2022年1月31日月曜日

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の舞台を巡る その2 ~「宗時神社」「高源寺」~

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」序盤の舞台を巡る旅。今回は函南町。地味な、のんびり旅である。

首都圏からの若者が集まる「炭焼きレストランさわやか函南店」を通りすぎ、狩野川の支流「来光川」に沿って県道を進むと、JR函南駅の手前で川は二つに分かれる。左から流れてくるのが来光川の本流、右からの流れが「冷川」だ。

「宗時神社」は、その合流地点を見下ろす小さな高台にある。二つの川に挟まれた尾根の先端部で、北側には人工的に掘り切られたような谷があるから、小さな砦跡のようにも見える。ここは田方平野の縁でもあり、ここから山道が始まる。冷川に沿って登りきったところが十国峠で、下ると伊豆山神社に至る。東海道の箱根峠が拓かれる前、つまり、平安・鎌倉時代は、この道が箱根越えのメインルートだったとされていて、現地に立ってみると、ここが地理的に重要な場所であるのが分かる。

「源頼朝」の乳母で「草笛光子」さん演じる「比企尼」も、この辺り(函南町大竹)に移り住んで、流罪になった頼朝に援助をしていたらしい。

駐車場が無いので、歩いて5分の町営時間貸しPに停める。近くにJAがあるが無断駐車はマズいし、路上駐車は迷惑である。1時間100円だからケチらずに利用して欲しい。登り口が工事中だったので、小さな駐車場をつくっているのかもしれない。

以前は、木が茂っていたようだが、伐採されて風通しが良くなった。兎に角、小さな供養塔の他には何も無い。大河ドラマ「北条義時」のノボリがなければ、誰も気付かない。ガッカリ観光地という言葉があるが、ここは観光地では無いので良しとしよう。

ここに、石橋山の合戦で討ち死にした「北条宗時」と「狩野茂光」”もちみつ"と読む、鎌倉殿では工藤茂光)が祀られている。二つの供養塔のうち、大きい方が北条宗時、小さい方が狩野茂光とされている。

石橋山の合戦と宗時墳墓堂に関する吾妻鏡の過去ログ はこちら。

北條宗時と仏の里美術館の阿弥陀三尊像

狩野氏は、伊豆一帯を支配していた工藤氏の一族で、伊豆市の狩野荘を領地としていた豪族である。伊豆を流れる一級河川「狩野川」もこの地名によるもので、領内には「牧の郷(まきのごう)」とよばれた馬の生産地がある。

当主「狩野茂光」は、配流地(伊豆大島)で反乱を企てた、あの鎮西八郎「源為朝」を追討したという名将である。頼朝の旗揚げに最初から加わり、頼朝軍の主力であったと考えられているが、石橋山の合戦で敗れ、この地で自害したとされている。同族の伊東祐親が、平家の後ろ盾により勢力を伸ばしていたので、対抗するために源氏に肩入れしたのだろう。日本画の狩野派もこの一族で、茂光の末裔になるそうだ。

肥満体であったという説があって、大河でもそのように描写されていた。演じているのは「米本学仁」さんで、身長1m80cm、体重180kgという俳優さんである。

一方、宗時は北条家の嫡男に過ぎない。つまり、武将としては、小さい塔の茂光の方が、圧倒的に格上ということになる。

実は、供養塔については、作られた時代は勿論のこと、誰の供養塔かも分からないってのが、本当のところのようだ。北条氏ならば、もっと立派な塔を作るだろうし、隣に茂光の塔を並べるとは思えない。でも、地元の人たちは、ここを「ときまっつぁん」とよんで、ずっと祀ってきた。石だって木だって信仰の対象になる。この塔に宗時と茂光の魂が宿っていると想うことが大切なのだ。・・・でも、大きい方が宗時って、誰が決めたんだ。

それにしても、大河で北条時政を演じている「板東彌十郎」さんのキャラが「時まつっぁん」そのものなのが面白い。ここからヒントを得たのだろうか。



さて、宗時神社を後にして、東海道本線と新幹線のガードをくぐり、冷川に沿ってさらに進むと、小さな滝(不動の滝)とお堂がある。冷川不動とよばれているところで、「高源寺」の塔頭「不動院」が、この地にあったとされている。

