2020年2月24日月曜日

松浦亜弥「ダブルレインボウ」~再起を懸けた細やかな世界観~

今回の記事について、動画のアップ主さんから、貴重なコメントをいただきました。
深い理解のために、合わせて読んでいただければと思います。

まずは、おさらいから。

「ダブルレインボウ」は2007年に松浦亜弥さんがリリースしたアルバム名であり、収録曲の一つであり、そして、コンサートツアーのタイトル名であります。

この2007年は、松浦亜弥さんの歌唱史を語るに大変重要な年だとされています。

2007年10月10日、松浦亜弥さんの3年ぶりのオリジナルアルバム「ダブルレインボウ」がリリースされました。この4枚目のアルバムの特徴は、つんく♂曲が1つも収録されていないことです。ハロプロ色を一掃し、シンガー松浦亜弥を全面に打ち出したアルバムと云えます。
リリースを受けて、10月13日より、1年ぶりのソロコンサートツアーが始まりました。ツアータイトルは、アルバムと同じ「ダブルレインボウ」。全国5会場、7日間で14公演と、全盛期と比べると淋しい限りですが、追加公演が発売されたそうですから、それなりにチケットは売れていたのでしょう。

オリジナルアルバムがリリースされて、ソロコンサートツアーも開催できたというのは、生き残ったファンにとっても、松浦亜弥さんにとっても、期待の一年だったと思います。

一方で、藤本美貴さんとのユニット「GAM」の活動が頓挫したのもこの年でした。この影響は極めて大きいものでした。と云うのは、ハロプロタレントとしての「GAM」の活動と、本格的バラードシンガー「松浦亜弥」の活動を両輪として2・3年続けることができたならば、その後の展開も大きく変わっていったと思えるからです。
結局、2007年以降は「つんく♂」氏のプロデュースから完全に外れることとなり、数々の困難を乗り越えながらも、アイドル「あやや」を追い求めて付いてきた多くのファンを失望させることになりました。

さて、2つのシングル曲を含めた全11曲で構成されたオリジナルアルバム「ダブルレインボウ」は、渾身の1作とも云える素晴らしいデキに思います。実年齢からすると、若干落ち着き過ぎの感はありますが、これからの松浦亜弥が求めている歌唱の方向性が明確に伝わってくるからです。


タイトル曲「ダブルレインボウ」は、たくさんのライブで歌っていますが、どれも好テイクで「ダブルレインボウ」にハズレなしと云うのが、僕の感想です。

力強い歌唱の2008年のライブテイク。2010年のコットンクラブでのテイクも秀逸です。で、今回紹介させて頂くのは、2009年のコンサートツアーの動画になります。このライブは観客のリクエストに即興で答えるという「アコースティックコーナー」が特徴ですが、DVDにはリクエストに応えて「ダブ・レボ」を歌った時のテイクが収録されています。って云うか、代表曲なんですから、ちゃんとセットリストに入れるのが本来だと思うんですけどね。

貼り付けさせて頂いた動画は、TKLYIMさんが投稿してくださったものです。


コメントによると、会場で録音された音源をDVDの映像に貼り付けたとありました。当時、あやヲタさんたちの間では、ライブ会場で録音された音源が出回っていたようで、一部は、YouTube上に投稿されたりもしています。
直接録音された音源は、音質はお世辞にも良いとは言えませんが、ホールエコーがかかっていて、DVD音源とは違ったリアル感があります。

で、この動画では、歌詞カードを見ているのにもかかわらず、一番のサビのところで歌詞を間違えているんですよね。「私には とても 分からないけれど」を「変わらないけれど」と歌っているんですが、これがDVDでは修正されていると云うんです。


分かりましたか。並べてみましょう。


よくぞ見つけたと云うか、あやヲタさん恐るべしです。
差し替えしたのか、デジタル処理なのか分かりませんけど、まあ、修正と云っても二文字分ですから大した手間では無いかと思います。で、面白いことに、同じDVDの「想いあふれて」でも、歌詞を間違えまくっているんですが、こちらは、そのままなんですよね。

