2017年7月26日水曜日

「ロマンスの神様」松浦亜弥&稲葉貴子

 「歌ドキッ」のテイクですね。視聴回数が70万回越えですけど、タイトル名が「ロマンスの神様」だけ(意図的?)なので、松浦亜弥さんのテイクだと知らずに迷い込んでくる人も多いかもしれません。

 オリジナルは、ハイトーンボイスで有名な「広瀬香美」さん。現在は、ライブ活動の他に、音楽学校を経営したり、著書も多数出したりしているとのことです。
 広瀬さんは、今でもライブでは、キーを下げずに歌っているそうで、4オクターブの音域を維持されているとのことでした。聞くところによると、3日トレーニングを怠けると、2音下がってしまい、元に戻すのには1週間かかるそうです。歌手として必要なのは、毎日の積み重ねって、・・・どこぞの育休中の元アイドルに聞かせてやりたい話です。

 もっとも、どこまで高い声が出せるかって云うのは、本来は男が競うモノで、女性であれば、どこまで低い声が出せるかが勝負だと思います。高い音で歌うだけなら、初音ミクでもできますからね。
 このテイク、オリジナルより2音くらい下げて歌っています。で、その結果、サビ前が低くて辛くなっちゃいましたね。


 稲葉貴子さんとのデュオというと、2003年の「松リングPink」が思い出されます。あの頃は、「あやや」もまだセンが細くって、ステージングに関しては、稲葉さんに一日の長があったように思います。
 ライブでの立ち振る舞いも、稲葉さんから教わったなんてことを言ってました。2003年というと、松浦亜弥さんにとって、いろいろと苦しい頃だったはずですし、良いときも悪いときも見守ってくれていたのが、稲葉さんでしょうから、(僕が云うのも変ですけど)亜弥さんにとっては、大恩人ではないかと思います。

 で、今頃気づいたんですけど、このテイク、歌は別録りですよね。

 YouTubeの動画では映像と音声がズレることはありますけど、これは、明らかに合っていません。そう思って見てみると「歌ドキッ」って、別録りかもって云うテイクが、結構あるように思います。何となく違和感を感じていた「ひこうき雲」も、別録りな気がしてきました。
 まあ、別録りだからといって、本人が歌っていることには、変わりありませんし、レコーディングのように、何度も録り直して、良いところだけつなげるなんてことをしているとも思えません。それに、松浦亜弥さんは、何回も歌わせられるのはイヤでしょうから、絶対、一発OKにしたがるはずです。自分の持ち歌でもないのに、何でこんなに「余裕ブッこいて」歌えるでしょうか。まあ、稲葉さんは、録り直して欲しかったかもしれませんけど・・・。

 さっき、高い声を競うだけなら初音ミクでもできるって云いましたけど、これこそ、人間の歌ですよね。歌声に表情が出ている。もちろん広瀬さんの突き抜けるような高音も魅力的ですけど、これはこれでアリだと思います。広瀬香美さんは声を聞かせ、松浦亜弥は歌を聴かせる。ってところでしょうか。

 お終いに、一つだけ云えること。松浦亜弥さんは、音楽学校の講師には、絶対不向きだと云うことだと思います。

2017年7月22日土曜日

ウォーターライン製作記⑨ ~航空母艦「蒼龍」と真珠湾攻撃~

   当時、日本は、ナチスドイツと同盟を結んでいました。これは成り行きでそうなっただけで、特段に強い信頼関係があったわけではありません。中国を侵略中の日本は、ソ連とは戦争をしたくなかったのに、ドイツはソ連に侵攻してしまいましたし、ドイツは、ヨーロッパの戦争にアメリカが介入して欲しくなかったのに、日本は真珠湾を攻撃しました。結局、お互いの足を引っ張り合っただけで、これと云った利点など無かったのが、日独伊三国同盟でした。
 「ナチスドイツは、思っているほど強くない」「アメリカと戦っても良いことは1つもない」などというのは、誰もが分かっていることでした。

 開戦前に提出された対アメリカ戦の研究報告書には、「開戦初期には勝利が見込めるものの、長期戦になることは必至であり、日本の国力では、資源不足と生産力不足によって戦力の低下は避けられない。戦局が決定的に悪化すれば、最終局面で必ずソ連は参戦し日本は敗れる」とあったそうです。日本は、ここまで分かっていながら、開戦に踏み切ってしまったのです。