ここも駐車場が無いが、通る車も少ないので、路上駐車をしても迷惑にはならないだろう。さらに登ると「高源寺」に到着である。


現在は、曹洞宗とのことだが、かつては真言宗で「長久寺」と称していたらしい。人里離れた山中に、いきなり立派な寺院が出てきてビックリする。鎌倉だったら拝観寺院としてやっていけるだろう。


苔むした参道が有名だが、冬なので苔は枯れ気味であった。参道の途中には、比企尼の供養塔もある。


ここは、伊豆へ流された源頼朝が、「市川猿之助」さん演じる「文覚」と源氏再興の密儀をした場所とされている。「鎌倉殿の13人」では、猿之助さんのクセの強い演技が話題になったが、実際の文覚上人も、かなり癖の強い人物だったらしい。

石橋山の戦いでは、馬揃えの地になったそうだ。馬揃えとは、軍勢の集合場所のことである。ここに集合して箱根を越え、平家方の豪族「大庭景親」との戦いに向かったのであろう。頼朝軍の作戦は東の三浦氏と呼応して大庭軍を挟み撃ちにすることだったが、思うように軍勢が集まらなかった上に、大庭軍に先手を打たれて大敗。頼朝軍は敗走し、北条宗時は、この道を戻ってきたところで、追撃して来た伊東祐親の軍勢に討ち取られてしまう。


長久寺は、その後、山火事によって伽藍を焼失するも、建久元年(1190)に源頼朝が再興し、源氏の一文字をもらって「高源寺」に改められたとあった。

歴史の舞台にもなった名刹だが、訪れる人は、ほとんどいない。霊園を経営しているので人は居るんだけど、御朱印をいただけそうな雰囲気はなかった。今度行ったら、勇気を出して聞いてみようと思う。


#鎌倉殿の13人  #片岡愛之助  #鎌倉殿

2022年1月29日土曜日

「松浦亜弥」9年ぶりのメディア出演

「松浦亜弥」さんが、27日に配信スタートした「マシュー南」のポッドキャスト番組「マシュー南の部屋の中のマシュー」にゲスト出演した。マシュー南とは「藤井隆」さんの別人格らしい。

驚くべきことである。これ、事前に知っていた人ってどのくらいいたんだろう。

松浦亜弥さんは、2013年のライブを最後に芸能活動を止めているから、実に9年ぶりである。ネットニュースでは、無期限休業中とあったが、ちゃんと発表したわけでは無いので、「事実上の無期限休業中」が正しいかと・・・どうでも良いですね。

久しぶり亜弥さんは、声もそのままだし、テンションも変わっていなかった。ってことは、このテンションが、「地」だったってことか。子どものことを嬉しそうに話すのを聞いていたら、こっちまで笑顔になってきた。慌ただしくも幸せそうな毎日を過ごしているようで、何よりである。夫婦で、あるいは家族でCMを、なんてオファーもありそうだ。(受けることは無さそうだけど)

それにしても、あそこで泣けるところが、マシューの好感度高めの所以。和やかな雰囲気で、気を遣いつつも、ファンが知りたいことをズバリと質問してくれて、嬉しい限りである。

で、ファンが一番聞きたいことを質問しますって「好きな色は何ですか」と云ったときはボケかと思ったが、松浦さんの「全部の色が好き」って云う答えを聞いて、この質問って、核心を突いてるように思えてきた。

アイドル時代は、ピンクとか黄色とか意識的に云っていたようで、その反動として、プライベートでは黒ばっかりだったそうだ。コットンクラブで歌っている頃も、黒とか白だったし。で、その流れで、「今は、落ち着いた色が好きですねぇ」とか答えることもできたのに、そうは云わなかった。「どんな色も好きになりました。」ということは、全てを受け入れられるようになったということ。「アイドル時代が楽しかった」なんて、どういう風の吹き回しなんだろう。でも、達観した云い方は、タレントとしての復帰に現実感がないことの裏返しとも云えるわけで、微妙なところではある。