松浦亜弥さんは、歌詞飛ばしや間違いがとても多くて、ライブの醍醐味として、ファンもそれを楽しみにしていた風があります。他にも、2003年春ライブで歌詞を完全に飛ばしちゃった「I Know」とか、2004年の代々木スペシャルで、歌が止まってしまった「ね~え!」などが知られています。一般的に、夜昼2公演などの場合は両方収録しておいて、良かった方を使うそうですが、一発撮りで差し替えができなかったり、可愛いからOKとかで、NGテイクをそのまま商品化しちゃったってことでしょうか。

結構、雑な商売をしていた割に、ダブルレインボウだけは修正していることが不思議に思えます。

ハズレ無しの「ダブルレインボウ」ですけど、僕が一番好きなテイクは、マニアックライブⅣでの歌唱です。ピアノ伴奏を基本に、最後にパーカッションが入って、一気に盛り上げるというアレンジです。ダブルレインボウって、歌詞の内容に比べて、アレンジが仰々しいのが特徴なんですけど、ML4のテイクは、程よく力が抜けていて、歌詞の世界観に一番合っている歌い方じゃないかと思います。

これは間違えてないと思いますけど、参考までに歌詞を付けておきます。


「ダブルレインボウ」
男友達よ 絵を描いて暮らしているわ 売れなかった絵は 大事に自分の部屋の壁
セルビアを一人きり旅して 青い絵の具一筆加えた
私にはとても わからないけれど ああ 「これで完成さ」とつぶやいた
私には心に 色を重ねてもまだ 描ききれない絵がある 
彼の友達はギター弾き街から街へと 飲めばこうして素敵な曲をほら聞かせてくれるのよ
どんなに楽しそうにしてても 爪弾く音は なぜか切ない響き 
私にはとても わからないけれど ああ 「昔の曲さ」ってさりげなく
私には心にふるえてるだけでまだ 鳴らない音がある 
自信もなくて 誰もそばにいてくれない時 そんな時きまって声をかけてくれる 
私にはとても わからないけれど ああ 「それでいいんだ」と言ってくれる
私には心にもうすぐ完成する 大切な絵がある

この歌のテーマは、停滞からの再出発。この歌をリリースした2007年が、松浦亜弥さんの負のスパイラルの始まりとなってしまったのは、残念極まりないことです。

で、今さらなんですが、この歌のタイトル、なぜ「ダブルレインボウ」にしたんだろう?

2020年2月15日土曜日

「紀平梨花」エキシビションでジャンプ6本だって!~2020四大陸フィギュアスケート選手権EX~

紀平梨花選手の新しいエキシビジョンナンバーがお披露目されました。この前、ライオンキングのやつを披露したばかりなのに、もう新作なんですね。


で、エキシビションにはジャンプの規定などありませんけど、コケるのもばつが悪いでしょうから、得意なジャンプとか多少難度を下げたヤツとかを跳ぶのが普通です。たまーに、調子づいた梨花ちゃんが3アクセルに挑戦してきたり、トルソワが4回転を跳んだりもしますけど、まあ、これは、明らかなウケ狙いです。

あと、同じ演目でも、その日の状態によって変えてきたりもします。だから、エキシビションで跳ぶジャンプは、同じ曲だからといって、いつも同じというわけではありません。逆に云えば、どんなジャンプを跳んでくるかで、その時の調子を計り知ることもできます。

梨花ちゃんが自信をもっているジャンプは、ダブル・アクセルとトリプル・サルコウです。アクセルに関しては、いつも3アクセルの練習ばかりしていますから、1回転少ない2アクセルなんかは余裕で跳べるのでしょう。
もう1つのサルコウについては、僕は梨花ちゃんが失敗したところをほとんど見たことがありません。梨花ちゃんが挑戦している最初の4回転が、4トゥループでなくって、4サルコウだってことからも、彼女がサルコウを得意としていることが分かります。
ですから、エキシビションでも、大抵、この2つのジャンプを跳んできます。

梨花ちゃんがエキシビションで跳ぶジャンプは普通3回です。でも、指を脱臼していた昨年の四大陸では、2アクセルと3サルコウを1回ずつしか跳びませんでした。だから、映像を見たときには「ツラいんだなぁ」って分かって、ちょっと悲しくなってしまいました。

