第二章では、夫婦となった若君と唯が、新天地「緑合」で御月家を継ぎ、戦国時代を生き抜くという設定になっています。先日、第二章の始まりとなる第13巻が発売されたのですが、その中に注目すべき2つの事柄が描かれておりました。
1つは、永禄4年という設定年代を意識した展開に修正してきたことです。
アシガールの第一章は永禄2年とのことでしたが、描かれている世界には、明らかに違和感がありました。それについては、以前このブログで、投稿させていただいた通りです。
謎に満ちた永禄2年という設定
で、新しく始まった第二章では、織田信長に関する記述を、永禄年間の史実に合わせて修正してきました。第二章で描かれている織田信長は、永禄4年という年代設定に合わせてあり、尾張一国をようやく平定したばかりで、強力な権力を持っているわけではありません。しかし、このことにより、第一章の展開と辻褄が合わなくなったところが幾つか出ています。
13巻で若君は、織田信長の家臣「志喜正綱」と共に村上城を攻めることになります。信長が正綱に預けた軍勢は二千。当時の信長は、そこまでの軍勢を家臣に預けられるほど権力基盤は磐石ではありませんでしたが、まあ、第9巻で信長が「相賀一成」に預けた二万の軍勢と三千挺の鉄砲から比べれば、現実的ではあります。が、一気にスケールダウンしてしまいました。
確かに、永禄4年の信長の勢力からすると、加勢は多くても二千程度です。しかし、この程度の加勢ならば、第一章において、羽木家は落ちのびることなく、高山・織田連合軍と戦えていたはずです。
さらに、信長の勢力範囲を永禄4年に合わせたため、高山家の治める長澤城や、羽木家の黒羽城が、尾張国内か美濃などの隣国に限定されてしまいました。
アシガール第一章の、僕的なスケールイメージは、天正年間、天下統一に本格的に始動した織田信長が、信濃か関東あたりにある羽木の領地にまで勢力を伸ばしてきて、羽木家は北関東か東北南部にある緑合の地へ落ちのびていったというものです。
それが、第二章では物語の舞台が、尾張周辺に一気に矮小化されています。
「ついに信長の魔の手が平和な緑合の里に迫る」なんて云っても、走っても一日二日で着くような、お隣さん同士です。互いに知っている仲だろうし、家臣同士が顔見知りであってもおかしくない。だから、羽木家が緑合の地へ落ちのびていって御月家を継いだなんて情報が、信長に伝わらないはずがありません。
確かに、アシガール第一章の時代設定には無理がありました。でも、舞台設定は凄く面白かった。だから、そのまま押し通して欲しかったんです。年代設定なんて形式的なものなんですからね。ところが、第二章では、その形式の方に物語の舞台を合わせてしまったわけで、結果として、物語の展開に多くの矛盾を生み出してしまったのは、もったいないことに思います。
さて、若君は対信長戦略について、陣列には加わるが臣下にはならないと発言しています。若君は平成の時代にタイムワープした時に歴史の教科書を見ていますから、信長が成し遂げようとしていることを知っているわけですね。そして、若君が目指そうとしている御月家の立ち位置は、信長と家康の関係に似ています。史実では、家康は信長との同盟関係を維持するために、正室と嫡男を喪うことになるのですが・・・。
もう1つの重要事項は、タイムワープに関する思想です。このことについても、以前このブログで投稿させていただきました。
僕は、この投稿記事の中で、過去へのタイムワープは、それ自体が歴史に内包されるという思想を支持しました。宇宙では全ての時空が確定していて、タイムワープすることも歴史的事実であり、過去での行動によって歴史が変わることはないという、まあちょっと変った思想です。
主人公「早川唯」の弟「尊」は、タイムマシンを発明した当初、戦国時代で若君を助けることは歴史を変えることになりNG、と云うタイムトラベルに関する一般的な思想を持っています。
ところが、13巻で、改良型の起動スイッチを使って、戦国時代へタイムワープしようとしたときに「自分は、新型のタイムマシンをまだ発明していないので、ここで命を落とすはずがない」と自らに言い聞かせているんですよね。
第11巻では、未来の尊が作った新型の起動スイッチが登場します。これが存在するということは、尊の未来は、少なくとも新型のタイムマシンを完成させるまでは保証されていると考えたわけです。
実は、一般的なタイムトラベルの思想では、そんな保証はどこにも無くって、尊が永禄年間で命を落とした瞬間に、現在の時空は崩壊し、新型の起動スイッチなど消滅してしまうことになります。
まあ、これは、尊が自らを奮い立たせるために考えた詭弁の可能性もありますので、第二章が、この世界観の中で展開していくとは言い切れませんが、僕的には、アシガールに最も相応しい思想だと信じておりますので、作品中に描かれたことを嬉しく思います。
近いうちに、この続きが見られますように。
0 件のコメント:
コメントを投稿