 でも、日本がアメリカに頭を下げ、戦争をしないで、結果、負けることなく、戦前の体制が今も続いていたら、この日本は、どんな国になっていたんでしょうか。アメリカは、戦争に勝ちましたけど、その後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争など、世界中の紛争に介入することになり、今でも、多くのアメリカの若者が、世界の何処かで犠牲になってます。今の日本の存在は、馬鹿な戦争をして、負けてくれたからこそあるとも云えます。
 歴史を反省することは必要ですけど、否定することはできないし、現在を肯定するということは、過去を受け入れることでもあると思います。


 さて、真珠湾攻撃に関しての評価ですけど、「アメリカ国民を本気で怒らせた」「攻撃が不十分だったので、アメリカの反撃を容易にした」などという批判的なモノが多いです。これは、結果的に戦争に負けたからであって、もし、勝っていれば(ありえない話ですけど)評価も180度変わっていたはずです。

 当時の日本海軍の仮想敵国は、(一応)アメリカでした。戦争が起きれば、日本は、資源を求めて東南アジアへ進出します。で、怒ったアメリカが日本近海にやってきます。そこを空母や潜水艦の攻撃で弱体化させ、戦艦を中心とした艦隊で迎え撃つというのが基本戦略でした。つまり、常識的で現実的な「防衛思想」です。こちらから、航空母艦で遠路遙々ハワイまで出掛けていって、要塞化された真珠湾の海軍基地を先制攻撃しようなんてのは、あまりにも奇想天外な発想でした。この有り得なさが、現実に実行されたことによって、今一つ理解されてないように思います。
 つまり、真珠湾攻撃などは、遂行不可能か、あるいは、決行しても失敗確実な作戦だったのです。

 アメリカは日本を完全に見くびっていました。この前まで、頭にちょんまげをのせていた民族です。黒船4隻でパニックに陥り、日露戦争で勝ったといってもイギリスの援助があればこそ、最近、新型の戦闘機を作ったらしいがエンジンは非力だし、そもそも、黄色人種で近眼な日本人に飛行機の操縦などできるわけがない。というのが、アメリカ人が日本人に対して持っていた一般的なイメージでした。
 これほど大掛かりな軍事行動が、奇襲という形で成功したのは、アメリカが日本を見くびっていたからに他なりません。


 写真を見て驚くのは、真珠湾の狭さです。この狭い湾内で魚雷攻撃を成功させたパイロットの技量は驚異的と云えます。かなりの低空から侵入したようで、雷撃機がビルの3階から見下ろせたという話も伝わっています。


 真珠湾攻撃を描いた映画はいろいろとありますが、何と云っても、20世紀フォックスと東映による日米合作映画「トラ・トラ・トラ!」でしょう。


 街にポスターが貼り出されていたのを、子ども心に覚えています。実際見たのは、少したってテレビで放映されたときでした。日米両国の視点で描かれていて、オタク的にはいろいろとツッコミ処もあるのでしょうが、余計な演出が無く、史実に最も近い作品だと思います。CGやVFXの無い時代、巨大な野外セットや本物の飛行機と大量の火薬を使って制作した映像は、実際の戦争により近いものと言えます。それにしても、自国の軍隊がボコボコにされる作品を、巨額な制作費を投じて作ってしまうんですから、アメリカって、懐が深いっていうか、たいした国だと思います。


真珠湾攻撃でよく批判されているこのが、第二次攻撃隊を出さなかったことです。日本の機動部隊は、奇襲には成功しますが、米空母を討ち漏らしてしまいます。また、石油タンクや修理ドックなどの港湾施設は、無傷のまま残してしまい、このことが、後々の戦局に大きく影響していったからです。

 ただ、「二次攻撃隊を出してこれらを叩いていれば・・・」というのは、結果論にすぎません。真珠湾攻撃の目的は、あくまでも、敵主力艦と航空機の撃滅でした。港湾施設への攻撃も検討されたようですが、空母6隻、航空機350機という、限られた戦力の中で、中途半端な攻撃に終わってしまうことを危惧して、艦船と航空機に目標を絞っていました。ただ、奇襲が想定以上に上手くいったので、一次攻撃で、ほぼ目標を達成できてしまったのです。
 で、ここで2つの選択肢があります。1つは、まだ余力もあるわけですから、二次攻撃を行って港湾施設を破壊する。もう1つは、戦力を温存して帰るかです。出張先で早々に仕事が片付いた時、サービス残業をすべきか否かって感じでしょうか。

