汗はハンカチで拭うようになった。以前は、(子どもの頃からずっと)シャツの袖か何かで、適当に拭いていたんだけど、試しにハンカチを使ってみたら、調子良いこと此上なかったからだ。きっかけは、もちろん「ハンカチ王子」こと「斎藤佑樹」選手である。
その斎藤選手が、現役を引退するらしい。ここ数年は、怪我とかもあって、全く結果を出せていなかったようだから、早いとこ見切りを付けた方が良いんじゃないかって思ってたんだけど、ここまで引退しなかったのも、契約を打ち切られなかったのも、きっと深い理由があってのことだろう。まあ、プロ野球に全く詳しくない僕には、難しくて関係の無い話である。
何だかんだ云っても、2006年の甲子園は面白かったし、凄かった。その後の「ハンカチ王子」のフィーバーぶりはドン引きするレベルだったが、それは、斎藤投手の甲子園での活躍があってこそだ。キレのあるストレートに多彩な変化球。クールなマウンドさばきにクレバーな投球、それでいて、ここぞという場面では、明らさまに三振を取りにくるハートの熱さ。まるで水島新司の野球漫画から、そのまま飛び出てきたようだった。早稲田実業の試合を見た僕は、彼の投球に魅了され、それからの早実の試合は、都合の付く限り見るようなった。
決勝戦は、奈良のホテルで見た。仏像巡りを始めた頃で、とにかく暑い日だった。早めにホテルにチェックインして、テレビを付けた。マー君と投げ合って再試合になった、あの試合である。スコアは1対1。延長15回まで、互いにピンチを凌ぎ合う展開は、スリリングで水島新司の世界そのものだった。
やがて、斎藤選手は、早稲田大学に進学した。それもスポーツ科学部でなくって教育学部だ。
彼が大学2年生の頃、父を誘って、2回ほど早慶戦を見に行ったことがある。僕の父は漁師の倅で、大学進学を希望したものの、結局、叶わなかった。そのためだろうか、父は大学スポーツが大好きで、野球も駅伝も、ずっと早稲田を応援していた。正月には、箱根駅伝のラジオ中継を聴いていたのを覚えている。テレビでの中継が始まるずっと前、箱根駅伝が今のように注目されていない頃の話だ。そんな父と、自分の興味半分、親孝行半分で、神宮球場に行ったわけである。
早慶戦は、「佑ちゃん」人気で賑やかだった。外野席までほぼ満席だったし、おばちゃんたちの黄色い声援もあった。慶応の応援席には、付属の子どもたちも来ていた。応援団は、内野と外野に1つずつ、双方合わせて4つあって、それぞれがエールの交換をするので、やたら時間がかかる。内外2つの応援団は、連携しているようだが、厳密にコラボしているわけでは無いから、熱が入ってくると、球場全体がカオスになって、何が何だか分からなくなった。
早慶戦では、早稲田が一塁側と決まっている。これは、1933年に慶應の三塁手「水原茂」に早稲田の応援席からリンゴが投げられて、騒動になったことが発端らしい。以来90年間、早稲田の応援席は、一塁側に固定されているそうだ。でも、それだと今度は慶応の一塁手が困る、って、物を投げることを止めさせれば良かっただけの話じゃないのか。まあ、早慶戦というのは、そんな感じで、1つ1つが伝統という名の決まり事で支配されている、面白い世界だ。
僕は、中学生の頃、吹奏楽をやっていて、中体連の野球部の応援に駆り出されたことがあった。僕らは、高校野球のマネをしていたわけだけど、その高校野球の応援団は、大学野球の真似事をしていたわけで、それはプロ野球の応援スタイルにも影響を与えているはずだから、日本式野球観戦の原型は早慶戦にあると云って良い。
僕らは一塁側の、でも応援団からは少し離れた席に座った。そこからは、慶応の応援団がよく見えた。ちょっと考えれば分かることだけど、応援というのは、相手に見せるためにある。だから、一塁側に座ってしまっては、自分たちの、つまり早稲田の応援は聞こえないのだ。でも、慶応の応援も凄く格好良かったし、僕らは、無縁ではあったけれど憧れだったその場に居ただけで満足だった。
昨年の秋の早慶戦らしい。音速と光速の差がよく分かる。コロナ禍により、観客は内野席に入れて声無し応援。応援団は外野席で活動とのことだった。これって野球と応援が、両方バッチリ見れて最高のステージになっている・・・けど、声無しじゃぁ、つまらないか。
肝心な試合についてだけど、早稲田が斎藤投手の好投でリードするのものの、終盤に打ち込まれて、逆転負けみたいな試合だったと記憶している。斎藤投手は、大学でも活躍はしていたけど、早稲田実業の時のような凄さは、もう感じられなくなっていた。
スタンド裏の売店で弁当を買っていたら、斎藤選手がすぐ横を通り過ぎていったことがあった。オーラはあったけれど、普通の男子だったように思う。調べてみたら、身長176cmとあったから、野球選手の中では小柄な方だ。桑田真澄選手の例があるにしても、プロのピッチャーとして活躍するには難しかったのかもしれない。大谷君をみていると、体がデカいというのは最高の才能なんだと、つくづく思う。
引退試合の発表もあった。プロで15勝しかあげていない投手に、如何なモノかという批判もあるようだ。たぶん、先発して、先頭打者と対戦したら、すぐに交代じゃないかと思う。相手打者がわざと三振ってこともあるらしいけど、その時は、裏の先頭バッターも打たないというのが、暗黙のルールらしい。そんな茶番劇を公式戦で行うことに、プロ野球を冒涜する行為という意見もある。けど、それで、最下位に低迷するチームの観客動員がちょびっと増えて、多少なりともグッズが売れるんだったら、興行的にはアリなんだろう。プロ野球の世界では、客寄せパンダの価値しかなかったことは悲しいが、それも仕事(プロ)ならば、致し方のないことである。
斎藤選手を指導者に、みたいなコメントもあった。ファイターズに残るという報道もあるらしいけど、アマチュア野球の指導者なんて如何だろうか。(教育学部卒なんだし)アマチュア野球で輝いていた選手なんだから、アマチュア野球に戻ってくるのが一番に思う。早稲田大学のコーチにでもなって、ゆくゆくは監督ってのも良いし、高校野球の解説者とかやってくれれば、嬉しいこと此上ない。
#斎藤佑樹引退 #ハンカチ王子 #早慶戦
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