2020年1月13日月曜日

NHK連続テレビ小説「スカーレット」 ~川原八郎と松永三津を巡る史実~

NHK朝ドラ「スカーレット」の後編が始まりました。

「黒島結菜」さん演じる「松永三津」が登場してからの5話が終了。ストーリー的には、ほぼ想定通りなんですが、あのマジうぜぇキャラ(アシガール若君の台詞から借用)は想像以上でしたね。まあ、これから少しずつ落ち着いていくのでしょう(と信じてます)。

それにしても、同じテレビ局の同じ制作統括とチーフ演出の下で演じているとはいえ、スカーレットの松永三津と、アシガールの速川 唯との区別がつきません。おむすびを食べているところもそうですし、リュックの中から陶芸の材料を取り出すところなんて、永禄にタイムワープした唯が、おふくろ様たちに米やお菓子などの土産を取り出すところそのものでした。「弟子にしてください」のフレーズも、「天野の下人に雇ってください」と同じだし・・・。まあ、悪く云えば演技の幅の無さ。良く言えば女優としての個性と云ったところでしょうか。
って、「女優としての新境地」とか「大人の匂いが香る女」って云う話はどこにいっちゃったんでしょうか。

それにしても、ジャニーズと共演すればジャニオタさんから叩かれ、スカーレットに出演すれば八郎沼さんから叩かれと、女優さんってストレス溜まらないのかなと心配になります。


で、登場して早くも今後の展開を暗示する台詞が出ましたですね。「才能のある人間は、無意識に人を傷つける。」だそうです。これで、ストーリー的には、史実をなぞっていく可能性が大きくなったように思います。

で、今後の史実(と云われていること)をもう一度整理してみました。

①「神山易久」「神山清子」夫妻は共同で自宅に穴窯「寸越窯」を開く。
②清子氏の陶芸家としての評価が高くなるにつれ、二人の関係が悪化していく。
③二人は離婚し、易久氏は内弟子の女性を伴い家を出る。子供の親権と窯の権利は清子氏が得る。
④窯の顧客は易久氏についたため、残された「寸越窯」の経営が苦しくなる。
⑤逆境の中、清子氏は自然釉薬を使った古信楽の再現に成功し、陶芸家として高い評価を得る。
⑥長男「神山賢一」氏も陶芸家になり、釉薬を使った「天目茶碗」の研究に没頭する。
⑦賢一氏が白血病で亡くなる。この時のドナー探しの活動が現在の骨髄バンク設立の元になる。
⑧易久氏は「自然釉」「須恵器」などの研究を重ね、「メトロポリタン美術館」をはじめ多くの美術館に作品がコレクションされるなど、国内外から高い評価を受けるようになる。

これを残り3ヶ月間でやってしまおうというのですから、怒濤の展開になりそうですね。物語が小さいとか、単調で退屈などといったコメントも一掃できることでしょう。

で、SNSでは、史実通りになるのはツラいとか、離婚するならもう見ないなどといったコメントが寄せられているようです。
しかし、この史実のどこがツラいんでしょうか。二人は共に陶芸家として大成功するわけですし、そりゃぁ、若くして亡くなった賢一さんは気の毒ですけど、その死は決して無駄にはなっていません。
夫婦仲良く日用雑器を焼いている、ささやかだけど幸せな人生を期待しているのでしょうか。でも、それでは波乱に満ちた人生のドラマにはなりませんし。

恐らく、泥沼の不倫騒動という言葉に引っかかっているのでしょう。仲睦まじい夫婦の間に、内弟子の若い女性が割り込んできて、夫を誘惑して泥沼に引きずり込んだ、みたいな昼ドラ的展開を予想されているのかもしれません。でも、それって、誰が言い出したことなんでしょうか。夫の易久氏がこの問題について一切発言をしていないものですから、出てくる資料が清子氏サイドからのものに限定されているんですよね。
易久氏が、(清子氏の自伝映画で描かれているように)才能も無いのに先生を気取り、妻の才能に嫉妬し、挙げ句の果てにDV、若い女性に誘惑されて家庭を放棄するようなロクデナシだとすると、陶芸家として国際的にも高く評価され、彼を慕って多くの弟子が集まったという史実をどう捉えればいいのか分かりません。

世の中には、夫婦で俳優とか夫婦で医者とか、夫婦で同じ仕事をしている例はたくさんありますけど、芸術家同士っていうのは、少し違うと思うんです。しかも同じジャンルですからね。八郎は、妻の才能に嫉妬する情けない夫ではありますけど、彼も才能ある陶芸家であるがゆえに苦しんでいるわけです。妻が焼いて夫が売る、みたいな生活ができれば楽なんでしょうけど、彼の才能がそれを許さないわけです。
才能が夫婦をライバルに変えてしまったんですよね。史実では長男も陶芸家になるのですが、自然釉に取り組む母親に対抗して、異なる技法の天目茶碗に没頭したそうです。実の親子にしてそうなんですから、夫婦ならば尚更のことに思います。

この夫婦が破局するのは、悲しい必然に思います。三津が弟子入りする前から、スキマ風が吹き始めていましたからね。今後は、夫婦共同の個展などを開催して、すき間を懸命に繕っていく展開が予想されます。


「才能のある人間は、無意識に人を傷つける。」

僕は、この台詞を聞いたとき、漫画家「竹宮惠子」氏と「萩尾望都」氏の「大泉サロン」でのエピソードを思い出しました。
明朗快活で社交的な竹宮氏と、物静かでオタクチックな萩尾氏。若く才能溢れた二人の漫画家は、共同生活をすることで、互いに刺激し合い創作意欲を高めていくのですが、やがて竹宮さんは萩尾さんの才能に嫉妬していく自分に苦しむようになります。竹宮氏が創作に苦しむ横で、いとも簡単に新しいモノを生み出していく(ように見える)萩尾氏。大泉サロンでの共同生活は3年で終わります。竹宮氏が決別を決断したとき、萩尾氏はその理由を理解できていなかったとされています。

僕は、黒島結菜さんが、川原喜美子の内弟子を演じると知ったときに、いやぁ、彼女もとうとう不倫相手などと云う大人な役を演じるようになったのかと、関心と期待を持っていたのですが、松永三津のキャラを見て、これは違うぞと思うようになりました。
三津のあのマジうぜぇ(アシガール若君の台詞からの借用)キャラ設定は、喜美子と八郎の離婚の主因を女性問題に求めていないからではないかと。そりゃぁ、男女間の感情描写は当然あると思いますよ。でもそれが全てでは無い。

史実では、神山易久氏と神山清子氏は、別々の道を歩むことによって、共に陶芸家として成功を収めました。ならば、ドラマでも、喜美子と八郎は、陶芸家として成功するはずです。そして、僕は、突然現れた三津は、八郎の才能の救い主となることを期待しているんです。
でも、それって、アシガールの速川唯のキャラ設定そのもの・・・あぁ、だから演技に幅が無くなっちゃったんですね。と話がループしたところで今日はお終いです。

最後にもう1つ、アシガールのスタッフさんたちの素敵なところは、登場人物に悪人をおかないところにあります。どんな敵役に対しても、ちゃんと憎めないところを描いてくれるんです。だから、あとは、それを黒島結菜さんがどう演じきるかだと思います。これが、女優としての新境地ってことなのかな。

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