そして、「もう一度、ステージに立つことがあるのか」という質問に対しては、子育てにメドがついて、信頼できる誘いがあれば、歌ったりするかも、という返答だった。積極的に出ることは無いけれど、絶対に出ないと決めてるわけでも無いらしい。期待を持たせつつも、はぐらかされた印象だが、こういう答えになることは予想できた。今回は、答え云々よりも、そういう質問をメディアという公の場でできたということに価値がある。勿論「マシュー」と「あやや」の個人的な信頼関係あってのことなのは云うまでもない。ファンは、質問してくれたことで、十分満足なはずだ。

それにしても、あんなに子どものことを話すとは思わなかった。世間でも、松浦亜弥さんがちょっと話題になって、動画の再生数も、ちょびっと増えたようだ。話には続きがあるようで、来週の更新が楽しみである。

折角なので、何か貼り付けさせていただこうと思う。あややの動画を見ている娘さんから「お腹ばっかり出して、風邪ひくよ」と心配されたそうなので、こんなテイクは、如何だろうか。

それから、バンマスの菊ちゃん(菊池真義さん)も、やる気満々のようだし。お終いは、正真正銘の一発撮りのテイクで。

2022年1月24日月曜日

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の舞台を巡る その1 ~「眞珠院」「北條寺」~

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の序盤の舞台である伊豆の国市を巡った。放送開始直後ということでそれなりに賑わっていたが、ちょっと行ってみようかって感じの地元ナンバーの車がほとんど。穏やかな週末の、のんびり旅。

「眞珠院」は、八重姫ゆかりの寺院である。「鎌倉殿の13人」で「八重姫」を演じているのは「新垣結衣」さん。八重姫の一般的な人物像は「曽我物語」の記述によるものであろう。眞珠院が八重姫伝説の寺院とされているのも、この物語に由来している。


眞珠院の現在の宗派は曹洞宗とのことである。境内には、正安4年(1302)に建立された五輪塔があるので、開闢は、それ以前とされているが、二度の火災により古文書等が失われてしまい、詳しいことは分からないそうだ。

境内は綺麗に手入れされ、落ち着いた佇まいの寺院である。山門を入ってすぐの所に、八重姫の像を祀った御堂がある。悲劇の主人公「八重姫」は万願寺に葬られ、供養塔もそこにあったそうだが、明治初期に万願寺が廃寺になったので、眞珠院に移されたとあった。御堂の脇にある大きな木は、那木(梛木)の木だそうだ。


眞珠院は拝観寺院では無いが、本堂の脇に庫裏があり、ご住職が在宅であれば、御朱印がいただける。玄関に入り御朱印をお願いすると、その度に奥に行って書いてくれる。時間がかかるが、1日に訪れる拝観者の数もしれているから、困ることもないのだろう。返された御朱印帳には、梛木の葉が入った小封筒が挟んであった。梛木の葉は横に割けないので「愛」「縁結び」のお守りになるんだそうだ。


寺のすぐ前には、狩野川の支流である古川が流れている。ここには八重姫が身を投げた「真珠ヶ淵」という深い淵があったとされているが、護岸工事のため面影は全く無い。


実は、八重姫は謎の多い人物で、実在したかどうかも定かで無い。言い換えれば、極めて自由度の高いキャラであるから、脚本家「三谷」氏のやりたい放題が許されるわけで、それはそれで楽しみである。人気女優「新垣結衣」さんを起用するのであるから、かなりのキーパーソン。今後大活躍をするガッキーに対して、史実と違うなどと批判するのは、野暮というものだ。





「北條寺」は、北条義時ゆかりの寺院である。北条時政の館跡からは、狩野川を挟んだ東側にあるが、鎌倉時代の狩野川は、もっと西側を流れていて、当時は、地続きだった。この地は、「江間」とよばれていて、ドラマでは、再婚した八重姫の屋敷があることになっているが、互いの屋敷を覗ける程の近さではない。江間はイチゴの栽培が盛んなところで、昭和の頃は、イチゴの収穫期には学校が休みになって、江間の子どもたちは、収穫したイチゴを詰める木箱作りを手伝わされたそうだ。義時は元服後「江間義時」と名乗っていたから、この地を本拠地にしていたのは間違いない。


