2019年2月17日日曜日

「紀平梨花」2018全日本選手権エキシビション ~表現力重視のEXでジャンプを語る~

フィギュアスケートの選手にとって、上位入賞者によるエキシビションに出場することは、名誉なこととされている。ファンにとっても、エキシビションは、男女両方のスター選手の演技を一度に見ることができるから、競技よりも先にチケットが売り切れるらしい。審判員も見ているそうだからアピールの場とも云えるが、やっぱり、ジャンプとかで転倒すると格好悪いから、選手は自信を持っている技で構成することが多いようだ。

紀平選手のエキシビションは、昨シーズンや今シーズンのいくつかの演技動画がアップされている。競技みたいにギリギリのところで演技するものでは無いはずだが、改めて見ると、演技内容に思いの外バラツキがあるのが面白い。アイスショーで、止せば良いのに3アクセルにチャレンジして、大コケするのも彼女らしいと云える。

で、僕的にこれがベストかなって思ったのが、昨年末の全日本選手権での演技である。ただし、難点は、実況と解説の無良さんの声が入っていること。内容も解説者というよりもファン目線に近い。エキシビションは、演技中は、おしゃべり無しというのが、放送のルールだと思っていたのだが、まあ、あまりの演技の素晴らしさに黙っていられなくなった、ということにしておこう。


ジャンプについての解説がないので、代わりに述べさせていただくと、

①3S ②2A ③3Lz(タノ)

となっていて、たぶん、これが彼女の得意種目なんだろうと思う。

最初は、3サルコウである。サルコウは、高得点のジャンプではないから、SPでは跳ばないし、フリーでも1回しか跳ばない。ただ、その1回を最後の最後に入れているところがポイントである。

選手は演技が進むにつれて疲労してくるから、当然ジャンプの成功率も下がる。だから、難易度の高いジャンプを最初に実施する傾向がある。今シーズン、彼女のフリーの演技が、スピンやステップで無く、ジャンプで終わるというのもスゴイことだが、その最終ジャンプにサルコウを選択してるってことは、彼女がサルコウに絶対の自信を持っていることの表れと云える。

紀平選手は、来シーズンに向けて、4回転の練習をしているようだが、そのジャンプもサルコウである。彼女にとって、両足踏み切りに近いサルコウは、もっとも跳び易いジャンプなのだろう。

2つめは、2アクセルである。まあ、普段から3アクセルの練習ばかりしているだろうから、それよりも1回転少ない2アクセルは余裕なのだろう。アクセルジャンプは、前向きに跳び上がるので飛距離もあって、見た目も豪快だ。2アクセルでも十分に見応えがある。

さらに、この演技ではジャンプからそのままステップに入っているのだが、シーズン当初は、こういう構成では無かったから、こんなところからも彼女の成長をうかがい知ることができる。

3つめは、3ルッツである。しかも両手を上げてのタノ・ジャンプである。解説の無良さんが、思わず「安定感バツグン」と漏らしてしまったのも理解できる。これは試合用のガチなジャンプで、エキシビションの3番目に跳ぶようなものではない。まあ、それだけこの日は絶好調だったのだろう。

ルッツは、アクセルの次に高得点のジャンプである。ルッツは、左足のアウトサイドエッジで踏み切るという特殊なジャンプであるから。苦手としている選手も多い。坂本花織選手もあまり得意ではないらしく、フリーでも1回しか跳ばないし、四大陸ではエッジエラーで減点もされている。(そのかわり彼女は素晴らしいループ・ジャンプを持っている)

フィギュアスケートは、反時計回りに滑りながら演技をするものだから、その流れに逆らって左のアウトサイドエッジで踏み切るルッツは難しいとされている。ただ、他のジャンプの回転軸がリンクの中心側に傾くのに対して、ルッツは、ほぼ垂直に跳び上がるから、とても見栄えのするジャンプである。

紀平選手の魅力と強みは、この美しいルッツ・ジャンプを跳べるところにある。よく紀平選手は浅田真央選手を越えたかどうかということが話題になる。実績という点では遥かに及ばないだろうが、技術的には越えたと云えなくもない。それは、このルッツがあるからである。
解説書を見ると、ルッツは、同じ左足踏み切りで、インサイドエッジを使うフリップと見分けが難しいとされているが、彼女のルッツは極めて明確である。滑走する左足が外側にクッと開いてシャッて跳んでくところなど、惚れ惚れしてしまう。

実は、先日の四大陸選手権のエキシビションでは、この3番目のジャンプをサルコウと入れ替えていて、ルッツを跳んでいない。エキシビションとは云え、得意なルッツを回避して、安全なサルコウを2回跳んだということからも、四大陸での彼女の状態が、ギリギリのものだったことが予想できる。

左耳にイヤホンをするときの素振りや、フリーの演技前に濱田コーチが手を握ろうとしたときに、反射的に左手を引っ込めて、「あっ、痛いよね。ごめん。」なんてシーンを見ると、本当に痛かったんだな~って思う。


参考までに、昨シーズンのエキシビションを貼り付けさせていただいて、お終いにしようと思う。

2017年のジュニアグランプリファイナル(名古屋大会)での演技である。この大会で紀平選手は4位となっている。この時は、ロシア勢が表彰台を独占、シニアの部でも1,2位がロシア勢だったから、この先10年位は、ロシアの天下が続くんだろうなって雰囲気だったようだ。


ジャンプの構成は、①3S ②3F ③3Lzだと思う。同じプログラムでも、アジアカップでは2アクセルを跳んだりしているから、エキシビションで入れてくるジャンプって、その時、その時で変えてくるものらしい。

1年以上前の演技であるから、今と比べてしまうと、表現力もそれなりだし、3フリップが2回転になってしまうミスもあるのだが、メリハリの効いた動きとスピード感は見ている者に清々しさを感じさせる。
シニアになった彼女に、もう一度演じてもらいたい。そんなプログラムである。

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