僕は、電話が嫌いだ。僕にかかってくる電話で良いことなんて一つもない。だから電話が鳴るとドキッとする。幸いにも僕の仕事場は、電話をあまり受けなくて良いところだから、それだけは感謝している。だが、電話と無縁と云うわけにもいかない。
いつの頃からか、電話に出るときに、みんな名乗るようになった。どうも、名乗った方が、マナーが良いってことらしい。相手に対して責任を持って受けています、ということになるからだろうか。僕も真似して名乗るようにしているが、どうもしっくりこない。
そりゃあ僕だって、自分からかけたときは名乗っているし、僕に電話が回ってきたときにも名乗っている。問題は、外線からかかってきた電話を最初に受けたときだ。
そもそも、電話に出たときに名乗った方が好感度が上がるなんて、誰が言い出したんだろう。どうせ、好感度調査とかで、「名乗った時と名乗らない時と、どっちが良いですか」、なんてアンケートでもとったに違いない。いきなりそんな質問をされたら、「よくわかんないけど、なんとなく名乗った方が良いんじゃない」ってなるに決まっている。
消費税だって、10%にするのと、廃止するのと、どっちが良いですかって、いきなり聞かれたら、みんな廃止が良いって云うだろう。同じことだ。
用事があって、電話をかけるとする。すると、受けてくれたお姉さんが「会社名+部署名+自分の名前」まで一気に言ってくる。相手に待たせちゃ悪いからって一息で言ってくる。急いで言うから、かなりの早口だ。当然最後の名前なんて、オジさんの耳では聴き取れない。だから、僕は、名乗ったようだけど誰だか分からない人と話をしていることになる。
で、問題は、相手の名前を本当に知る必要が出てきた時だ。一度名乗っている相手に改めて聞くのは、気まずいことこの上ない。だから、僕は、最初に名乗って欲しくない。「会社名+部署名」で十分だ。僕が間違い電話をかけていないことが確認できれば十分だ。名前は、こっちが聞いたときだけ、ちゃんと教えてくれれば良い。
会社によっては、キャッチフレーズを付けてくるところもある。名乗るだけでなく、肩書きまで付けた方がより丁寧だろう。すると電話を受けたら、「キャッチフレーズ+会社名+部署名+肩書き+自分の名前」まで言うことになる。こんなことで時間をかけてられないから、早口で言うしかない。そうなると、もはや呪文だ。僕は、相手が呪文を唱え終わるのを電話口で待っていることになる。電話をかけてきた相手に向かって、呪文をかけるような会社が、好感度が上がるなんて思えない。
受付なんかで「名前を書いてください」と言われるのと「名前を言ってください」と言われるのでは、言わされる方が構えてしまう。元来「名乗りを上げる」という行為は、覚悟のいることだ。だから誠意の表れとして、電話に出たら名乗るということになるのだろうが、マニュアル化された高速名乗りに、誠意や覚悟があるとは思えない。これも「ネットによって暗黙的に規範化された社会」の一つの表れなんだろうか。
明日から僕は、電話に出ても名乗らないことにする。
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