北条家の嫡男は「北条宗時」であったが、石橋山の合戦で宗時が戦死した後、次男である義時がすんなりと嫡男になったわけでは無いらしい。時政には、「宮沢りえ」さん演じる「牧の方」という後妻がいて、時政は、そちらの系統を跡継ぎにと考えていたようで、義時が江間の姓を名乗り、この地に屋敷を構えたのは、分家として扱われていたからと云われている。

北條寺は、江間義時の館跡の近くにあり、義時が創建した寺院と伝わっている。境内の高台には義時夫妻の墓があり、北条政子が寄進したとされる繍帳(とばり)も伝わっているが、寺院が創建されたのは南北朝期らしい。

寺宝は、仏像二躯と、重厚な刺繍が施された「牡丹鳥獣文繍帳」で、どちらもガラス越しながら、すぐ近くで拝観させていただける。

木造阿弥陀如来座像は、県指定の文化財で、鎌倉期の作とされている。等身大より少し小さな像で、ヒノキの寄木造だそうだ。寺伝では、運慶作となっているが、そうでないにしても、慶派の名のある仏師の作なのは確かなようだ。ちょっと見ただけでは分からないが、玉眼が入っているらしい。体躯は引き締まり、表情は若々しく、品のある良仏である。

木造観世音菩薩座像は、カツラの寄木造で、県指定の文化財。本堂の真ん中に置かれているので、こちらが御本尊のようだ。この仏像の特徴は、左足を下ろして、右足を前に外す「遊戯坐像」とよばれる座り方にある。中国の宋の影響を受けたもので、青雲寺の「滝見観音」や、東慶寺の「水月観音」など、鎌倉周辺の寺院に多く伝わっている。寺伝では、鎌倉の「極楽寺」から伝来したとされていて、如何にもそれらしい。水月観音は女性的な像だが、こちらはイケメン男性である。

両像とも、南北朝期の作とされていたり、作者がハッキリしなかったりで県指定の文化財止まりだが、仏像のデキとしては重要文化財レベルに思う。

北條寺を訪れるのは二回目である。最初に拝観させていただいたのは、11年前の今頃であった。事前に電話で拝観のお願いをしてから寺を訪れた。住職は出かけているとかで、奥さんに寺の由来や仏像の説明をしていただいたのを覚えている。僕の目当ては二躯の仏像だったが、北条政子寄進の繍帳がご自慢のようであった。室町時代作とされている繍帳が、政子寄進と云うのは矛盾しているが、寺伝とは、そういうものであるし、政子が寄進した繍帳が、かつて存在したことまでは否定できない。それに室町時代の繍帳だって、貴重なものには違いない。拝観料は志納であったので、御朱印代を含めて1000円くらい納めたんだと思う。

北條寺は、今月から拝観寺院になった。拝観料は500円。大河ドラマの主役「小栗旬」さん演じる北条義時ゆかりの寺院であれば、だろうなとは思う。寺の入り口に一人、駐車場に二人の誘導員がいて、拝観受付所にも二人。その隣には、小さな売店もできていた。

受付で、御朱印をお願いしたら、書き置きになると云われた。折角なので、義時の朱印を頂くことにした。達筆で素敵な御朱印であったが、よくよく見ると印刷に見える。今まで300筆以上の御朱印をいただいてきたが、印刷物というのはかなりのレア。これはこれで記念になるだろう。

本堂の入り口で、アルコール消毒。中に入ると、寺院の紹介映像がエンドレスで流れていた。すぐ隣に本物があるのに、わざわざ映像で見るのも可笑しな話であるが、コロナ禍で対面の案内を避けているのかもしれない。仏像は、中央に観音菩薩さん、向って右に阿弥陀如来さんと、変わること無く安置されていた。ガラス戸も以前のままだった。本堂には、お姉さんがいたけれど、仏像の解説をすることはなかった。勿体ない話である。仕事を辞めてボランティアガイドになりたい。

