2022年1月24日月曜日

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の舞台を巡る その1 ~「眞珠院」「北條寺」~

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の序盤の舞台である伊豆の国市を巡った。放送開始直後ということでそれなりに賑わっていたが、ちょっと行ってみようかって感じの地元ナンバーの車がほとんど。穏やかな週末の、のんびり旅。

「眞珠院」は、八重姫ゆかりの寺院である。「鎌倉殿の13人」で「八重姫」を演じているのは「新垣結衣」さん。八重姫の一般的な人物像は「曽我物語」の記述によるものであろう。眞珠院が八重姫伝説の寺院とされているのも、この物語に由来している。


眞珠院の現在の宗派は曹洞宗とのことである。境内には、正安4年(1302)に建立された五輪塔があるので、開闢は、それ以前とされているが、二度の火災により古文書等が失われてしまい、詳しいことは分からないそうだ。

境内は綺麗に手入れされ、落ち着いた佇まいの寺院である。山門を入ってすぐの所に、八重姫の像を祀った御堂がある。悲劇の主人公「八重姫」は万願寺に葬られ、供養塔もそこにあったそうだが、明治初期に万願寺が廃寺になったので、眞珠院に移されたとあった。御堂の脇にある大きな木は、那木(梛木)の木だそうだ。


眞珠院は拝観寺院では無いが、本堂の脇に庫裏があり、ご住職が在宅であれば、御朱印がいただける。玄関に入り御朱印をお願いすると、その度に奥に行って書いてくれる。時間がかかるが、1日に訪れる拝観者の数もしれているから、困ることもないのだろう。返された御朱印帳には、梛木の葉が入った小封筒が挟んであった。梛木の葉は横に割けないので「愛」「縁結び」のお守りになるんだそうだ。


寺のすぐ前には、狩野川の支流である古川が流れている。ここには八重姫が身を投げた「真珠ヶ淵」という深い淵があったとされているが、護岸工事のため面影は全く無い。


実は、八重姫は謎の多い人物で、実在したかどうかも定かで無い。言い換えれば、極めて自由度の高いキャラであるから、脚本家「三谷」氏のやりたい放題が許されるわけで、それはそれで楽しみである。人気女優「新垣結衣」さんを起用するのであるから、かなりのキーパーソン。今後大活躍をするガッキーに対して、史実と違うなどと批判するのは、野暮というものだ。





「北條寺」は、北条義時ゆかりの寺院である。北条時政の館跡からは、狩野川を挟んだ東側にあるが、鎌倉時代の狩野川は、もっと西側を流れていて、当時は、地続きだった。この地は、「江間」とよばれていて、ドラマでは、再婚した八重姫の屋敷があることになっているが、互いの屋敷を覗ける程の近さではない。江間はイチゴの栽培が盛んなところで、昭和の頃は、イチゴの収穫期には学校が休みになって、江間の子どもたちは、収穫したイチゴを詰める木箱作りを手伝わされたそうだ。義時は元服後「江間義時」と名乗っていたから、この地を本拠地にしていたのは間違いない。


北条家の嫡男は「北条宗時」であったが、石橋山の合戦で宗時が戦死した後、次男である義時がすんなりと嫡男になったわけでは無いらしい。時政には、「宮沢りえ」さん演じる「牧の方」という後妻がいて、時政は、そちらの系統を跡継ぎにと考えていたようで、義時が江間の姓を名乗り、この地に屋敷を構えたのは、分家として扱われていたからと云われている。

北條寺は、江間義時の館跡の近くにあり、義時が創建した寺院と伝わっている。境内の高台には義時夫妻の墓があり、北条政子が寄進したとされる繍帳(とばり)も伝わっているが、寺院が創建されたのは南北朝期らしい。

寺宝は、仏像二躯と、重厚な刺繍が施された「牡丹鳥獣文繍帳」で、どちらもガラス越しながら、すぐ近くで拝観させていただける。

木造阿弥陀如来座像は、県指定の文化財で、鎌倉期の作とされている。等身大より少し小さな像で、ヒノキの寄木造だそうだ。寺伝では、運慶作となっているが、そうでないにしても、慶派の名のある仏師の作なのは確かなようだ。ちょっと見ただけでは分からないが、玉眼が入っているらしい。体躯は引き締まり、表情は若々しく、品のある良仏である。