 第一次攻撃隊も、完全な奇襲になった第一波と比べて、その1時間後に攻撃を行った第二波は、未帰還率が12%で、被弾損傷率も50%にのぼっています。母艦に戻ってきたものの、再出撃できる状態に無い機体も数多くありました。
 さらに、米軍は、混乱の中でも迎撃態勢を整えつつありました。破壊を免れた戦闘機を整備し、高射砲陣地を構築し、防空レーダーで監視しているわけです。第一次攻撃が順調にいったのは、米軍が油断していただけのことで、第二次攻撃を出せば、かなりの航空機が撃墜される恐れがありました。
 さらに、ハワイ近海には、討ち漏らした米空母が存在していました。二次攻撃隊を出しているときに、空母からの反撃を受けたら、ミッドウェーどころか、真珠湾の時点で、日本の機動部隊は全滅していたかもしれもしれないのです。
 目的を果たしたので、早々に帰還した。当然と云えば、当然の決断です。


 米軍の損害ですが、戦艦については、旧式の船ばかりで戦略的には、それほどの喪失にはならなかったとされています。しかし、航空戦力の、3分の2を失い、戦死者2,345名、負傷者1,347名、要塞化され攻撃は不可能とされた真珠湾を奇襲され、ほとんど反撃できなかったという衝撃は、大きかったはずです。
 アメリカは、工業力、技術力、知力、資源など、持てる全てを使って、日本との戦争に臨むことになり、結果として、無差別爆撃や原爆投下へとつながっていくわけです

 一方、思わぬ戦果をあげた日本軍は、楽観的な考えが支配するようになります。戦線を実力以上に拡大し、太平洋戦争を局地戦から世界大戦へと変えてしまいました。もはや、早期停戦など不可能となり、相手の国家体制を崩壊させない限り、戦争を止めることはできなくなりました。
 真珠湾攻撃は、明確な目標の下、綿密に計画され、準備された優れた作戦でした。しかし、その後の日本軍は、戦略の無い、場当たり的な作戦に終始することになっていきます。


 アオシマの「蒼龍」です。


 「蒼龍」は、1937年に竣工した中型の正規空母です。設計の段階から純粋な航空母艦として建造され、この後、建造された「飛龍」や「翔鶴」などは全て、この「蒼龍」を改良した艦になりますから、日本型航空母艦の原型と云えます。


 新金型とのことですが、極小部品も無く、サクサクと組み上げることができました。作り応えという点では、ハセガワの「赤城」よりも劣りますが、艦載機が専用パーツになっていて、汎用パーツで省略されていた、零戦の増槽タング、九九艦爆の車輪と爆弾、九七艦攻の魚雷などが、別部品として取り付けるようになっていました。まあ、爆弾あっての爆撃機ですから、嬉しい限りです。
 
 空母「赤城」との2ショットです。小さい方が「蒼龍」になります。プラモデルを作るまで、こんなに大きさが違うとは思いませんでした。


 「蒼龍」は、同僚艦「飛龍」とともに 第二航戦隊として、真珠湾へ出撃しました。蒼龍の航空隊の内訳は次の通りです。
 第一波 九七式艦攻18機(水平爆撃10機、雷撃8機)、零戦8機 全機帰還
 第二波 九九式艦爆18機(未帰還機2機)、零戦9機(未帰還機3機)
 攻撃隊が二波に分かれているのは、飛行甲板に一度に並べられる機体数に限りがあるからです。


 プラモデルでは、12機並べています。軽くて助走距離が短くて済む戦闘機が前、攻撃機が後ろです。空母は全速力で風上に向かって航行し、航空機は、向かい風を利用して飛び立って行きます。

 その後の蒼龍ですが、ウェーク島の攻略支援、南方攻略作戦に従事した後、インド洋へ進出し、セイロン沖海戦では、イギリス東洋艦隊に壊滅的打撃を与えています。
 そして、真珠湾攻撃から半年後、ミッドウェー海戦において、急降下爆撃機の攻撃を受け、3発の爆弾が命中、格納庫内の爆撃機や魚雷が次々と誘爆して撃沈、1,100名余りの乗組員のうち、艦長以下718名が艦と運命を共にしたとありました。機関科部員がほぼ全員戦死している一方で、飛行機の搭乗員は多くが救助されており、格納庫の上と下とで、大きく運命が変わってしまったようです。