駐車場横の小山に蝋梅の花が咲いていた。以前は、自由に登ることができたのだが、立ち入り禁止の柵が置いてある。感染予防のためとあるが、坂道は義時の墓所に通じているので、金を払わずに寺域に入るのを防いでいるのであろう。公平性を考えれば、致し方ない処置かもしれない。せめて写真を撮ろうと、柵の外から狙ってみたが上手く撮れない。あきらめて戻ろうとしたら甘い香りがした。蝋梅が、柵の外まで届けてくれたのだろう。

こんなふうに書くと、拝観寺院になったことを批判しているみたいだが、仏像巡りにとって、事前予約の志納というのはハードルが高いし、個人の観仏は受け付けてくれないところも多い。お寺さんからすると、観仏客というのは面倒くさい存在なのだ。だから、お金を払えば観仏できる拝観寺院は、有り難い存在なのである。

地元では、「北條寺が拝観料を取るらしい(笑)」みたいな扱いだが、拝観寺院になると、寺を空けるわけにもいかないし、人を雇ったりもするので大変なことも多いと思う。伊豆長岡温泉の近くとはいえ、寺の周辺にはイチゴ狩り以外これといった観光地は無いので、大河ドラマが終了したら北條寺を訪れる者も少なくなるであろう。非拝観寺院に戻ってしまうと、観音さんや阿弥陀さんに会うことも難しくなる。これはこれで寂しい話である。

続きは、近いうちに。

2022年1月10日月曜日

黒島結菜「ある夜、彼女は明け方を想う」~蛇足は駄作か名作か~(思いっきりネタバレあります)

映画「明け方の若者たち」のスピンオフ映画「ある夜、彼女は明け方を想う」が、Amazonプライムにて配信されており、視聴させてただきました。映画やドラマのスピンオフを配信サイトで公開するというのは、最近よく行われている商法ですね。レビューの評価は星三つですけど、5と1ばかりで中を取っての3。これだけ評価の分かれる作品も珍しいかと思います。

結論から云うと、どうなのかなぁってところでしょうか。カツセマサヒコ氏も、いろいろな意見があることは嬉しいと仰ってましたので、遠慮無く書かせて頂きました。作品を愛するが故と捉えて下さると嬉しいです。

作品紹介は次の通りです。

「黒島結菜」演じる<彼女>の知られざる“秘密”を描いた、映画「明け方の若者たち」のアナザーストーリー。本編では描かれなかった<彼女>の物語について、原作者カツセマサヒコが原作発売時から書きためていた幻の作品を映像化。

あらすじです。

留学先のニューヨークで、出張に来ていた現在の夫(若葉竜也)と出会い、恋に落ちた<彼女>(黒島結菜)。3年間の交際を経て大学院在学中にプロポーズされ、幸せに溢れた結婚生活を送っていた。しかし、夫の海外転勤と<彼女>に届いた内定通知をきっかけに卒業後の生き方についてすれ違い、2人の人生の歯車は、ずれはじめる。そんな中、行けなくなった飲み会に代わりに参加してもらえないかと、友人(小野花梨)から頼まれる。仕方なく行ったその退屈な飲み会で、<彼女>は<僕>に出会ってしまう。

ここから先は、本編映画の通りであります。

本編では、<彼女>が<僕>に出会ったときは、既に結婚していましたが、この作品の前半部分では、結婚に至るまでの過程と、夫がニューヨークに単身赴任するまでが描かれています。

先日の舞台挨拶で、原作者のカツセマサヒコ氏は、作品は本編だけでも完結しているみたいなことを話してました。(是非見て欲しいとは云わなかった)確かに、スピンオフは、見ればなるほどと思いますけど、見なくても全然困りません。本編の<彼女>は、どことなくミステリアスな部分を持っていましたが、説明してしまうと理解が進む反面、つまらなくもなりますから難しいところであります。それから、<彼女>が浮気をしたことを同情的に描こうとすると、夫を悪者にしなくてはなりません。でも、やり過ぎると、だったら離婚すれば良いだろうってなりますからね。ここもサジ加減が難しいなぁと思いました。

