2019年12月31日火曜日

「黒島結菜」出演映画「カツベン!」と尾花劇場(ホテルサンルート奈良)

周防正行監督の最新作映画「カツベン!」を見てきました。

公開から一週間ほどでしたが、上映回数は当初の一日5回から3回に減らされていました。上映されていた11番シアターは、映画館の中で一番小さい劇場で、座席数は70ほど、観客数は20人くらいだったでしょうか。全員が中高年のオジさんオバさんでしたよ。
「アナ雪2」や「スターウォーズ」などは別格としても、同時に公開が始まった「浜辺美波」ちゃん出演の「屍人荘の殺人」や、「橋本環奈」さん出演の「午前0時、キスしに来てよ」と比べても、かなり苦戦しているようです。


でも、見た感想は、一言で云うと面白かったです。世間に広く知られてないのが勿体ないとも思いました。登場人物のキャラが立ちまくっていて、悪役がどこまでも悪い奴らで、分かりやすくって、爽快で、痛快で、これぞ娯楽映画って感じでしたよ。

もし、貴方が、かつてのドリフターズのような、頭の上にタライが落ちてくるギャグを面白かったと思い、キャラメルの味を懐かしいと感じられるのでしたら、鑑賞されることを強くお勧めいたします。ですから、対象年齢は45才以上と云ったところでしょうか。って、最も映画を観ないだろう世代が対象年齢ってことが、苦戦している最大の原因かもしれません。


もちろん、主人公の成長過程がきちんと描かれていないとか、終盤のドタバタ追いかけっこが長くてクドいと云ったツッコミどころはあります。お若い世代だと、子供が万引きをする場面などは、嫌悪感をいだくかもしれません。
活動弁士の魅力についても、しっかり描けているとは言えません。だって、出てくる弁士がヘンテコリンな奴らばかりなんですから。でも、昔、こういう人たちがいたんだなってことは分かりましたし、もし興味を持ったのなら自分で調べればいいわけですからね。

まあ、不満があるとすれば、黒島結菜さんの出演時間が、思いの外短かったことでしょう。


映画と云うと、「アルキメデスの大戦」のVFXや、「ボヘミアン・ラプソディー」の合成映像など、観客にそれらしく見せるという手法が当たり前になっています。けど、「カツベン!」は、セットを組んだり、ロケをしたり、大勢のエキストラを使ったりといった昔ながらのやり方で作られていました。丁寧に作られた手作り感満載の作品と云ったところでしょうか。

映画の中で白黒の無声映画を映すシーンがあるんですけど、あれって、昔の映画を流用しているのでなくって、この映画のために、昔の映画っぽく撮り直していたんですよね。


で、その劇中映画の「金色夜叉」のお宮が上白石萌音さんだったり、「椿姫」を城田優さんと草刈民代さんが演じていたりと、ちょい役にも有名な俳優さんが次から次へと出てきて・・・まあ、それを批判的に書くコメントもありますけど、オールスター勢揃いの昔の忠臣蔵みたいで面白かったです。年末ですからね。


「十戒」で海が割れるシーンがあって、その時の「モーゼ」は竹中直人さんの一人二役だったそうです。(後で知りました)演じていて絶対楽しかったと思います。

それから、青木館付きの楽士で管楽器を演奏していたのが、「アシガール」で木村先生を演じた「正名僕蔵」さんでした。


完璧な落武者ぶりでした。で、今回は、お洒落なクラリネット奏者。黒島結菜さんともたくさん共演している正名僕蔵さんですけど、何の役をやっても良い味を出しています。映画もドラマもこういう役者さんの存在があってこそ成立するのでしょう。

で、映画に出てきた活動写真館「青木館」のモデルの1つが、昭和54年まで奈良市高畑町にあった「尾花座(尾花劇場)」なんだそうです。これが芝居小屋だった頃の尾花座です。


こちらが映画に出てくる青木館です。雰囲気が似ていますよね。


現在、尾花劇場の跡地には「ホテルサンルート奈良」が建っています。実は、僕は奈良が好きで年に何回か訪れているのですが、サンルートをよく利用していたんです。猿沢の池の畔にあって便利だし、行楽シーズンを外せば安く泊まれますし、駐車場無料だし、ビジネスホテルよりもちょとだけ高級感あるし、何より朝食バイキングがすご~く美味しいんですよ。


で、つい先日もサンルート奈良に泊まって、その時にカツベンのチラシを見つけて、青木館のモデルだってことを知った次第です。映画に出てきた車のナンバープレートが奈良ナンバーだったので、奈良が舞台なのは分かっていたんですけど、こんなところでつながっているなんて驚きました。


「尾花座」の名は、小屋の横を流れている「尾花谷川」からとったようです。尾花谷川は猿沢の池の南側を流れ、やがて「率川(いさがわ)」と名前を変えます。率川は万葉集にも歌われた由緒正しい(?)川ですが、市街地化よって、ほとんどが暗渠化され、今はその流れを見ることができなくなってしまいました。

芝居小屋「尾花座」は、大正9年(1920年)に映画館「尾花劇場」となりますが、昭和54年(1979年)に閉館し、その跡地に建てられたのが「サンルート奈良」だそうです。実は、サンルート奈良はサンルートチェーンに加盟していますが、独立した会社で、今の社長さんは映画館を開業した方の曾孫さんだそうです。それから、映画館からホテル業への転進を決断した先代の社長さんもご健在で、僕が泊まったときも、きちんとした身なりでロビーを見回っていらっしゃいました。

サンルート奈良は独特の雰囲気があって、全然サンルートっぽく無いので不思議だったんですけど、その理由がようやく分かりました。

映画「愛染かつら」が大ヒットした頃の尾花劇場の写真です。写真の説明に昭和20年の年末に前編、21年の年始に後編が上映されたとありましたから、再上映の時でしょうか。太平洋戦争が終わって平和になって、恋愛モノを自由に上映できるようになった頃ですね。奈良は空襲に遭わなかったから、映画館も無事だったのでしょう。終戦直後の極端な食糧難で、餓死者も出るだろうと言われていたこの時期に、愛染かつらを見に集まった人たちです。とにかく人が多すぎて映画館の窓ガラスが割れてしまったそうですよ。


尾花劇場の雰囲気は、映画に出てくるライバルの「たちばな館」に似ているように思います。

さて、ホテルのホームページによると、サンルート奈良は、サンルートホテルチェーンとの加盟契約を終了して、令和2年6月より「ホテル尾花」と改名し、マークもサンルートから、かつての尾花座のものに変わるようです。

古民家が集まる奈良町も賑わっていますし、古いモノ伝統のあるモノは、それだけで価値があるという時代になったと云うことでしょうか。「カツベン!」の封切りが、尾花座復活のきっかけになったのかもしれませんね。


「カツベン!」は、見終わった人たちが、「面白かったねぇ」なんて云いながら、笑顔で劇場から出てくるような映画でした。そのうちテレビでも放送されるかもしれませんけど、無声映画を画面いっぱいに映し出すシーンなんかは、やっぱり本物のスクリーンで見た方が絶対良いと思います。

理屈抜きで、泣いたり笑ったり楽しめるのが映画の良さ。それは、カツベンの大正時代も、生きるだけで精一杯だった終戦直後も、令和の現代も変わらないものなんだなって思いました。ネタバレとか全然関係ないんで、僕も、もう1回見たいと思っています。まだの方も、騙されたと思って是非。

0 件のコメント: