2019年2月4日月曜日

「紀平梨花」2018GPファイナル・フリー ~防衛的悲観論者のリカバリー能力~

シニア参戦1年目の今シーズン、紀平梨花選手は、グランプリシリーズで2戦2勝して、ファイナルへと進みます。グランプリファイナルのショートプログラムでは、珍しくノーミスの演技を披露し、今季世界最高得点をたたき出しました。

何度見ても良いですね。海外メディアから、まるでディズニー映画だと評された演技。以前、ロシア語版の動画を紹介させていただきましたが、消えてしまいましたのでこちらを。


今シーズンに限らず、紀平選手は、SPで失敗して、フリーで逆転というパターンばかりだったんですが、この大会では、SP1位ということで、フリーでは最終滑走での登場になりました。


最初のトリプルアクセルのコンビネーションジャンプを失敗して、手をついてしまいましたね。3アクセルは、ダウングレード判定で、コンビネーションにもできませんでした。基礎点で12.20、GOEも入れれば15点近く稼ぐジャンプが、ダウングレードで基礎点3.3、GOEー1.65で、わずか1.65点しかもらえませんでした。いきなりの大ピンチです。

フィギュアスケートというのは、最も難易度の高い技を、体力のある最初の方に実施するというのが定石となっています。ですから、最初に必殺技を出してしまうという、ちょっと変ったスポーツなんですよね。また、最も難易度が高いということは、失敗する可能性も高くなってるわけで、最初のつまずきから如何に立ち直れるのかを競い合うという、やっぱり不思議なスポーツでもあります。

で、昨シーズンまでの梨花ちゃんでしたら、この後は、ボロボロになって惨敗というパターンだったんですけど、今回は少し違いました。シニアになって大崩れしなくなったのが、今季活躍できている最大の要因に思います。

改めて、紀平選手の今シーズンのジャンプ構成です。

①3A+3T ②3A ③3Lo ④3Lz+2T ⑤3F ⑥3Lz+2T+2Lo ⑦3S

最初のジャンプを失敗して連続ジャンプにできませんでしたから、2番目の単独の3アクセルに2トゥループを付けて連続ジャンプにしてリカバリーしました。流れが悪かったために3トゥループにはなりませんでしたけど、3アクセル+2トゥループというのは、かつて、浅田真央選手が必殺技としていたジャンプですから、リカバリーで跳んでしまうこと自体、凄いことです。

彼女の談によると、最初の3アクセルからの連続ジャンプでは、必ずしも3トゥループを付けようとは考えていないそうで、流れによっては、2トゥループでも構わないという感覚なんだそうです。柔軟性のある構成なんですね。3トゥループは、どこのセカンドジャンプにも付けられる、という自信があればこその構成に思います。

で、付けられなかった3トゥループを4番目の連続ジャンプ3Lz+2Tの2トゥループと入れ替えることで、リカバリーしてきました。

3Lz+3Tを跳んだことについては、解説者や評論家さんから高評価を得ているようです。実は、3Lz+3Tというのは、かつて、キム・ヨナ選手が必殺技としていたジャンプでして、演技中盤にリカバリーとして簡単に跳べるようなジャンプではないんですよね。

この2つのリカバリーで、3アクセルの失敗で失った得点の、半分近くは回復できていると思います。

では、もしもこの時に、セカンドジャンプが2トゥループになってしまい、3トゥループを付けられなかったとしたら、どうしたでしょうか。

その場合、影響があるのは、6番目の3Lz+2T+2Loですね。2トゥループを3回跳ぶことになり、規定違反になってしまいます。
で、これは僕の予想なんですけど、3連続ジャンプを3Lz+1Eu+2Sに変更するのではないかと思います。

実は、全日本選手権では、ここの3連続ジャンプで最初のルッツをステップアウトしてしまいバランスを崩すんですけど、その時に、(とっさの判断で)3Lz+1Eu+2Sに変更しています。このシングル・オイラーを挟んだ3連続ジャンプというのは、ジュニア時代からシニアの今季まで、試合では全く見せてなかったジャンプです。全くの想定外の技でして、跳んだ瞬間にジャンプ名を言ってしまう、解説の荒川静香さんでさえ、一瞬パニックになって、言葉が出なかったくらいです。
しかし、フィギュアースケートは、体操競技と同じで、練習で出来ないことは、試合では絶対に出来ないスポーツですから、彼女がこの技を普段から練習していたのは確かです。

では、セカンドジャンプそのものが付けられなくって、単独の3ルッツになってしまったらどうしたでしょうか。おそらく、5番目の3フリップを連続ジャンプにしてくると思います。3フリップ+3トゥループは、ショートプログラムでも跳んでいるジャンプですので、問題なくできると思います。

こんなふうに、フィギュアースケートというのは、失敗することを前提として、此処で失敗したら次はこうする。これで失敗したら次はこうするというように、想定されるありとあらゆる場面に対して準備をする競技のようです。

ところが、宇野昌磨選手がインタビューで答えていたのですが、彼は試合中にリカバリーをしようとしても上手くいかないので、敢えて連続ジャンプを後半に集め、跳べなければそれでお終いという、ガチガチの構成にしているそうなんです。無理にリカバリーしようとしても、余計失敗して墓穴を掘ってしまうってことですね。
確かに、リカバリーの練習をするのであれば、その時間を使って、プログラムを100%完遂できるように取り組んだ方が良いというのも、正しい選択の1つではあります。

どうやら、全ての選手がリカバリーを考えているわけでは無いみたいです。リカバリーするというのは、考えている以上に難しいことなんですね。
まあ、それを出来るようになったから、今季の梨花ちゃんの躍進があるわけで、そのためには、技術力も体力も精神力も必要なわけで、簡単に云うと強くなったってことだと思います。

梨花ちゃんがトリプルアクセルに取り組んで、跳べるようになるまでに1年、試合で使えるようになるまでに更に1年、それから2年経った今でも、安定して跳べているとは言えません。

成功すれば圧勝できるが、失敗すれば入賞すらできないという状況が続くなかで、安定した成績を残すためには、リカバリーを考えざるをえなかったのでしょう。また、そうすることで、試合に対するメンタルコントロールにつなげていったのだと思います。
何より、ありとあらゆる事態を想定して対策を講ずるという戦略が、防衛的悲観論者と称される、彼女の性分に合っていたのでしょう。

この演技でのリカバリーによって得られる得点は、5点足らずです。しかし、彼女にとってのリカバリーは、ダメージコントロールと云う側面が大きく、失敗した時の備えを持っているという安心感が、メンタル面の支えとなり、今季の大躍進へとつながっているのだと思います。

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