2019年3月12日火曜日

「紀平梨花」2018全日本選手権 ~新必殺技とスケート靴の話~

今回取り上げさせていただくのは、昨年の暮れに行われた、全日本選手権です。

紀平選手は、この大会でも、ショートプログラムで大コケします。冒頭の3アクセルで転倒、続くコンビネーション・ジャップでは、セカンドジャンプが2トゥループになってしまいました。
でも、ダブルになったのが、コンビネーションの方で良かったですよ。単独の3ルッツがダブルになってしまったら0点ですからね。結果5位になりましたが、演技構成点(つまり、審査員)に救われた感じです。

この時の失敗は、靴に巻いたテープがキツすぎたのが原因と報道されました。新しい靴が合わなくって、古いのをずっと使っていて、柔らかくなってしまった部分とかを、テープで巻いて調整していたそうですけど、本番前に巻き直した時に、キツく巻き過ぎたそうです。

しかし、翌日のフリーでは、3アクセルを2本成功させ、技術点82.95、演技構成点72.06をたたき出します。国内大会ですから未公認ではありますが、この時の得点155.01は、今シーズンにおける彼女のパーソナルベストとなっています。


フリー演技後のインタビュー記事からの引用です。
「まず、(靴の中の)ジェルを小さいジェルにして、テーピングで固定して、(足に)当たらないようにした。テープを3重にしていたら緩かったので、靴ひもを結んだ状態でテープを4本にすれば、朝練から緩くならなくて、すごくこれでいいかもって気づいた。そこも、すごく心の集中につながった」
――靴は今季ずっと勝ってきた靴。靴に声をかけるなら。
「まず、演技前に本当に今までありがとうって思った。今日もお願いしますって。本当に感謝の気持ちしかないなって。やっぱり合わない靴もある。そんななか、長い間もってくれたし、すごく感謝したいし、本当に『靴ありがとう』って思っています。」
「靴さん、お願い、あと少し頑張って」とか、アニメの世界ですね。

選手にとって、スケート靴は大切な商売道具ですが、過酷な使用により、その寿命は驚くほど短く、どの選手もテープなどで調整しているそうです。
紀平選手の場合は、左足は3ヶ月、右足は6ヶ月しかもたないそうですが、コロラド合宿では左足の靴を、一ヶ月で履きつぶしちゃったと云ってました。

紀平選手は、かなり神経質なところがあって、衣装についている飾りのバランス(何gの話だ?)とかでも気を取られるらしい。当然、スケート靴にも気を遣っていて、ブレードを母娘で取り付けて微調整をしたり、サビ取り用の研磨消しゴムでエッジを研ぎ直したりしている場面が紹介されていました。
                                                           
って云うか、スケート靴のメンテナンスやチューンナップっていうのは、メーカーやスポーツ用品店のサービスマンの仕事だと思うんですけど。どうやら頻繁に調整をするものですから、とうとう自分たちでやるようになったそうです。

では、どの選手もそんなふうに困っているかというと、そんなことは全然無いらしい。研磨消しゴムを持参して自分達で調整するなんて、あの母娘ぐらいなものだ、と云われてましたから。

先日のチャレンジカップでは、複数の靴を用意しておいて最適なものを選んでいくつもりだったそうですけど、持っていった靴が多過ぎて、調整が間に合わなくなったとのことで、もう勝手にしてくれって感じですw

これらを、彼女(たち)が必要以上に神経質だと捉えるか、それだけ繊細な感覚の持ち主だと捉えるかは、判断の分かれるところです。メディア慣れしていないので、何でもかんでも喋っちゃうところもありますからね。メディアも面白がって、「今日の靴の調子は?」なんて質問ばかりしているみたいだし。

靴の話はここまで、つぎは演技についてです。

紀平梨花選手というと、2本跳んで成功させた3アクセルとなりますけど、もう1つ注目すべきは、6番目に跳んだ3連続ジャンプです。いつもならば、ここでの3連続は、3Lz+2T+2Loとなるのですが、最初のルッツがステップアウトしてしまったので、とっさの判断で、3Lz+1Eu+2Sに変更したとされています。

1オイラーを挟んでの3連続ジャンプなんて、今までの試合では一度も見せてない技ですから、とっさの判断で跳ぶなんて有り得ない話です。恐らく、普段から練習だけはしていたのでしょうけど、ステップアウトをして着氷が乱れている状態を、1オイラーを跳んだかのように誤魔化してしまうなんて、恐るべきリカバリーです。

実は、このジャンプには、さらに重要な意味があります。

フィギュアスケートでは、ジャンプは全て右足で着氷します。ですから、連続ジャンプのセカンドジャンプ・サードジャンプは右足で踏み切る「トゥループ」か「ループ」に限定されます。
で、どうしても、左足踏み切りのジャンプを連続ジャンプに取り入れたい場合は、2つめに1オイラーを跳んで足の踏み替えをして、(一応ジャンプですから0.5点もらえます)サード・ジャンプで「フリップ」か「サルコウ」を跳びます。これが1オイラー(1Eu)を挟んでの3連続ジャンプという技になります。

来シーズン、紀平選手は4サルコウを取り入れるだろうと云われてます。その上で3アクセルを2本入れるのは、かなりキツいと思います。3アクセルを1本にした場合、代わりに何を2本跳ぶか、ということになります。紀平選手はループはそれほど得意ではないようですから、その場合、セカンドジャンプは「トゥループ」一択となります。でも、3連続ジャンプで左足踏み切りも選択できるとなれば、演技の幅を大きく広げることができますからね。
           
宇野昌磨選手の 3A+1Eu+3F(基礎点13.8)なんてのは無理としても、3Lz+1Eu+3S(基礎点10.7)は、かなり現実味のある新必殺技になるかと思います。
                                         

で、今シーズンの全日本選手権ですけど、フリーで大逆転して紀平選手の優勝・・・とはいかず、坂本花織選手の逆転優勝という結果になりました。今シーズン、ここまで国際大会無敗の紀平選手が唯一優勝できなかったのが、この全日本選手権ということになります。

坂本選手は、梨花ちゃんとは対照的なスケーターさんで、質の高い連続ジャンプを武器に、気合いでメダルを取りに行くタイプです。彼女も今までの日本選手にはいなかったタイプで、面白い選手です。梨花ちゃんとは、それなりに仲も良いみたいです。

宮原選手を加えると、世界選手権代表の3人は、2歳ずつ離れた姉妹みたいな感じです。

物静かで国際経験豊かな頼れる長女。気合いで勝負、ダイナミックな演技が魅力の次女。繊細だけれど、恐るべき破壊力を秘めている三女と云うように、全く個性が異なる3人が、それぞれ表彰台を狙える力を持っているという、日本女子フィギュアの選手陣としては、史上最強で理想的な状態にあります。3人いれば、プレッシャーも分割できますし、何よりも国際大会では、心強いと思います。

4年ぶりに日本で開催される世界選手権まで、あと一週間間、楽しみでしかたありませんです。

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