あと、3回跳んでも、2アクセルを1回と3サルコウを2回みたいな時は、調子が悪いのかなぁとか、疲れているのかなぁなんて考えたりもします。

では、今回の四大陸のエキシビションの映像を貼り付けさせていただきますね。


エキシビションは、映像に演技の解説が入りませんから、誰にも邪魔されずにジャンプを見分けることができます。この演技のジャンプ構成は、次の通りです。

①2A ②3S ③3F ④2A+2A+2A+SEQ 

3つ目がフリップでしたね。さすがにルッツは跳んできませんでしたけど、ここで3フリップを跳んだってことは、調子が良い証拠だと思います。
で、普通ならこれでお終いなんですけど、最後に2アクセルを3回続けて跳んできたじゃありませんか。会場のどよめきが聞こえてきたんで、だいぶウケていたようですけど、ぼくもびっくりしました。

現行のルールでは、3連続のジャンプシークェンスってのはありませんから、(そもそも同じジャンプを3回跳んだら規定違反で3本目は0点)エキシビションならではの演技です。
難易度は高くはありませんけど、3分間でジャンプ6本なんていう演技も、あまり例が無いように思います。


この3連続ジャンプが、最初から演技に組み込まれていたのか、この日に限ってノリで跳んだだけなのかは分かりません。案外、フリーで4回転を回避したことが頭の片隅に残っていて、鬱憤晴らしで跳んだのかも知れませんしね。まあ、これからも、その時の気分で跳んだり跳ばなかったりするんだろうなって思います。

でも、こんなに楽しそうにジャンプをする梨花ちゃんを見たのは初めてかもしれません。


次の試合は、オランダで開催される「チャレンジカップ」です。まあ、普通に演技って云うか、失敗しても優勝できちゃうレベルの大会だから、4サルコウにチェレンジする絶好の場なんだけど、跳ぶか跳ばないかは、半々ってとこでしょうか。

四回転にこだわる梨花ちゃんも、勝負に執着する梨花ちゃんもアリだと思います。メンタルも強いんだか弱いんだか分からないところがあるし、その二面性が彼女の面白いところですからね。「エキシビションでジャンプ6回も跳ぶくらいなら、4サルコウに挑戦しろよ!」なんてツッコむ隙を見せてくれるのも、梨花ちゃんならでは。梨花ちゃんを紀平選手と呼べる日は、もう少し先になりそうです。

何だか、7:3で跳ばない気がしてきました。

2020年2月11日火曜日

「紀平梨花」リカバリーで怒濤の3連続ジャンプ ~四大陸選手権2020女子フリー~

まずは「四大陸フィギュアスケート選手権」のおさらいから。

四大陸とは、ヨーロッパを除いた残り全部という意味です。アメリカは南北2つだとか、南極はどうしたとか、そもそもユーラシア大陸なんだから、アジアとヨーロッパは1つだ、と云う意見もありましょうが、大航海時代の世界観(オリンピックの五輪も同じ)に基づいているのでしかたありません。フィギュア界を二つに分けた場合、「ヨーロッパ選手権」と「その他の国々選手権」となるのは、フィギュアスケートはヨーロッパが本場なのだという、彼らのプライドが感じられる編成であります。

冬季オリンピックを除いた場合、最も大切な大会は世界選手権です。ヨーロッパ選手権や四大陸選手権は1ランク下という扱いですから、ベテランになると世界選手権に集中するために出場しないという選手も多いですし、オリンピック・イヤーだと補欠組の大会みたいになってしまいます。
ですから、今年のように、羽生結弦君が出るなんてのは異例中の異例、おかげでチケット販売は好調だったようですけど、女子の試合では空席も目立ってましたね。

でも、ちゃんとした国際大会ですから、世界ランキングを上げたい若手にとっては大切な試合です。実際、梨花ちゃんも今回の優勝で世界ランキングで1位になりましたし。


今年は、開催国が時差の無い「韓国」ということで、SPはライブ中継だったんですけど、何故かフリーは録画放送。フジテレビさんもゴールデンタイムにこだわらなくてもいいのにって思いました。ネットニュースばかりか、NHKのニュースとかでも結果をバンバン言っちゃうものですから、地上波放送ではドキドキ感ゼロでしたよ。

