2021年6月9日水曜日

黒島結菜「ごめんね青春!」現地巡礼 その1 ~セーラー服の星~

日曜劇場「ごめんね青春!」は、2014年に放送された学園コメディーである。日曜劇場と云えば、「半沢直樹」「華麗なる一族」など、数多くの名作、高視聴率ドラマが放送された伝統の枠だ。三島市が物語の舞台と云うことで、地元の期待も大いに膨らんだのだが、始まってみると平均視聴率7.7%という堂々の歴代最下位に沈んでしまった。

低視聴率の理由は、宮藤官九郎氏の悪ふざ・・・ギャグが過ぎて、日曜劇場の視聴者に愛想を尽かされたからである。初回から下ネタ(それも中高生レベル)を連発されたら、健全な家庭は、テレビを消してしまうだろう。テストで70点以上取れたら1点につき1秒間おっぱいを揉めるなんて下ネタで、笑えるヤツがいるだろうか。まあ、下ネタ連発といっても、他の放送回では考えさせられる場面も結構あったから、初回のハードルを乗り越えた、あるいは、クドカンワールドの免疫を身につけた者にとっては、楽しいドラマだったように思う。つまり、勿体ない話ということだ。

初回にクドカンワールドを展開し、視聴者にそっぽを向かれたのは、大河ドラマ「いだてん」も同じ。「ごめんね青春!」が日曜劇場で無ければ、「いだてん」が大河ドラマで無ければ、もっと評価を受けていただろうから、場に合わせるって大事なことなのだ。


その「ごめんね青春!」が、「重岡大毅」君のドラマ主演を記念して、「Paravi」と「TVer」「GYAO!」で配信されている。せっかくの無料配信であるし、地元が舞台であるし、黒島結菜さんも出演しているということで、視聴させていただいた。

このドラマの舞台設定は、次の通り。

静岡県三島市には、伊豆箱根鉄道(通称:いずっぱこ)の沿線に3つの私立高校がある。毎年東大合格者を数多く輩出する男女共学の駿豆西高校、通称「西高(にしこー)」。厳粛なカトリック系の女子校・聖三島女学院、通称「三女(さんじょ)」。そして、仏教系の男子校・駒形大学付属三島高校。西高と区別するため通称「東高(とんこー)」と呼ばれている。

伊豆箱根鉄道・駿豆線は、ドラマでの重要な舞台だ。リアル世界でも、沿線には、進学校から、今では貴重な農業高校まで、キャラ・・・校風と最寄り駅の異なる県立高校が縦一列に8校ほど並んでいて、朝夕の電車は、上りも下りも高校生で溢れている。定期代はバカっ高いが、他に交通手段が無いんだから仕方ない。

地元民が、伊豆箱根鉄道を「いずっぱこ」と云うのは本当の話だ。あと「駿豆線(すんずせん)」って云うときもある。それから伊豆箱根鉄道は、バスも運用しているが、こちらは「いずっぱこ」とは呼ばない。明確では無いけれど、電車は「いずっぱこ」、線路は「駿豆線」、バスは「伊豆箱根」って使い分けているように思う。「いずっぱこで通学する」「駿豆線の踏み切りの近く」「伊豆箱根のバス停」っていう具合だ。

リアルでは、三島市には私立校は1つしかない。って云うか、そもそも伊豆地方には、私立高校は1つしかない。それが「日本大学付属三島高校」である。ドラマの「駒形大学付属三島高校」は、仏教系の三流大学(駒澤大学じゃ無いよね)の付属って設定だけど、日大三島は、共学校だし、仏教系ではないし、三流でも無い。ただ、僕がリアル高校生の頃は工業科があって、頭に宇宙戦艦ヤマトを載せた兄ちゃんたちが通っていた。

日大三島は、近隣では最大のマンモス校だ。普通科は共学とは云っても男子部と女子部に分かれていた。女子が移動教室などで、廊下を歩いていると、男子にからかわれたなんていう話を聞いたことがある。まあ、東高のモデルにするには、無理があるが、他に該当する学校もないので、良しとしていただこう。僕がリアル高校生だった頃の日大三島高生のイメージは、重岡大毅君が演じる「海老沢ゆずる」である。

「駿豆西高校」は、毎年東大合格者を数多く輩出する男女共学高って設定だ。強引に当てはめるならば、県立韮山高校「韮高(にらこー)」だろう。偏差値も66くらいだし、東大・京大に合格するヤツも多い。リアルの韮高は、もうすぐ創立150年っていう超伝統校だ。北条早雲が居城とした韮山城跡に校舎が建ち、山城の郭がテニスコートになっているってことだけでも、その伝統が分かるだろう。昔は男ばかりで、女子の比率は低かった。僕の親の世代なんて「女の子なのに韮高に行ったら、お嫁さんの貰い手が無くなる。」って本気で云ってたものだ。実際、韮高の女子生徒は、男社会の中でバリバリやってく子が多かったように思う。僕がリアル高校生だった頃の韮高女子のイメージは、黒島結菜さん演じる「中井貴子」である。


「聖三島女学院」は厳粛なカトリック系の女子校って設定だけど、これは県立三島北高校「三北(さんきた)」(偏差値63)かなぁ。三島北高は、校舎が「東校(とんこー)」としてロケに使われていたので、ドラマとの関わりは深い。リアルの三北は創立120年、旧三島高等女学校の伝統を守る県立の女子校で、後ろ襟に星の刺繍をあしらったセーラー服は、近隣の女子中学生の憧れの的だ。僕がリアル高校生の頃は、中学の成績が学年トップだけど女の子だから北高に進学した、なんていう話は普通にあった。僕の北高生のイメージは、ドラマで「波留」さんが演じた「蜂矢祐子」である。


「いずっぱこ」の沿線には、もう1つ、実科女学校を前身とする県立大仁高校という女子校があって、ここの制服も黒いセーラー服だった。前から見ただけでは区別が付かないから、セーラー服の女子高生とすれ違うと、僕らは必ず振り返って、後ろ襟のマークを確認した。☆だと「北高だっ」ってなり、違えば「大仁か」って思ったものだ。


三島北高と日大三島は、銀杏通りをはさんで斜め向かいにあるけど、北高の女の子と日大の男が、並んで歩いているところを、あまり見たことがないから、ドラマの設定と似ていると言えば似ている。って考えると、ドラマの「海老沢君」と「あまりん」のカップルが、如何にレアなケースだったかが分かる。


2004年、三島北高は男女共学になった。時代の流れとはいえ、OGの強い反対があったのは云うまでも無い。三北は県立の伝統校だし、進学校だし、通学にも便利な立地なので、近隣の中学生の人気は高い。共学化は順調に進み、男女比も半々に近づき、制服のデザインも変わった。でも、セーラー服のイメージと背中の☆は健在だ。制服が変わるという話を聞いたとき、北高と全然関係の無い僕らでさえ、☆はどうなるのだろうと心配したくらいだから、北高生にとって、☆の無い制服など有り得なかったのだろう。 

詰襟学ランの韮高生と、黒セーラー服の三北の女の子が、三島の街を並んで歩いていると、それだけで絵になった。共に百年を超える伝統のオーラがあった。僕らの親の世代からずっと変わらない、昭和の青春の映像だ。

とはいえ、他校生と付き合うというのは、憧れではあるけど、それなりにエネルギーを必要とする。韮高も三北も、今では男女比も半々、自校内でカップルが生まれることが多くなったらしい。旧制中学と高等女学校のカップルを、街で見かけることもなくなってしまった。

大仁高校は、2010年に修善寺工業高校と統合され閉校になった。だから、セーラー服とすれ違っても、もう振り返ることは無い。

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