 ずっと疑問に思っていたことがあります。それは、真珠湾を攻撃した目的が、アメリカの戦意を喪失させることにあった、と伝えられていることです。実際は、ご存知の通り、逆の結果になりました。その原因として、宣戦布告が遅れたからとか云われていますけど、では、攻撃の前に宣戦布告があって、機動部隊の喪失を恐れずに第2次、3次攻撃隊を繰り出して、完膚なきまで真珠湾を攻撃すれば、アメリカの戦意は喪失したのでしょうか。
 確かに、アメリカは建国以来、一度も本土を攻撃されたことがありませんでしたから、真珠湾攻撃の後、国内はパニック状態になります。が、厭戦気分にはなっていません。彼らは、多民族国家で個人主義者ではありますが、やられてそのまま引き下がるような国民ではありませんでした。
 だとすると、真珠湾を攻撃することでアメリカ国民の戦意を喪失させるという考えは、根本的に間違ってたということになります。

 相手を見くびり、侮っていたのは、日本の方だったのかもしれません。

2017年7月15日土曜日

ウォーターライン製作記⑧ ~金剛型戦艦と第三次ソロモン海戦~

 金剛型戦艦とは、大正2年から就役した旧日本海軍の4隻の戦艦「金剛」「比叡」「榛名」「霧島」の総称になります。
 1番艦「金剛」は、日本海軍がイギリスのヴィッカース社に発注して建造したものです。同型艦については、2番艦「比叡」が横須賀海軍工廠、3番艦「榛名」が神戸川崎造船所、4番艦「霧島」が三菱長崎造船所で建造されました。特に「榛名」と「霧島」は、民間の造船所で建造された最初の戦艦になります。
 両社ともに社の名誉をかけ建造を競いますが、神戸川崎造船所の工作部長が、工期の遅れの責任をとって、自刃してしまうという事件が起きます。以降は、優劣のつかないよう、竣工日を同日に設定するなど、海軍もかなり気を遣ったとありました。ちなみに、工期の遅れは、6日間だったそうです。

 意外と知られていないことなのですが、これ以前の日本海軍の主力艦は、全てイギリスなどに発注して造ってもらった外国製でした。日露戦争で活躍した戦艦「三笠」もイギリスのヴィッカース社製になります。
 当時、日本とイギリスの間には、日英同盟がありましたから、日本は、いろいろとイギリスに良くしてもらっていました。三笠は、元々、別の国の発注によって建造されていた艦だったようですが、順番を変更して、日本に優先的に納入してくれたそうです。三笠はイギリス海軍にも無いような最新鋭の戦艦でしたから、破格の好待遇になります。もっとも、イギリスにとっても、ロシアはイヤな奴でしたから、日本がロシアと戦うとあれば、そのくらいの援助は当然とも云えます。
 イギリスの援助を受けた日本海軍は、無敵と云われたロシアのバルティック艦隊を打ち破ります。そして、旗艦「三笠」の活躍は、イギリスのヴィッカース社にとっても名誉なことだったようです。

 そのような縁もあって、金剛の建造に関してもヴィッカース社は、いろいろと良くしてくれました。まず、イギリスの造船所でお手本となるべき1番艦を建造し、その設計図を基に日本で3隻を建造することになりました。最高の社内機密・軍事機密と云える設計図を譲渡するばかりか、1番艦の建造に日本の技師たちを参加させて、技術指導をするという、手厚さだったそうです。これによって日本の造船技術は飛躍的に向上し、研修した若い技師たちが、後に、戦艦大和建造の中心になっていくわけです。
 ウィキペディアには、進水式でシャンパンボトルを割るのでなく、日本式に、鳩の入ったくす玉を割ったところ、イギリス人に大いにウケたというエピソードが紹介されています。
 金剛型の4隻は、同じ設計図から造られた同型艦ですが、細かい仕様は、それぞれ異なっていたようで、イギリス生まれの「金剛」のデキが、最も良かったと云われています。

 フジミの戦艦「金剛」です。


 フジミのモデルの制作は、巡洋艦「摩耶」以来です。摩耶の組み立てに関しては、いろいろとストレスがありまして、フジミの製品に対して良いイメージが無かったのですが、ウォーターラインシリーズの金剛型の評判が悪いこともあって、再チャレンジとなりました。