さて、(若林竜也)さん演じる<夫>は、想像していたよりも年上の、大人の男性でした。で、コイツが兎に角、いけ好かない奴であります。(若林さんではありません。役のことです。)こういうタイプの男は、僕らヲタクからすると天敵であります。

まず。煙草を吸っている。大人を演出しているんでしょうけど、黒島さんに受動喫煙させるなんて許せません。結婚を機に禁煙すべきでしょう。

それから、まあ、これが最大の嫌悪感を抱くところなんですけど、コイツはDV男であります。ニューヨークに付いて行くと云っていた<彼女>が、内定をもらったとたんに行かないと言い出したんですから、怒りたくなる気持ちは分かります。でも、彼女の就職先をボロクソに貶すわ、暴力を使って威嚇するわは無いでしょう。これじゃあ、拘束癖モラハラDV夫であります。暴力に怯える<彼女>を演じる黒島さんのお芝居が、この作品最大の見所かと思いますけど、後味悪すぎです。

この場面以外では、ずっと優しい夫なんですけどね。でもDVをする奴ってのは、自分の思い通りになっているときは、凄く優しいものです。これダメでしょう。だったら、<彼女>を悪女にしたほうがずっとマシです。僕的には<夫>が空港で指輪を外すシーンだけで、十分に思いました。

で、この指輪のシーン。その直前に、セキュリティー・チェックの話をしているんですよね。そのために外したともいえるような描き方・・・<彼女>の一方的勘違いってこと?


<夫>とのデートシーンは、大人の雰囲気を演出していましたね。これからすると<僕>との本編は、ぎこちない高校生のデートみたいなものです。勿論、そういう対比で描こうとしていたんでしょう。でも、観ていて微笑ましいのは、本編の方。

そんな<彼女>が、夫が帰国したとたんに、<僕>との関係を捨ててしまうんですよね。ずっと指輪をしていたのは、<夫>への思いが変わらなかったことを表しているらしい。結局<彼女>とって<僕>ってのは、その程度の存在だったのかなぁ。北村君が「全部好き」って云ったところで、<夫>には全然敵わなかったってことでしょうか。本編で<親友>が云った「これを機会に良い男になろうぜ。」という台詞が心に響きます。

後半部分は、<僕>と別れた<彼女>のその後が描かれていました。どうやら不倫してたことを旦那に話したみたいですね。黒島さんのベッドシーンの表情のことで、ネットニュースが、あーだこーだと書いてましたけど、これって、泣きながら謝っていただけじゃないですか。まあ、旦那もニューヨークでは、結婚指輪外してヨロシクやっていたでしょうから、お互い様ってところでしょう。

で、この夫婦、幸せになる予感が全然しないのは、僕だけ?


互いの親友同士が、付き合っているかのような台詞もあったりして・・・匂わせ散りばめて、視聴者困惑させて、どうするつもりなんだろう。

ラストで、大学院時代の友人と明大前で飲んだ後、くじら公園を訪れる<彼女>。ベンチの上に置いてあるハイボールの空き缶を見て、マジックアワーを思い出す場面が、クライマックス。本編でも、<僕>が同じ事をしていましたよね。本編でも、両方のシーンを合わせたら面白かったように思います。明大前で別々に飲んでいた二人が、それぞれ、くじら公園を訪ねるようなエンディングがあると、黒島さんのファンとしても嬉しかったかな。

この作品が蛇足なのは確かです。駄作か名作かは、人それぞれでしょうけど、僕的には観て良かったという感覚にはなれませんでした。彼女のミステリアスな部分を残しつつ、本編でも旦那とのシーンを軽く流すくらいが良かったかなあ。ドンデン返しは、物語の前半でやってしまって、あとは沼に落ちていく二人を描いてくれれば、思いっきり感情移入できたかも。

とはいっても、女優「黒島結菜」の存在感を世に示すことができたのは、嬉しい限り。過去作品と比べても、取り上げられ方が違いますからね。朝ドラに向けての良い助走になったと思います。北村匠海君に感謝、映画の関係者さんたちにも感謝です。

チェンジアップのキレ具合は分かりましたから、次は、ど真ん中の速球で勝負して欲しいなぁ。

#明け方の若者たち  #黒島結菜  #北村匠海        #ある夜、彼女は明け方を想う

2022年1月4日火曜日

黒島結菜「明け方の若者たち」鑑賞記(ネタバレあります)

新鮮な気持ちで鑑賞させていただこうと、原作小説も買わずに公開を待っていたのですが、迂闊にもスピンオフ映画のあらすじを読んで、オチを知ってしまいました。ショックです。

ネット予約とかしてなかったのでチケット販売機に並んだら、「こちらにどうぞ」ってカウンターに案内されました。お姉さんに「何をご覧になりますか」って云われて、何だか気まずかったです。だって「R15+」ですよ。(エロ親爺に思われたらイヤだなぁ)なんて考えてたらパニクってしまって、「夜明けの若者たち」って云ってしまいました。「えっと、明け方の若者たちですね」って言われてチケットを渡されて、凄く恥かしかったです。

座席数100人ほどの劇場に、観客は十数人でしょうか。匠海君のファンらしき女性が多数派のようで、場違い感があります。


夏のシーンが多くって、画面からは、やたら蝉の鳴き声が聞えてきます。撮影の目撃情報が出ていたのが昨年の2月頃で、撮影期間は約二週間とありました。黒澤監督の名言に「夏のシーンは冬に撮る」ってのがありますけど、Tシャツ着てアイスクリーム持ってとか、本当は寒い中でやってるんだろうなぁ、なんて考えながら見ていました。寒い中、お疲れ様です。


物語は「沼のような5年間」を描写していて、時々「2013年12月」みたいな字幕が出てくるんですけど、見ている感覚としては「ひと夏の(禁断の)恋」って感じかな。

僕は、「マカロニえんぴつ」とか知らないし、RADWIMPSだって「前前前世」しか知りませんから、アルバムは3と4のどっち?って言われても分からないし、明大前や高円寺とも全く無縁です。世代的にも重なるところがないので、感情移入はしにくかったかなぁ。ただ、学生時代の知り合いからの急な電話は要注意ってのは、いつの時代も同じですね。

あと、結論から云うと、「何でR15+にしたんだ」ってところでしょうか。過激なベッドシーンがNGなことは分かっているし、双方のファンも、そこは期待していないと思うんですよね。だったら、その尺を使って、二人の普通に素敵な場面を撮ったほうが良かったんじゃないかなぁ。中途半端なHシーンなんて直接演じなくても、観客が勝手に想像しますよ。どうせ撮るんだったら、リアル感なくってもいから、もっと綺麗にってところかなぁ。

さて、登場人物では、「井上祐貴」君が演じた主人公「僕」の親友「尚人」が良かったですね。研修会でのリーダーシップとか、引っ越しを手伝ってあげたりとか、優秀だし優しいし、それでいて遊びもできる。メンタルやられて出社できなくなった「僕」のアパートを訪ねて、コーヒーを入れてやるなんて良い奴過ぎでしょ。コーヒーに角砂糖4つ入れるとか、励まし方にも洒落が効いてるし。僕的には、ここが一番泣けるシーンでした。彼のような優秀な人材に、数年で早期退社されるような会社じゃ、先は無いかと思いますよ。2、3年で見い出して、希望である企画部に抜擢すべきです。

兎に角、良い奴なんで、「僕」が気付かない間に、「親友」と「彼女」が付き合ってましたなんて展開にならないかと、ヒヤヒヤして見てました。

「北村匠海」君が演じた、主人公の「僕」は、自宅通学風俗ラブホ未経験設定感が、リアルに出ていました。ちょっと優柔不断で、主人公なんだから格好良くシャキッとしろって思いましたけど、そういう役柄だったんですね。

でも、理想と現実の狭間とか云っても、大企業の総務部で働いていて、ブラック企業でもないし、パワハラされているわけでもないし、給料もちゃんと貰っているんだから、フリーターや派遣社員からすれば、羨ましい限り。総務の退屈な仕事(研修会場の椅子並べとか)だって、誰かがやらなくちゃ会社は成り立たちませんよ。って云うか、この映画、総務部をネガティブに描きすぎでしょ。

それに理想は、仕事以外でも追求できるわけで、この辺が、イマイチ感情移入できないところかなぁ。あと、印鑑の押し方、知りませんでした。勉強になります。

それにしても、就職した後でも、こんな良い親友と可愛い彼女と3人で飲めるなんて羨まし過ぎ。なんて贅沢なマジックアワーなんだ。

「黒島結菜」さんが演じた「彼女」は、想定通りの雰囲気。今までも、いろんなドラマや映画で彼女役を演じてきましたけど、やっぱりハマります。彼女役をやらせたらピカイチですね。濃厚なキスシーンもあって、大人の雰囲気を出しているんですけど、細かい仕草などは可愛い「芳山未羽」のままなのでギャップがありました。まあ、そこが彼女らしさであり、大学院生で人妻という設定にも合っていたように思います。あとは、どんな格好をしても似合いますね。可愛い。最近は、モデルさんみたいな仕事も多いようですけど分かります。パンフレット買えば良かった。

主演は、あくまでも北村君なので、別れた後の残り30分は全然出てきません。最後くらいは出るのかと期待してましたけど、ダメでした。スピンオフ映画(Amazonプライム)では、そんな彼女のことを描いているようです。それと合わせて1本の作品にしてくれると嬉しかったのですが、恐らく、映画で釣って、Amazonに加入させようという戦略なんでしょう。(引っ掛かりそう)


「彼女」は、一言で云うと悪い女ですけど、そこに嫌悪感を抱かせないのが、黒島さんの魅力・・・っていうか、そんな綱渡りみたいな役柄ばかりオファーされているような気がします。でも、「八郎沼」の時みたいに、北村君のファンから叩かれることは無いかと思いますよ。今回は、彼も同罪ですから。
あと、別れるときの台詞「ごめんね。ちゃんと、すごく好きだったよ。」が良かったです。・・・言われた匠海君は、やるせないだろうけど。


僕は、見る前にオチを知ってしまいましたが、観る側に知らせずに、終盤で種明かしをするという演出は面白いと思いました。「僕」が何であんなに遠慮がちだったのかが、ここで納得できましたしね。

不倫はイケないことですけど、それを承知でしてしまうのは、本当に好きだからってことなのかなぁ。誘ったのは「彼女」の方だけど、隠してたわけじゃありませんし、(騙されてたのは観客だけ)全て承知の上での事だから、「僕」に同情の余地はないし、純粋なラブストーリーだと思って見ていた人だったら、裏切った二人に嫌悪感を抱くかもしれませんけど、映画の世界ですからね。

でも、この映画、オチを知っていたとしても、別な視点で面白く見れると思いますよ。結局は、禁断の恋の沼でもがく男女っていう話だと思うんですけど、人気の「北村匠海」と、次期朝ドラ女優の「黒島結菜」を使っているんですから、もっとストレートに描いても良かったんじゃないかなぁ。160kmのフォーシームを投げられるピッチャーが、チェンジアップで勝負してきたって感じ、意表を突いてるんだけど、それじゃない感があるんですよね。

そんなモヤモヤなストーリーを救ってくれたのが、二人を見守り、「僕」の心も救ってくれた「親友」の存在でした。「これを機会に良い男になろうぜ。」って泣ける台詞。おかげで、「僕」も最後の最後で、仕事にも前向きになれたみたいだし、いろいろあったけど、これもハッピーエンドなのかなぁ。

「明け方の若者たち」は、恋愛に感動する物語でも、挫折に悲しむ物語でもありませんでした。「良い友は一生の宝物」・・・ありきたりな言葉だけど、これが、映画を観た僕の感想です。

くじら公園のベンチに、ハイボールの空き缶並べてる奴、絶対いると思う。


#明け方の若者たち  #あけわか  #黒島結菜

#北村匠海         #井上祐貴