣地の設営に必要な木材とか陣幕などを運んだのが大荷駄組、食料などを運んだのが小荷駄組とされていますが、実際にこのように分けていたかどうかは分かっていません。というのは、単に「荷駄組」と記載されていることも多くって、「大」「小」の使い分けがハッキリしないからです。大小が運ぶ荷物でなくって、荷駄組の規模を表している可能性も考えられます。
 
僕が、荷駄組の存在を意識したのは、川中島の戦いの解説書を読んだときでした。軍記物というのは話を盛っていて歴史の資料的価値はあまり無いと云われてますけど、まあ、雰囲気を知ることはできるかと思います。

永禄4年、春日山城から出陣した、上杉謙信率いる越後勢18,000は、善光寺付近で、大荷駄隊と後詰めの兵5,000を切り離します。謙信は残りの13,000を率いて妻女山に陣を構えて・・・となっていくのですが、僕は、この5,000人を切り離したことがどうにも納得できなかったんですよね。第4次川中島合戦(八幡原の戦い)というのは、数の上で優勢だった武田軍が、軍勢を2つに分けて上杉軍を挟み撃ちにしようとして、(軍師山本勘助が考案したキツツキの戦法ですね)それを察知した上杉軍が伝説の「車懸りの陣」で先制攻撃を仕掛けることで始まります。この時、後詰めの5,000の兵を投入していれば、武田信玄の息の根を止めることもできたのではないかと思ったんです。


でも違うんですよね。謙信が切り離したのは、補給部隊である大荷駄隊です。後詰めの兵は荷駄を守る護衛です。ドラマで再現されているところの、背中に鍋を背負って歩いているような百姓足軽たちなわけです。謙信は、彼らを切り離して、迅速に行動できる戦闘部隊だけで武田軍と対陣しようとしたと考えられます。

ただし、荷駄隊が運んでいる軍事物資というのは、盗賊にとっては絶好の獲物であります。敵方が盗賊を使って荷駄組を襲わせるなんてこともあったかもしれません。荷駄を守るというのは、とっても大切なことで、そのためにも、ちゃんと護衛の精鋭部隊を付けているわけです。(太平洋戦争で、敵潜水艦がウヨウヨしている海域を、護衛艦も付けずに輸送船を航行させた、どこぞの海軍とは大違いです。)

ここから分かるのは、13,000の軍勢を運用するのには、プラス5,000の補給部隊が必要だということです。つまり、総軍の3分の1くらいは、補給部隊とそれを守る護衛なんですよね。
軍勢の3分の1をしめながら、戦国ドラマでは全く描写されなかった荷駄組に、スポットを当てたアシガールの原作者さんは流石です。ただ、この時の、小垣城奪還戦に投入した軍勢は一万!!!?
って、いったい何処から、どんな根拠で出てきた数字なんでしょうか。
ドラマでは、この時の軍勢の数には、一切触れていないんですよね。これもまたNHKのナイス・フォローと云ったところでしょう。


ドラマ判アシガールの第3話のラストは、銃声を聞いた小荷駄組の唯之介が、走って走って前の部隊を追い抜かしていって、最前線に飛び出ちゃうんですけど、僕、このシーンが大好きなんです。


ここでは、足軽の武具が弓とか槍になってますね。荷駄組を追い越して本軍に追いついちゃったみたいです。さすがNHK。きめの細かい演出です。
確認いたしますが、これは黒島結菜ちゃん主演のラブ・コメディーですからね。


生まれて初めて、人が殺されるところを見てしまい、ショックを受けています。平成生まれの女子高生なんですから致し方有りません。

ちなみに、川中島の合戦(八幡原の戦い)では、両軍合わせた33,000人のうち戦死者は、7,000人に上ったと云われていて、戦死率は、20%を越えています。これは、この時代の野戦では桁違いの多さで、如何にこの戦が激しかったかを物語っています。逆に云えば、野戦での戦死率は、僕らが思っているほど高くは無くって、関ヶ原の戦いでは、負けた西軍でさえ戦死率は10%ほどだったと云われています。近現代戦と違って武器の殺傷能力も低いですし、誰だって死にたく有りませんからヤバくなれば逃げますからね。戦国時代の戦場に死体がゴロゴロ転がっているのは、過剰な演出なんだそうですよ。

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