大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の序盤の舞台である伊豆の国市を巡った。放送開始直後ということでそれなりに賑わっていたが、ちょっと行ってみようかって感じの地元ナンバーの車がほとんど。穏やかな週末の、のんびり旅。
「眞珠院」は、八重姫ゆかりの寺院である。「鎌倉殿の13人」で「八重姫」を演じているのは「新垣結衣」さん。八重姫の一般的な人物像は「曽我物語」の記述によるものであろう。眞珠院が八重姫伝説の寺院とされているのも、この物語に由来している。
境内は綺麗に手入れされ、落ち着いた佇まいの寺院である。山門を入ってすぐの所に、八重姫の像を祀った御堂がある。悲劇の主人公「八重姫」は万願寺に葬られ、供養塔もそこにあったそうだが、明治初期に万願寺が廃寺になったので、眞珠院に移されたとあった。御堂の脇にある大きな木は、那木(梛木)の木だそうだ。
寺宝は、仏像二躯と、重厚な刺繍が施された「牡丹鳥獣文繍帳」で、どちらもガラス越しながら、すぐ近くで拝観させていただける。
木造阿弥陀如来座像は、県指定の文化財で、鎌倉期の作とされている。等身大より少し小さな像で、ヒノキの寄木造だそうだ。寺伝では、運慶作となっているが、そうでないにしても、慶派の名のある仏師の作なのは確かなようだ。ちょっと見ただけでは分からないが、玉眼が入っているらしい。体躯は引き締まり、表情は若々しく、品のある良仏である。
木造観世音菩薩座像は、カツラの寄木造で、県指定の文化財。本堂の真ん中に置かれているので、こちらが御本尊のようだ。この仏像の特徴は、左足を下ろして、右足を前に外す「遊戯坐像」とよばれる座り方にある。中国の宋の影響を受けたもので、青雲寺の「滝見観音」や、東慶寺の「水月観音」など、鎌倉周辺の寺院に多く伝わっている。寺伝では、鎌倉の「極楽寺」から伝来したとされていて、如何にもそれらしい。水月観音は女性的な像だが、こちらはイケメン男性である。
両像とも、南北朝期の作とされていたり、作者がハッキリしなかったりで県指定の文化財止まりだが、仏像のデキとしては重要文化財レベルに思う。
北條寺を訪れるのは二回目である。最初に拝観させていただいたのは、11年前の今頃であった。事前に電話で拝観のお願いをしてから寺を訪れた。住職は出かけているとかで、奥さんに寺の由来や仏像の説明をしていただいたのを覚えている。僕の目当ては二躯の仏像だったが、北条政子寄進の繍帳がご自慢のようであった。室町時代作とされている繍帳が、政子寄進と云うのは矛盾しているが、寺伝とは、そういうものであるし、政子が寄進した繍帳が、かつて存在したことまでは否定できない。それに室町時代の繍帳だって、貴重なものには違いない。拝観料は志納であったので、御朱印代を含めて1000円くらい納めたんだと思う。
北條寺は、今月から拝観寺院になった。拝観料は500円。大河ドラマの主役「小栗旬」さん演じる北条義時ゆかりの寺院であれば、だろうなとは思う。寺の入り口に一人、駐車場に二人の誘導員がいて、拝観受付所にも二人。その隣には、小さな売店もできていた。
受付で、御朱印をお願いしたら、書き置きになると云われた。折角なので、義時の朱印を頂くことにした。達筆で素敵な御朱印であったが、よくよく見ると印刷に見える。今まで300筆以上の御朱印をいただいてきたが、印刷物というのはかなりのレア。これはこれで記念になるだろう。
本堂の入り口で、アルコール消毒。中に入ると、寺院の紹介映像がエンドレスで流れていた。すぐ隣に本物があるのに、わざわざ映像で見るのも可笑しな話であるが、コロナ禍で対面の案内を避けているのかもしれない。仏像は、中央に観音菩薩さん、向って右に阿弥陀如来さんと、変わること無く安置されていた。ガラス戸も以前のままだった。本堂には、お姉さんがいたけれど、仏像の解説をすることはなかった。勿体ない話である。仕事を辞めてボランティアガイドになりたい。
駐車場横の小山に蝋梅の花が咲いていた。以前は、自由に登ることができたのだが、立ち入り禁止の柵が置いてある。感染予防のためとあるが、坂道は義時の墓所に通じているので、金を払わずに寺域に入るのを防いでいるのであろう。公平性を考えれば、致し方ない処置かもしれない。せめて写真を撮ろうと、柵の外から狙ってみたが上手く撮れない。あきらめて戻ろうとしたら甘い香りがした。蝋梅が、柵の外まで届けてくれたのだろう。
こんなふうに書くと、拝観寺院になったことを批判しているみたいだが、仏像巡りにとって、事前予約の志納というのはハードルが高いし、個人の観仏は受け付けてくれないところも多い。お寺さんからすると、観仏客というのは面倒くさい存在なのだ。だから、お金を払えば観仏できる拝観寺院は、有り難い存在なのである。
地元では、「北條寺が拝観料を取るらしい(笑)」みたいな扱いだが、拝観寺院になると、寺を空けるわけにもいかないし、人を雇ったりもするので大変なことも多いと思う。伊豆長岡温泉の近くとはいえ、寺の周辺にはイチゴ狩り以外これといった観光地は無いので、大河ドラマが終了したら北條寺を訪れる者も少なくなるであろう。非拝観寺院に戻ってしまうと、観音さんや阿弥陀さんに会うことも難しくなる。これはこれで寂しい話である。
続きは、近いうちに。
0 件のコメント:
コメントを投稿