紀平梨花選手を応援し始めて、決めたことが1つあった。
ジュニア時代の梨花ちゃんは、成績が安定しない選手だった。3アクセルを決めてぶっちぎりで優勝したかと思えば、1本のジャンプのミスからグダグダになり、国内大会の予選すら通らない時もあった。シニアに進んでからは、少しずつ安定感が出てきたが、ショートプログラムでコケて、フリーで逆転なんていう試合が続いた。
3アクセルからの三連続ジャンプなんて史上初の技を成功させた試合で、規定違反によってジャンプ1本をノーカウントにしちゃったり、3アクセル成功の後、問題なく跳べるはずの3ルッツの回転が抜けてしまったりと、ツッコミどころ満載な演技も多かった。試合外でも、ブレードの位置をイジり過ぎて調整できなくしちゃったこともあった。
それらは、誰からも尊敬される日本のエースと呼ぶには、まだまだなことを表していると思えた。だから僕は、彼女を敢えて「梨花ちゃん」と呼ぶことにした。心技体名実ともに日本のエースになった時に、改めて「紀平梨花選手」と呼ぼうと決めたのだ。
そして、ついに、その日が来た。全日本選手権連覇、さらに日本女子として17年ぶりの4回転ジャンプ成功だ。
フリー演技でのジャンプ構成は、次の通りである。
①4S ②3A ③3F+1Eu+3S ④3Lo ⑤2A+3T ⑥3F+3T ⑦2A
冒頭の4サルコウは凄かった。あんなに安定感のあるジャンプをしてくるとは思わなかった。あれだったら、後ろに2トゥループを付けることもできるだろう。4サルコウを2本組み込んだプログラムも不可能では無いと云うことだ。
3アクセルは、まさかの回転不足になってしまったが、その後の3連続ジャンプが良かった。これも、実戦では初披露だ。練習動画で見てから、ずっと楽しみにしていたジャンプだ。これ、下手なジャンパーだと、真ん中のオイラーがヨタヨタになって、如何にも繋いでいるだけってなっちゃうんだけど、梨花ちゃんのは、流れのある連続ジャンプだったと思う。もっとGOEが付いても良いだろう。
気がかりなのは、3ルッツを回避して、2アクセルと差し替えたことだ。昨シーズンに足を痛めた梨花ちゃんは、ずっとルッツを封印してきた。今回は、ショートプログラムで3ルッツを問題なく跳んでいたので安心していたのだが、まだ、足首は悪いようだ。もう2年くらい痛いと云っているので、痛め癖になっていないか心配である。
①4S ②3A+2T ③3F+1Eu+3S ④3A ⑤3Lo ⑥3F+3T ⑦3Lz
多分、これが完成形のジャンプ構成じゃないかと思う。4サルコウ1本と3アクセル2本の演技だ。同じ日に開催されていたロシア選手権では、アンナ・シェルバコワ選手(アーニャ)が、4ルッツと4フリップを跳んで優勝したようだ。基礎点はあっちの方が上かも知れないが、十分に対抗できる構成だと思う。
アーニャと梨花ちゃんでは、合計得点で30点以上の差がついている。だからロシア選手には敵わない、みたいなコメントを見かけるが、これは正しい認識では無い。ロシアの国内大会は難しい技を決めるとボーナスポイントが付加されるというインフレルールがあるし、ジャッジは自分が贔屓する選手の演技構成点を爆盛りしてくる。この辺のことはロシアのファンはちゃんと認識していて、30点以上得点の低い梨花ちゃんを見下げるようなコメントは出てこない。
僕は、昨年、新横浜のリンクでアーニャを見て以来、彼女のファンにもなった。現在、ロシアでは有力選手の足の引っ張り合いが行われていて、代表選手になるだけで、もの凄いエネルギーを使うだろうけど、アーニャには是非とも代表権を勝ち取って欲しい。そして、北京オリンピックで、互いにノーミスで台乗りしてくれたら、こんな嬉しいことはない。
そんなことを考えながら、ネットニュースを見ていたら、とんでもないことが書かれていた。なんと、梨花ちゃんは演技の途中で左右を間違えていたと云うのだ。スッテプシークエンスでは、ジャッジに裏側を見せてしまったらしい。
はぁ?
どう云うことだ。梨花ちゃんの解説で演技をふりかえってみよう。
どうやら、3ループの後のキャメルスピンの時に、出る方向を間違えたらしい。スケートリンクは楕円形だからどっちが前でも良いんだけど、普通はジャッジが座っている方を向いて演技する。テレビカメラもそっち側にあるし・・・。で、気付いてからは、どうやって戻そうかと、そればっかり考えていたそうだ。
云われてみれば、「コレオシークエンス」はグラついていたし、5番目のジャンプ2A+3Tの次の「ステップシークエンス」もリズムに乗り切れていなかったように思う。ただ、この楽曲のピアノソロのアレンジって、リズムに乗りにくいんじゃないかってずっと思ってたんで、イマイチなのは楽曲のせいだと思っていた。で、6番目のジャンプの前で、ようやく戻れたらしい。
それから、演技が終わった後、いつも以上にニコニコしていて、コーチとも笑い合っていたのも気になっていた。4回転が成功したのが、よっぽど嬉しかったのかなんて思っていたんだけど、逆向きに演技しちゃったことを「も~、やだぁ」って感じで、笑っていたのが真相らしい。
しかし、こんなことってあるのだろうか。聞いたことが無い。っていうか、あっても普通は黙っているものだろう。テレビのインタビューとかで喋ったりしない。素晴らしいリカバリーですね、なんてフォローされてたけど、リカバリー力って、こんなことに使うべきものじゃないだろう。
2位になった坂本選手が、サバサバした性格で、ツッコミを入れてくれたのが救いだった。関西の子たちは、ボケ(天然だけど)に対してツッコミを入れるというのが、当たり前のようにできるようだ。これがロシアだったら、1位と2位の選手が同じ番組に和やかに出るなんて有り得ないし、コーチは演技構成点を巡って大騒ぎしているだろう。
それにしても、全日本チャンピオンの演技が、裏返しだったなんて・・・。これは羽生選手の0点スピンを上回るインパクトだ。梨花ちゃんは、やっぱり梨花ちゃんだった。つっこみどころ満載の梨花ちゃんは健在だったのだ。
紀平選手と呼べる日は、もう少し先のようである。
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