第7話まで無料配信が進んだ、日曜劇場「ごめんね青春!」。静岡県の三島市が舞台ですから、みしまコロッケとか、みしまる君とか、いずっぱこのハートの吊革とかが出てきて、宣伝してくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと、無理矢理な感じ。視聴者がドン引きする(した)んじゃないかと心配になってしまいました。
今回は、番組で使われている「静岡弁」についてです。といっても、ドラマで方言をしゃべってるのは「植木夏十」さん演じる、スナック「ガールズバー」のママだけですけどね。
僕が子どもの頃、「細うで繁盛記」というドラマがありました。大阪から伊豆にやってきた主人公の若女将(新珠三千代さん)が、小姑の正子(冨士眞奈美さん)のいじめを受けながらも旅館を再生するという、昭和ドラマの傑作です。
憎まれ役の富士眞奈美さんは静岡県出身で、このブログでも取り上げさせて頂いた「三島北高」の卒業生でもあります。静岡弁ネイティブの富士さんが、極限までチューンアップした伊豆弁の台詞「加代、おみゃーの好きなようにゃ、させにゃーで。」などは日本中に衝撃を与えました。当然、伊豆の人たちには不評で、「おらっちゃ、あんな言葉、しゃべっちゃにゃーずら。」って云ってましたけど。
静岡県は県外からの転入者も多く、あんな方言は急速に使われなくなりました。それでも、地元民の密度の濃い地区では、年配の人たちが静岡弁を使っているのを聞くことができます。まあ、静岡弁といっても、標準語とイントネーションなどは差違が少なく、大した方言ではないんですけど、特徴をあげるとすれば、こんなところでしょうか。
進学や就職で県外に出た時に方言を知らずに使い、笑われて初めて気付く
これは、静岡県人が必ず経験する「あるある」です。「こば」(端、隅)などが典型ですが、有名なのは、2007年に「長澤まさみ」さんが記者会見で使った「ちんぷりかえる」でしょう。
これは、「ガンジス河で泳ぐ」というドラマのインド・ロケに父上様(元ジュビロ磐田監督の長澤和明氏)が反対して、「まさみ」さんと親子喧嘩になったというエピソードを語る中で、「2人で言い合いをして、お互いにちんぷりかえって」と使ったことによるものです。芸能ニュースでは、「ちんぷりかえって(すねて)」と翻訳字幕が付いたことでも話題になったようです。
二十歳そこそこの清純派女優が、記者会見でいきなり「ちんぷりかえる」ですからね。
「ちんぷりかえる」は、静岡では全県的に使われている(いた)方言で、「ちんぶり」という云い方もあるみたいですが、「ぷり」の方が普通かと思います。意味は、字幕の通り「拗ねる」ですけど、イメージ的には、小さな子が思い通りにならなくて、すねている感じになります。ですから、大人に使った場合は、「まるで子どもみたいにむくれている」とか、「大人げも無くふてくされている」となります。まさみさんも、笑えるエピソードとして紹介したかったので、険悪感がやや弱い「ちんぷりかえる」という言葉をセレクトしたのでしょう。
で、問題は、まさみさんが、この言葉を方言として意識していたかってことです。多分、彼女は、記者会見場にいた人たちにも分かるだろうって感覚で、「ちんぷりかえる」を使ったように思います。字幕を使われるとは、思ってもいなかったでしょう。
静岡弁では、標準的な意味に加えて、別の意味を持っているものがあります。
例えば「とぶ」は、空を飛ぶだけでなく、走るという意味があります。僕は子どもの頃「かけっこしよう」のことを「とびっこすべぇ」って云ってました。あと「かじる」は、「りんごをかじる。」の他に「引っ掻く」の意味でも使います。ですから、「おしりかじり虫」っていう歌を聴いたとき、お尻をボリボリ掻いている虫のことだと本気で思っていました。
独特の表現をするものもあります。
「おみゃあ、そらつかってるら。」(お前、嘘ついているだろう。)
「はだって、やったずら。」(わざとやったんだろ。)
「練習たこって、どこ行ってただ。」(練習サボって、どこ行ってたんだ。)
取り上げ出すとキリが無いですね。特徴としては、標準語と比べて語感が柔らかいものが多いように思います。富士眞奈美さんの伊豆弁も、罵っているのに滑稽に聞こえるんですよね。これが静岡弁は優しい言葉と云われる所以なのでしょう。
東部・中部・西部で言語が異なり、伊豆と遠江は互いを異端視している
これについては、以前に、このブログでまとめた通りです。
戦国時代、遠江は三河出身の徳川家康が治めていましたし、伊豆は小田原の北条の領地でしたから、それぞれ愛知県、神奈川県になったとしても不思議ではありません。実際、そうだった時期もありますし、静岡という地名も、明治になって作られたものです。
「ごめんね青春!」で、スナックのママの「うなぎの肝食べるかね?和尚。精つくだに~。」という台詞がありましたが、これに対して、三島市民から「俺っちは『だに』なんて言わない」という指摘が、SNSに溢れるという事態が発生しました。「だに」は、静岡県西部で使われている方言だと云うわけです。ドラマで使う方言は大袈裟に云うことが多いので、違和感を感じるのは致し方ないことですけど、西部の方言を使ったことは許せなかったようです。
静岡弁では「だに」の他に「だら」「ずら」などが知られていて、標準語との差違が少ない静岡弁の、分かりやすい特徴になっています。
さて、第4話、第5話は、告白のオンパレードでしたけど、ネットに「使うと可愛い静岡弁」ってのがあって、「うちっちのこと、好きじゃないだか?」が紹介されていました。確かに可愛いですよね。思わずニヤけてしまいました。
女の子が自分のことを「うちっち」というのは、静岡県に限らず使われている言葉で、「わたしたち」又は「わたしの家」という意味になります。「うちっち、遊びにくるら。」は(私の家に遊びに来るよね。)と云う意味です。ところが、面白いことに、女の子たちは「わたし」の時も「うち」では無く「うちっち」を使います。ちなみに、男の子は「おれっち」ですが、自分だけなら「俺」となって「ち」は付きません。
これは「家(うち)」と混同されるのを避けてとのことですが、「うちっち」と(ち)を重ねた時の語感が可愛らしくなることも理由の1つに思います。「うちっち」は、今も使われる数少ない静岡弁の1つです。
「うちっちのこと好きじゃないだか?」を言い換えて「うちっちのことさ、キライじゃないら?」としてみました。「嫌いじゃにゃあずら」にするとコテコテ過ぎて可愛くないので、「ないら」をセレクト。「ないだら」という云い方もありますけど、「だら」と「ら」は同じような意味ですが、語感はかなり異なります。
「だら」は「ら」より強くなります。大袈裟に云うと、「明日、三津シーに行くだら。」は、「行くよね。(だって約束したじゃん)」って感じ。「行くら。」だと、「行くでしょ。(忙しいんなら、無理しなくてもいいけど)」となって、相手に任せるような優しいニュアンスになります。「そらつかってるら」と「そらつかってるだら」だと「だら」の方がバレてる感が強くなります。ですから「うちっちのこと、好きだら?」と云うと、かなりの肉食系です。(でも「好きら」とは使わない)
最近の日本語の傾向として、断定を避けるってのがありますけど、静岡弁も同じで「だら」「ずら」は使われなくなる傾向にあります。(あと、如何にも方言ぽいので避けられているって面も)一方、語尾に「ら」を付ける云い方は、今も根強く残っていて、「オレは方言なんか使わない」って云ってるヤツも、よく聞くと、無意識のうちに「ら」を付けまくってたりします。
強制力を伴わず、語感を優しくする「ら~」は、現代の静岡人にとって抵抗なく使える便利な言葉です。スナックのママも「うなぎの肝食べるかね?和尚。精つくら~。」って云えば、炎上しなかったと思います。
#ごめんね青春! #黒島結菜 #静岡弁 #長澤まさみ
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