 対空装備を大幅強化した、レイテ海戦モデルです。正にハリネズミ状態、対空機銃などは、取り付けらそうなスペースに全て取り付けた、という感じです。しかし、シルエットからうけるスマートさは抜群。ファンが多いのもうなずけます。


 組み立てについては、部品数、取り付け易さなど、摩耶とは別物と云える程良かったです。

 艦これでも、金剛型は人気キャラです。グループで一人は眼鏡キャラは、アニメの鉄則です。
 

 動画は自己責任でどうぞ。背景の戦艦は、ちゃんと金剛型になってます。


 金剛型の戦艦は、その後、2度の改修を経て、近代的な高速戦艦に生まれ変わります。攻撃力・防御力は、やや劣るものの、速力30ノットは、日本の戦艦群では、最速であり、高速機動部隊の護衛用として運用されました。また、上層部が、艦の損失を恐れ、来る決戦に備えて(?)最新の大和型を温存したことにより、開戦時には、すでに艦令が30年を越えていた超老朽艦であったのにもかかわらず、数多くの作戦に参加することとなり、皮肉にも太平洋戦争で最も活躍した戦艦となりました。
 これは、この後、建造された純国産の「山城」や「日向」が多くの欠陥をかかえていたため、太平洋戦争で全くといっていいほど使い物にならなかったのと対照的でした。

 金剛型の4隻が参加した多くの作戦の中で、最も熾烈な戦いとなったのが、第3次ソロモン海戦です。この海戦は、ガダルカナル島をめぐる戦いにおいて、米軍の飛行場を夜間砲撃によって攻撃しようとする日本軍と、それを阻止しようとする連合軍との間で二夜にわたり行われました。
 この海戦は、航空機が関与できない夜間に行われ、双方が操艦上の細かいミスを重ねた結果、艦隊はバラバラ、狭い海峡に敵味方が入り乱れることとなり、海戦史上、例の無い大乱戦となります。
 米軍の艦船はレーダーに艦影を捉えるものの、敵味方の判別もできない有様で、日米両軍ともに味方への誤射も続出。主砲、副砲、高射砲から機銃まで使い、至近距離で手当たり次第に撃ちあった結果、両軍合わせて15隻が撃沈、残った艦も全てが損傷を受け、双方に2,000名近い戦死者を出しました。日本軍は、作戦に参加した戦艦「比叡」「霧島」を失い、米軍も、艦隊司令官が2名とも戦死するなど大きな損害を出しました。
 海戦そのものは、痛み分けに近いと云えますが、飛行場攻撃に失敗したことで、ガダルカナル島での日本陸軍の敗戦は決定的となりました。この敗戦は、太平洋戦争のターニングポイントとされ、これにより、日米両軍の攻守は逆転し、以降、日本軍は敗北を重ねていくことになります。
 
 この海戦で、日本の水雷戦隊はアメリカ軍の新鋭戦艦に対して20本近い魚雷を発射しましたが、信管の調整ミスにより、命中する直前に、全て自爆してしまいました。このうちの数本でも当たっていれば、米戦艦を撃破できただろうと云われています。もっとも、米軍が発射した魚雷も、あまりにも距離が近すぎたため安全装置が働いてしまい、不発弾が相次いだそうですが。

 米軍が最新鋭の戦艦や航空母艦を投入してきたのとは対照的に、日本軍は、戦艦大和や武蔵をこの海域に投入することは、ありませんでした。「霧島」と撃ちあったアメリカの「ワシントン」は、この年に就役したばかり、レーダーと40センチ砲を装備した最新鋭の戦艦です。今年発売の新車と30年前に作られたクラシックカーで勝負したのですから、よく健闘したと云うべきでしょう。
 工業力に劣る日本は、失った戦力を回復するのは容易なことではありませんから、来たるべき決戦(?)に備えての戦力温存、出し惜しみは、理解できないことではありません。しかし、元々、短期決戦でしか勝つ見込みのない戦争のはずでした。太平洋戦争の雌雄を決する決戦に、失っても惜しくないからと老朽艦を派遣するという海軍の戦略は、あまりにもお粗末なものと云わざるを得ません。

 「比叡」「霧島」とも、沈没する直前まで、護衛の駆逐艦が横付けして救助にあたったので、ともに1,000名以上の乗組員が救助されたとあります。

 多くの激戦が行われ、日米両軍の艦船が多数沈没したこの海域は、軍艦や飛行機の残骸が海底を埋め尽くしていることから「アイアンボトム・サウンド」(鉄底海峡)と呼ばれるようになり、現在は、スキューバ・ダイビングの名所になっているそうです。赤字が日本、青字がアメリカの艦船の沈没地点です。


