2020年2月9日日曜日

ドラマ視聴における史実バラシの功罪 ~NHK連続テレビ小説「スカーレット」~

先日「金曜ロードSHOW!」で「十二人の死にたい子どもたち」を見た。密室型ミステリーということで、わざわざ映画にするまでもないような設定であったが、小さな秘密が積み重なって大きな謎を生んでしまうトリックとか、ナルほどなオチとか、それなりに面白かった。でも、あの結末を事前に知っていたらどうだっただろう。推理ドラマに限らず、ネタばらしが映画鑑賞やドラマ視聴の大敵なのは間違いない。


だが、同じドラマでも歴史物は事情が違うようだ。

関ヶ原の合戦のシーンを見ていた時のことである。多分、NHK大河ドラマの「江~姫たちの戦国~」だったと思う。合戦が佳境にさしかかってきたころ「これどっちが勝つの?」って質問された。関ヶ原の合戦の勝敗なんて小学生でも知っている。それをハラハラドキドキしながら観ているなんて、最高に幸せなことではないか。

まあ、これは極めてレアなケースだろう。一般的に、歴史ドラマというのは、結末が分かっているのを承知して見るものだ。結論に至るまでの過程を楽しむモノとも云える。だから、今年のNHK大河「麒麟が来る」で、「明智光秀は謀反を企てるも、秀吉に敗れて死んでしまうんだよ。」などとバラしても誰も怒ったりしないし、NHKに「ハセヒロさんに裏切りなんてさせないで!」なんて要望を出すファンもいないだろう。


歴史ドラマにとって、ネタばれのネタとは予備知識であり史実である。予備知識など無くてもドラマは楽しめるだろうが、あれば楽しみが広がると云うこともある。実は、「麒麟が来る」というのは、結構マニアックに作られているから、天文年間(戦国時代前期)の歴史を知ることは、ドラマを楽しむ上で意味のあることと思う。「麒麟が来る」というタイトル名から、光秀が謀反を企てた理由を推察していくのも一興だろう。


NHK連続テレビ小説「スカーレット」は、陶芸家「神山清子」氏を主人公のモデルにしていることは周知の事実である。制作側は、モデルは存在するがストーリーはフィクションというスタンスをとっている。実際、ドラマでは評判が高かった大阪編だが、清子氏は大阪に住んだことは無いなど、史実との相違点もいくつかある。が、概ね、モデルの人生の通りに進んでいるとされてきた。
 
清子氏の人生に於いてのエポックは、易久氏との離婚と、長男の白血病死である。この2つをドラマでどう描くのかは、視聴者の大きな関心事であったと思う。

易久氏の不倫離婚問題では、松永三津は八郎への気持ちを封印したまま身をひくことになって、史実と異なる展開に変更したとされた。ただ、離婚は事実であるが、不倫問題については不確かなことも多い。確かに、清子氏の自伝映画「火火」では、泥沼不倫騒動が描かれているが、自伝映画=史実というとらえかたは必ずしも正しいとは云えないし、清子氏へのインタビューなども、話を盛っているような気がしてならないからだ。

しかし、ネット上では、その略奪愛が史実とされ、不倫に対する世間の拒絶反応と相俟って、SNSでは不倫相手とされる「松永三津」叩きがおこなわれた。
結局、不倫は未遂に終わり、ネット民は不倫を回避したことを高く評価した。しかし、改めて考えると、三津の八郎に対する態度のそれは、ご主人様にかまってもらいたくって纏わり付いている子犬であり、担任の先生を好きになってしまった女子高生のそれであった。結局、二人は男女の関係を持つどころか、手をつなぐことも無かったのだ。最初から不倫など描かれていなかったのだから、回避などと云うのは可笑しな話である。


結局、史実とされた予備知識を仕入れて先入観を持ってしまった視聴者が、予告編で盛んに不倫を匂わせてきたNHKの炎上商法にまんまとのせられただけだったのだ。

では、史実ばらしによって、ドラマを見る楽しみが増加したかと云うと、否定的にならざるを得ない。かと云って、先入観なしで見ていたら、1月放送分のスカーレットは、単調で面白味のないものに感じてしまっただろう。炎上商法だって、史実ばらしがあるからこそ成り立つものなのだ。

モデルは存在するがストーリーはオリジナルという設定は、便利なようだが視聴者的にはしっくりこないものである。
結局、離婚するのであれば不倫を回避する必要など無かったと思う。朝ドラに不倫は似合わないなどと云うが、朝ドラにタブーがあるとすれば殺人ぐらいなもので、過去にも不倫を扱ったことはあったはずだ。
これでは「三津」があまりにも不憫である。いっそのこと、独り身になった八郎と三津を再婚させてあげたっていいくらいだ。

そもそも、モデルがはっきりしているドラマで、史実どおりになってしまうとツマラナイなんて云うヤツがいるだろうか。「ゲゲゲの女房」だって「まんぷく」だって結末なんて皆知っていたけど、分かっているからツマラナイなんて誰も思っていなかった。皆、そこに至るまでの過程を楽しんでいたのだ。過程に創作を加えるのは良いが、ゴールを変えてしまっては納得できなくなるのは当然だろう。


2月になって、ドラマは、いきなり7年後にタイムスリップして、伊藤健太郎君演じる長男「武志」は大学生になった。史実どおりであれば、彼は32才の若さで急性白血病により亡くなってしまう。もしかしたら死んじゃうかもしれないことを大いに匂わせて、炎上狙いの演出を仕掛けてくるかもしれない。が、この流れでいくと、土壇場でドナーが現れて、稲垣吾郎君演じる医師「大崎茂義」の活躍により白血病が完治、なんて可能性だって有り得るのだ。

どうやら「スカーレット」はオリジナル路線を強めてきたように思う。もう、史実ばらしなんて無意味なことだし、そんなことに興味を持つ視聴者もいないだろう。まあ、それは、煩わしいネタばらしから解放されて、純粋にドラマを楽しめるようになったってことなんだろうけど。

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