木造観世音菩薩座像は、カツラの寄木造で、県指定の文化財。本堂の真ん中に置かれているので、こちらが御本尊のようだ。この仏像の特徴は、左足を下ろして、右足を前に外す「遊戯坐像」とよばれる座り方にある。中国の宋の影響を受けたもので、青雲寺の「滝見観音」や、東慶寺の「水月観音」など、鎌倉周辺の寺院に多く伝わっている。寺伝では、鎌倉の「極楽寺」から伝来したとされていて、如何にもそれらしい。水月観音は女性的な像だが、こちらはイケメン男性である。

両像とも、南北朝期の作とされていたり、作者がハッキリしなかったりで県指定の文化財止まりだが、仏像のデキとしては重要文化財レベルに思う。

北條寺を訪れるのは二回目である。最初に拝観させていただいたのは、11年前の今頃であった。事前に電話で拝観のお願いをしてから寺を訪れた。住職は出かけているとかで、奥さんに寺の由来や仏像の説明をしていただいたのを覚えている。僕の目当ては二躯の仏像だったが、北条政子寄進の繍帳がご自慢のようであった。室町時代作とされている繍帳が、政子寄進と云うのは矛盾しているが、寺伝とは、そういうものであるし、政子が寄進した繍帳が、かつて存在したことまでは否定できない。それに室町時代の繍帳だって、貴重なものには違いない。拝観料は志納であったので、御朱印代を含めて1000円くらい納めたんだと思う。

北條寺は、今月から拝観寺院になった。拝観料は500円。大河ドラマの主役「小栗旬」さん演じる北条義時ゆかりの寺院であれば、だろうなとは思う。寺の入り口に一人、駐車場に二人の誘導員がいて、拝観受付所にも二人。その隣には、小さな売店もできていた。

受付で、御朱印をお願いしたら、書き置きになると云われた。折角なので、義時の朱印を頂くことにした。達筆で素敵な御朱印であったが、よくよく見ると印刷に見える。今まで300筆以上の御朱印をいただいてきたが、印刷物というのはかなりのレア。これはこれで記念になるだろう。

本堂の入り口で、アルコール消毒。中に入ると、寺院の紹介映像がエンドレスで流れていた。すぐ隣に本物があるのに、わざわざ映像で見るのも可笑しな話であるが、コロナ禍で対面の案内を避けているのかもしれない。仏像は、中央に観音菩薩さん、向って右に阿弥陀如来さんと、変わること無く安置されていた。ガラス戸も以前のままだった。本堂には、お姉さんがいたけれど、仏像の解説をすることはなかった。勿体ない話である。仕事を辞めてボランティアガイドになりたい。

駐車場横の小山に蝋梅の花が咲いていた。以前は、自由に登ることができたのだが、立ち入り禁止の柵が置いてある。感染予防のためとあるが、坂道は義時の墓所に通じているので、金を払わずに寺域に入るのを防いでいるのであろう。公平性を考えれば、致し方ない処置かもしれない。せめて写真を撮ろうと、柵の外から狙ってみたが上手く撮れない。あきらめて戻ろうとしたら甘い香りがした。蝋梅が、柵の外まで届けてくれたのだろう。

こんなふうに書くと、拝観寺院になったことを批判しているみたいだが、仏像巡りにとって、事前予約の志納というのはハードルが高いし、個人の観仏は受け付けてくれないところも多い。お寺さんからすると、観仏客というのは面倒くさい存在なのだ。だから、お金を払えば観仏できる拝観寺院は、有り難い存在なのである。

地元では、「北條寺が拝観料を取るらしい(笑)」みたいな扱いだが、拝観寺院になると、寺を空けるわけにもいかないし、人を雇ったりもするので大変なことも多いと思う。伊豆長岡温泉の近くとはいえ、寺の周辺にはイチゴ狩り以外これといった観光地は無いので、大河ドラマが終了したら北條寺を訪れる者も少なくなるであろう。非拝観寺院に戻ってしまうと、観音さんや阿弥陀さんに会うことも難しくなる。これはこれで寂しい話である。

続きは、近いうちに。

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