でも、感動モノの演技でした。


フリーの楽曲にもだいぶ慣らされてきました。

事前に公開されていたジャンプの構成は次の通りです。

    ①4S ②3A-2T ③3Lz ④3A ⑤3F-3T ⑥3Lz-2T-2Lo ⑦3Lo

ルッツの封印が解けたのが一番の収穫ですね。ただ、6番目の「3Lz-2T-2Lo」を見たときに、今日は、4回転は跳ばないんだなって思いました。もし、本気で跳ぼうとしているのなら、ここを「3Lz-1Eu-3S」にしてくるはずです。サルコウを冒頭の1回だけにしてきたのは、ここの4回転が3回転になっても構成を変えずに済むからです。ただ、最初から、3サルコウにしちゃうと、4回転、4回転と騒いでいるマスコミがまた騒ぎ出しますから、とりあえず4サルコウにしておいたのでしょう。

で、梨花ちゃんが、当日演技したかった構成が次だと思います。

      ①3S ②3A-2T ③3Lz ④3A ⑤3F-3T ⑥3F-2T-2Lo ⑦3Lo

ルッツを解禁したとは云え、2回跳ぶつもりは無かったように思います。ルールでは、6種類の3回転ジャップのうち2回跳べるのは2種類までですから、アクセルとフリップを2回ずつ跳ぶ予定だったのではないでしょうか。

ところが、2番目に跳ぶ予定だった3アクセル+2トゥループが1アクセルになってしまうミスが起きてしまいます。基礎点でいうと9.3が1.1になってしまいましたから、単純に計算すると8.2点の損失です。ショートプログラムでの貯金なんて完全に吹き飛んでしまいました。

3番目のルッツを予定どおりに跳んだ後、4番目の単独だった3アクセルに2トゥループを付けて、とりあえず1.3点のリカバリー。ここまでは、今までにもよくあったことです。
で、インタビューによると、この後のステップシークェンスを踏みながら、残りのリカバリーを考えていたそうです。

まあ、とりあえず3アクセルが1本入りましたから、無理にリカバリーせずに、残りのプログラムを予定どおりに演じるという選択肢もあったはずです。以前、宇野昌磨君がインタビューで、「無理にリカバリーすると、演技が崩れて墓穴を掘るから考えない」って話していて、ナルほどって思ったことがあります。

究極のリカバリーとしては、最後の3ループを3アクセルと入れ替える(3.41点アップ)ってのがありますけど、これは現実的ではありません。で、梨花ちゃんの選択は、3連続ジャンプを5番目に前倒しして「3F-3T-2T」にするということでした。このジャンプですね。


テレビを見る前から勝敗は知っていましたけど、演技内容のプロトコルは見ていなかったので、一瞬、何が起こったのか分かりませんでした。(荒川静香さんは予測していたかのように冷静でしたけど)

ジュニアの大会では「3A-3T-2T」という冗談みたいな3連続ジャンプを跳んでいる動画がありますけど、シニアのガチな試合で「3F-3T-2T」なんて3連続ジャンプを見たのは初めてです。正式なプログラムにだって組み込むのが大変な連続ジャンプを、とっさのリカバリーで跳んでしまうなんて・・・。

これで、どのくらいリカバリーできたかですけど、「3F-2T-2Lo」が8.3点で、「3F-3T-2T」が10.8ですから、2.5点のアップとなりました。僕的には、普段から練習している「3F-1Eu-3S」ってのもアリじゃないのかなって思ったんですけど、基礎点を計算したら10.1でしたから、梨花ちゃんの判断が正しかったってことになります。

演技が終わって直ぐに、濱田コーチに「あれで合ってました?」みたいなことを訪ねていましたけど、完璧なリカバリーだったと思います。

実際に演技した構成は次の通りでした。

    ①3S ②1A ③3Lz ④3A-2T ⑤3F-3T-2T ⑥3F-3T ⑦3Lo

元々、上限いっぱいの構成ですから、どんなにリカバリーしても得点低下は免れませんけど、見応えのあるフリー演技だったと思います。失敗しているのに、3回転6種類の8トリプルですからね。これがあるから、彼女のファンは辞められません。


では、参考までに、捨て身の覚悟で演技してきたとき、つまり今の梨花ちゃんにとって現実的で実現可能な最高難度のジャンプ構成は次の通りです。

        ①4S ②3A-2T ③3Lz ④3A ⑤3Lz-3T ⑥3F-1Eu-3S ⑦3Lo

世界チャンピオンになれるプログラムです。ロシアの最強3人組に勝てる可能性を持っているのは、世界中で梨花ちゃんだけなんですよね。そりゃぁ、完璧に演技して優勝ってのが一番凄いことですけど、梨花ちゃんの魅力って、勝つこと以上に、ワクワクさせてくれるスケートをしてくれるところにあるんです。

次の試合は、2月の22日・23日にオランダで開催される「チャレンジカップ2020」だそうです。昨年も出ていた大会です。B級の国際大会ですから、無理をして出場することも無いと思うんですけど、調整を兼ねての営業というか、国際親善ってことでしょうか。怪我のないように頑張って欲しいです。

2020年2月9日日曜日

ドラマ視聴における史実バラシの功罪 ~NHK連続テレビ小説「スカーレット」~

先日「金曜ロードSHOW!」で「十二人の死にたい子どもたち」を見た。密室型ミステリーということで、わざわざ映画にするまでもないような設定であったが、小さな秘密が積み重なって大きな謎を生んでしまうトリックとか、ナルほどなオチとか、それなりに面白かった。でも、あの結末を事前に知っていたらどうだっただろう。推理ドラマに限らず、ネタばらしが映画鑑賞やドラマ視聴の大敵なのは間違いない。


だが、同じドラマでも歴史物は事情が違うようだ。

関ヶ原の合戦のシーンを見ていた時のことである。多分、NHK大河ドラマの「江~姫たちの戦国~」だったと思う。合戦が佳境にさしかかってきたころ「これどっちが勝つの?」って質問された。関ヶ原の合戦の勝敗なんて小学生でも知っている。それをハラハラドキドキしながら観ているなんて、最高に幸せなことではないか。

まあ、これは極めてレアなケースだろう。一般的に、歴史ドラマというのは、結末が分かっているのを承知して見るものだ。結論に至るまでの過程を楽しむモノとも云える。だから、今年のNHK大河「麒麟が来る」で、「明智光秀は謀反を企てるも、秀吉に敗れて死んでしまうんだよ。」などとバラしても誰も怒ったりしないし、NHKに「ハセヒロさんに裏切りなんてさせないで!」なんて要望を出すファンもいないだろう。


歴史ドラマにとって、ネタばれのネタとは予備知識であり史実である。予備知識など無くてもドラマは楽しめるだろうが、あれば楽しみが広がると云うこともある。実は、「麒麟が来る」というのは、結構マニアックに作られているから、天文年間(戦国時代前期)の歴史を知ることは、ドラマを楽しむ上で意味のあることと思う。「麒麟が来る」というタイトル名から、光秀が謀反を企てた理由を推察していくのも一興だろう。


NHK連続テレビ小説「スカーレット」は、陶芸家「神山清子」氏を主人公のモデルにしていることは周知の事実である。制作側は、モデルは存在するがストーリーはフィクションというスタンスをとっている。実際、ドラマでは評判が高かった大阪編だが、清子氏は大阪に住んだことは無いなど、史実との相違点もいくつかある。が、概ね、モデルの人生の通りに進んでいるとされてきた。
 
清子氏の人生に於いてのエポックは、易久氏との離婚と、長男の白血病死である。この2つをドラマでどう描くのかは、視聴者の大きな関心事であったと思う。

易久氏の不倫離婚問題では、松永三津は八郎への気持ちを封印したまま身をひくことになって、史実と異なる展開に変更したとされた。ただ、離婚は事実であるが、不倫問題については不確かなことも多い。確かに、清子氏の自伝映画「火火」では、泥沼不倫騒動が描かれているが、自伝映画=史実というとらえかたは必ずしも正しいとは云えないし、清子氏へのインタビューなども、話を盛っているような気がしてならないからだ。

しかし、ネット上では、その略奪愛が史実とされ、不倫に対する世間の拒絶反応と相俟って、SNSでは不倫相手とされる「松永三津」叩きがおこなわれた。
結局、不倫は未遂に終わり、ネット民は不倫を回避したことを高く評価した。しかし、改めて考えると、三津の八郎に対する態度のそれは、ご主人様にかまってもらいたくって纏わり付いている子犬であり、担任の先生を好きになってしまった女子高生のそれであった。結局、二人は男女の関係を持つどころか、手をつなぐことも無かったのだ。最初から不倫など描かれていなかったのだから、回避などと云うのは可笑しな話である。