 1番艦「金剛」は、この後も数多くの作戦に参加し、レイテ沖海戦の後、日本に帰投する途中で、潜水艦の雷撃を受けます。命中した魚雷は2本でしたが、浸水を止めることができず、沈没してしまいました。歴戦の損傷で船体が痛んでいたためと云われています。雷撃から沈没まで2時間もあったのにも関わらず、避難命令が遅れたため、司令官、艦長以下1,200人が犠牲になりました。

 3番艦「榛名」は、1944年12月に日本に帰投しますが、すでに国内には、軍艦を動かす燃料は無く、そのまま浮き砲台として、呉軍港に係留されました。
 すでに日本海軍は事実上壊滅状態でした。それは、艦船が沈められたのでなく、動かす燃料が無くなったからでした。1945年4月、温存されていた戦艦大和は、日本に残っていたありったけの燃料を積んで沖縄に出撃していきました。

 榛名は、同年7月の空襲により、20発以上の命中弾を受け大破着底。そのまま、終戦をむかえ、解体されました。資材は、戦後復興に使用されたと云われています。

2017年7月8日土曜日

「最愛」KOH+ feat. 初音ミク ~ガリレオ「容疑者Xの献身」と「四色定理」~

 四色定理(四色問題)は、数学でグラフ理論と呼ばれている分野の問題です。簡単に言えば、世界地図を国別に色分けするとき色鉛筆は4本あれば可能、という定理になります。
 4色以上必要なことは明らかで、5色あれば十分という証明は成されていましたが、4色で必要かつ十分であることの証明は、長い間できませんでした。
 数学の世界での未解決の問題には、他にフェルマーの最終定理(1995年に証明)などがありますが、四色定理の面白さは、素人でもイメージ可能な、その簡潔さにあります。僕もこの話を高校生の時に聞いて、早速、ノートに試したものでした。
 日本地図を塗り分けしてみれば分かることですが、当てずっぽうでは、山梨県の辺りで行き詰まってしまって、4色で塗り分けるのは、意外と難しいものです。


 この定理は、1976年に証明されますが、この時、世界を驚かせたのは、証明にコンピュータを利用したことでした。人間が長年証明できなかった問題をコンピュータが解いた、という衝撃は、質的な違いはあるものの、現代の人工知能にも通じる出来事で、この証明を数学的に認めるのかという論争も起きたと云います。

 で、この四色問題を世間に広く知らしめたのが、劇場版ガリレオ「容疑者Xの献身」です。僕の周りにも、この映画で四色定理を知ったという人が何人かいます。


 天才「湯川」が認めた唯一の天才「石神」・・・良いですね。最高のキャラクターです。数学に優れた才能を持ちながらも、家庭の事情で研究者の道をあきらめ、人生を絶望している石神。人との付き合いを苦手とし、想いを相手に伝えることに不器用な石神。とにかく、感情移入しまくって見てました。事件が解決しないでくれと願ってしまうミステリーなんて、そうあるものではありません。
 石神が天才にもかかわらず、これだけ感情移入できるのも,彼がネットの住人たちが云うところの「こっちの人間」だからに他なりません。感動のラストシーンですけど、あれって、石神がフラれたってことですよね。無償の愛さえも受け入れてもらえないというオタクの哀れさが、あの叫びなんだと思います。

 主題歌「最愛」は福山雅治氏によるもので、オリジナルで歌っているのは柴咲コウさん。今回紹介させていただくテイクは、僕の大好きなmelodylightsさんによるカバー作品です。ミクの歌声があまりにも幼いので、かなりの違和感がありますが、まあ、これはこれで。


「この事件を解決したところで、誰が幸せになると云うんだ」
「となり同士は、決して同じ色になってはならない」
「君は不思議に思ったはずだ、なぜ警察は3月11日のことばかり聴くのかと。」

 印象的なセリフの数々です。湯川が四色定理の証明問題を手土産に石神のアパートを訪ねるシーンがありました。証明の不備を見つけるという課題に徹夜で取り組み解決してしまう石神。格好良かったです。
 レベルは全然違いますけど、数学の問題を徹夜で解いてた受験生の頃を思い出しました。大人になって、徹夜で報告書や企画書を書いていると、あの頃って、なんて贅沢な時間の使い方だったんだろうって思います。