結局、史実とされた予備知識を仕入れて先入観を持ってしまった視聴者が、予告編で盛んに不倫を匂わせてきたNHKの炎上商法にまんまとのせられただけだったのだ。

では、史実ばらしによって、ドラマを見る楽しみが増加したかと云うと、否定的にならざるを得ない。かと云って、先入観なしで見ていたら、1月放送分のスカーレットは、単調で面白味のないものに感じてしまっただろう。炎上商法だって、史実ばらしがあるからこそ成り立つものなのだ。

モデルは存在するがストーリーはオリジナルという設定は、便利なようだが視聴者的にはしっくりこないものである。
結局、離婚するのであれば不倫を回避する必要など無かったと思う。朝ドラに不倫は似合わないなどと云うが、朝ドラにタブーがあるとすれば殺人ぐらいなもので、過去にも不倫を扱ったことはあったはずだ。
これでは「三津」があまりにも不憫である。いっそのこと、独り身になった八郎と三津を再婚させてあげたっていいくらいだ。

そもそも、モデルがはっきりしているドラマで、史実どおりになってしまうとツマラナイなんて云うヤツがいるだろうか。「ゲゲゲの女房」だって「まんぷく」だって結末なんて皆知っていたけど、分かっているからツマラナイなんて誰も思っていなかった。皆、そこに至るまでの過程を楽しんでいたのだ。過程に創作を加えるのは良いが、ゴールを変えてしまっては納得できなくなるのは当然だろう。


2月になって、ドラマは、いきなり7年後にタイムスリップして、伊藤健太郎君演じる長男「武志」は大学生になった。史実どおりであれば、彼は32才の若さで急性白血病により亡くなってしまう。もしかしたら死んじゃうかもしれないことを大いに匂わせて、炎上狙いの演出を仕掛けてくるかもしれない。が、この流れでいくと、土壇場でドナーが現れて、稲垣吾郎君演じる医師「大崎茂義」の活躍により白血病が完治、なんて可能性だって有り得るのだ。

どうやら「スカーレット」はオリジナル路線を強めてきたように思う。もう、史実ばらしなんて無意味なことだし、そんなことに興味を持つ視聴者もいないだろう。まあ、それは、煩わしいネタばらしから解放されて、純粋にドラマを楽しめるようになったってことなんだろうけど。

2020年2月8日土曜日

マクドナルドの「ごはんバーガー」を食べたくなった話

今日、久し振りに「マクドナルド」に行ってきた。このCMを見たからだ。


泣きそうになった。この気持ちは、今の若者には分からないだろう。
全てはバックに流れている楽曲のせいだ。

CMに採用された「SWEET MEMORIES」は、松田聖子さん21才の作品だ。
「ガラスの林檎」のカップリング曲だったが、ペンギンのアニメーションを使ったサントリーのCMで採用されてヒット、こっちが実質A面になり、聖子ちゃんにとって「あなたに逢いたくて」に次ぐヒット作になった。


当時、この曲がCMで流れたときに、「これ歌っているのだれ?誰?」って、かなりの話題になったことを覚えている。
新人歌手が歌っていると勘違いした某レコード会社がサントリーにオファーをした、という嘘みたいな話もある。
しかし、どう聞いても松田聖子が歌っているとしか思えないのに、こういう反応があったってことは、当時、ぶりっ子アイドルソングを歌っていた聖子ちゃんが、こんな人を泣かせるような歌を歌えるわけがない、って世間が考えていたからに他ならない。
この曲で聖子ちゃんは、脱アイドルを果たしたと言ってもいいだろう。

この楽曲が表現しているのは大人の哀愁なのだ。


マクドナルドなんて、子供連れか中学生ばっかりで、高校生でさえ行かないところだと思っていたのだが、中年男性が、一人でマクドナルドに行くのもアリってことなのだろう。

でも、結局「ごはんバーガー」は食べられなかった。
えっ、夜マック限定なんですか・・・・・(悲)

ちなみに、マクドナルドのお客の半分は、年寄りでした。