 ガリレオシリーズというと、何と云っても、あの数式(微分方程式?)ですけど、この作品では封印していたみたいです。
 よく誤解されているようですけど、あれは一種の検算です。解答は、湯川の頭の中に既にあって、それを確かめるために計算しているにすぎません。でなければ、あんな速さで書けるわけありませんから。
 この前、テレビの数学チャンピオン決定戦みたいな番組で、同様な場面を見ました。東大の大学院生で、左利きの女の子でした。与えられた課題に対して、他の出場者が試行錯誤しながら解いているのをよそに、可愛らしい丸文字の数式を淀みなく連ねていました。この子が、既に頭の中に解答を得ていることは明らかでした。こういうことって、本当にあるんだって思いました。しかも、それが、ちょっとオタクっぽい、でも、とっても可愛い女の子だったんですから、よく覚えています。

 原作者「東野圭吾」が「堤真一」氏演じる「石神」をして「この証明は美しく無い」と云わせた四色問題の解法。コンピューター解析に依存しない証明は、現在もなされていないとのことです。

2017年7月2日日曜日

1/fゆらぎ理論と松浦亜弥

 エアコンを買い替えました。近所の量販店に行ったら、半年前の型で結構良いやつが、お手頃価格だったので決めました。そしたら、ポイントを5,000も付けてくれました。
 で、今度は扇風機を買いに行きました。今までは、扇風機なんて回っていれば良いって感じだったんですけど、5,000ポイント持ってますから、気分が大きくなってます。さすがに数万円もするダイソンは買えませんが、奮発して、1万円以上するDDモーターのやつを買ってきました。
 そしたら、コンセントにACアダプターが付いてるじゃありませんか。パソコンのコードみたいな感じです。消費電力は、従来のACモーターの半分なんですけど、アダプターに微弱電流が流れてますから、コンセントをさしっぱなしにしていると、電気代なんてトントンかもしれません。
 で、パナソニックなんで、憧れの「1/fゆらぎ機能」が付いてます。しかも、流線型7枚羽根です。直流モーターですから、低速回転が自在です。さっそく、スイッチを入れました。扇風機なんてどれも同じだと思っていた自分が、いかに浅はかだったか思い知らされました。                                                          
 一言で云うと、扇風機をつけていることを忘れてしまうほど快適です。

 さすが、「1/fゆらぎ」です。ところで、松浦亜弥さんの歌声が「1/fゆらぎ」になっているって云われていることをご存知の方も多いと思います。
 歌声の1/fゆらぎ分析は、いくつか行われていて、「美空ひばり」「宇多田ヒカル」「徳永英明」さんなどの歌声が、1/fゆらぎ成分を持つとされています。

 宇宙は、ゆらぎに満ちていて、僕らはゆらぎの中で生きています。高速道路で車が規則正しく等間隔で走っていたら、永遠に合流できません。
 1/fゆらぎは、予測可能な大きくゆっくりした変化に、予測困難な小さく早い変化が、「程よく」ミックスされた状態といえます。世の中は、たまーに起きる大きな出来事と頻発する小さな事件が「程よく」混在してる、なんて言い方もできるかもしれません。この「程よい」混ざり具合が「1/f」で表現できるというのが、理論の中心になります。(と思う)

 ネットから拾ってきた1/fゆらぎ曲線です。周波数や振幅幅が異なる6種類のSIN曲線を1/fゆらぎになるように合成しています。大変美しくできています。


 意図的に不快になるよう作らない限り、音楽は、基本的に1/fゆらぎ成分を持っています。良い音楽を作ろうとすれば、自ずから生体リズムに合致するからです。ただ、音楽に関するゆらぎ分析は、風速だけを考えていれば良い「そよ風」や、単調な音である「せせらぎ」と違って、一筋縄でいくようなものではありません。
 1/fゆらぎの理論的な部分は、僕も十分に理解しているわけでありませんが、分析そのものは、数学的な処理ですから、手順に従っていけば客観的な結果が得られます。分析用のフリーソフトなんかもあって、素人でも可能のようです。でも、これは、高級料理をミキサーで粉々にして栄養分析をして「この料理は体に優しい」とか云っているにすぎません。粉々にする定義を変えれば、結果も変わります。

 音楽に関する分析では、楽曲をfの指数によって分類しています。数値が「1」に近いものを「1/fゆらぎ」とし、数値が大きいほど癒やし成分が多く、小さいと刺激的という具合です。ロックは、数値が低く、クラッシックは大きいとされています。
 数値に最も影響を与えるのは、パーカッションだそうです。ロックの数値が低いのは、バスドラやハイハットをガンガン叩くからで、クラッシックはパーカスが前面に出ることはありません。まあ、その程度のことのようです
 歌声とゆらぎというと、「音痴」「ビブラート」「声量」などを思い浮かべます。これらも無関係ではありませんが、問題にしたいのは声質です。例えば、同じラの音でも、バイオリンとピアノでは音質が違いますし波形も異なります。同様に声質も歌手によって波形が異なり、これは先天的なモノとされています。で、これを分析しようというわけです。(たぶん)

 松浦亜弥さんについてですが、濱本和彦氏(東海大学情報理工学部情報メディア学科)の『1/f ゆらぎを用いた松浦亜弥の「国民的アイドル度」の客観的評価に関する研究』という論文が根拠となっているようです。以前は、ネットでも読むことができたようですけど、今は、検索不能になっていて、実は、僕は読んだことがありません。
 ですから、憶測で語るしか無いんですけど、論文の書かれた頃から推測すると、分析に使われた歌声はアイドル時代のものだと思います。複数の楽曲で分析したのであれば「めっちゃホリデー」とか「桃色片想い」あたりでしょうか。ライブ音源というわけでは無いでしょうから、恐らくCD音源。「あやや」の安定した高音と抑え気味のビブラート、平凡な声質あたりが、ゆらぎ指数を1に近づけた要因でしょうか。
 指数が1に近いということは、ゆらぎに関してはバランスがとれていると云えますが、だからと云って、歌手として、タレントとして優れているとはなりません。「松浦亜弥は1/fゆらぎだから国民的アイドルになった」のではなく、「一人の国民的アイドルを調べたら1/fゆらぎ成分をもっていた」ということにすぎません。だから何なの?って云われたら、それでお終いです。

 ただ、数値そのものは、客観的な評価ですから、全く役に立たないと決めつけるのもどうかと思います。食品のカロリー表示が購入の判断基準の1つになっているように、ゆらぎ指数は、漠然と表現するしかなかった楽曲や歌手のイメージを、数値として表すツールとしての可能性を持っています。『桃色片想い』(松浦亜弥)「演奏時間4分10秒:テンポ156:キーF♯:ゆらぎ指数0.93」なんて表示して、購入の判断材料の1つにしてもらえば良いわけです。
 ただ、カロリー表示だけでは美味しさが分からないように、ゆらぎ指数だけで名曲度や歌唱力の判断ができないのは、云うまでもありません。
 
 学術的な価値は別として、たくさんの歌手を分析して分類してみたり、松浦亜弥さんの歌声の経年変化をゆらぎという尺度で追跡してみるのも、面白いかと思います。いろいろとやっていけば、そのうち何か面白いことが分かったかもしれませんが、ブームが去ってしまった今となっては期待薄です。

 で、パナソニックの扇風機なんですが、ゆらぎ機能は、「蓼科高原」の風をサンプリングしたものとありました。1/fゆらぎのグラフは、計算式で簡単に描けるのですが、そうでなくって、サンプリングデータだったんですね。「蓼科の自然風は1/fゆらぎである。」「パナソニックの扇風機は蓼科の風である。」ゆえに、「パナソニックの扇風機は1/fゆらぎである。」ということのようです。だったら、自然風機能とか、蓼科ボタンでいいと思うんですけど、それを1/fゆらぎ機能とするところが、パナソニックの商売上手なところでしょうか。


 ただ、1/fゆらぎ機能は、微妙な回転数の変化に対応できる直流モーターとそれをスムーズに風に置換する流線型7枚羽根があればこそ効果を発揮できるわけで、歌声だって、歌下手であったら、声質に1/fゆらぎ成分を持っていたとしても話になりません。

 1/fゆらぎがブームだった頃と、松浦亜弥さんが活動していた時期は被ってますから、「松浦亜弥:1/fゆらぎの歌声」なんて云うコピーで売り出したら、当時苦戦していたバラードも、けっこうウケたかもしれません。

 それから、彼女が今も声質に1/fゆらぎ成分を持っているのなら、彼女に子守歌を歌ってもらえる「子あやや」ちゃんは、最高の幸せ者だと云えます。