2020年1月10日金曜日

黒島結菜「サクラダ・リセット」と伊豆半島ジオパーク「鮎壺の滝」

「サクラダ・リセット」は、2006年に「河野 裕」氏によって刊行されたライトノベルだそうだ。

2017年に、前篇・後篇の2部作として実写映画化されて、同時期にテレビアニメ化もされたようだ。で、アニメ版は評価が高いが、実写映画版はめちゃめちゃ低い。ネットで検索しても悪口ばかりが引っかかってくる。
前篇の興行収入が5,000万円。後篇にいたっては、上映してくれる映画館そのものが激減してしまい、わずか2,000万円という惨憺たる結果である。キャンペーンにも力を入れていて、宣伝費もかなりかけていたはずだから、記録的な大コケ映画だと云える。

実写映画版の予告動画である。野村周平さんと黒島結菜さんのW主演となっていて、共演者に平祐奈さん、伊藤健太郎さん、玉城ティナさんといった、お馴染みの若手俳優陣が名を連ねている。


 実写映画の公開期間とテレビアニメの放映時期を被せたのは、相乗効果を期待したのだろうか。しかし、ライトノベルのファンは、リアルな役者の演技など求めていなかったようで、この対決は一方的な惨敗を喫してしまった。世界観が特殊すぎて一般人が見るような作品でもないから、ターゲットからそっぽを向かれてしまっては大爆死は必然、というのがネット民の分析である。

健太郎君とのこんな共演シーンもあったらしい。


さて、今回、僕が見てもいない三年前の映画を取り上げたのは、黒島結菜さんが出演してたからだけではない。そのロケ地に「鮎壺の滝」が使われているからである。予告動画に出ていた滝がそれである。

「鮎壺の滝」は、静岡県東部を流れる一級河川「黄瀬川」にかかる滝である。JR御殿場線の「下土狩駅」から徒歩5分、自称「JR駅に一番近い滝」だそうだ。幅65m高さ9mというそれなりに立派な滝が、街中を流れているという面白さで、映画のロケ地に選ばれたらしい。

長泉町のオフィシャル動画である。


今から約一万年前のことである。富士山が大噴火して、大量の溶岩を噴出した。その時の火口の位置は正確には分かっていないが、溶岩の粘性が低かったために、谷を埋め尽くしながら、三島市の北部まで流れて来たらしい。これが三島溶岩流である。
鮎壺の滝のあるところには、小高い丘があったようで、溶岩流はその丘に乗り上げ、堰き止められて固まった。やがて、溶岩盤の上を黄瀬川が流れるようになり、柔らかい丘の部分だけが河川に浸食された結果、段差が生じて滝になったということだ。

元々、御殿場市から三島市にかけては、箱根連山と愛鷹山や富士山に挟まれたV字渓谷だったと云われている。それが、富士山からの大量の溶岩流や土石流で谷が埋め立てられ、広く緩やかな傾斜地になった。地下には富士山からの伏流水が流れており、広い土地と豊富な地下水を求めてたくさんの工場が作られ、やがて街が拓けた。だから、鮎壺の滝が街中にあるのは偶然ではないし、そのようなロケーションであるからこそ、サクラダリセットの撮影が行われたのである。

滝の上流部である。川底は三島溶岩流の岩盤である。黄瀬川はこの岩盤の上を流れ下っている。


滝の下流部である。下部にあった土の部分(愛鷹ローム層)が浸食されたので、溶岩層が庇のように突き出ている。溶岩層の厚さは10mほど。流れの少ない日なら、溶岩層の下に潜り込むことができて、そこから溶岩樹型の大きな穴を見ることができる。


溶岩に埋もれた大木が燃えて無くなり、木があったところが大きな穴になっている。下から覗ける溶岩樹型は珍しいそうだ。


伊豆半島がジオパークの認定を目指していた頃、鮎壺の滝周辺の巡検会に参加した。その時に、案内してくれたのが、静岡大学の小山真人教授だった。

実は、小山先生の案内で巡検するのは二度目だった。

1986年(昭和61年)に伊豆大島の三原山が大噴火して、全島民が避難したことがあった。噴火が収まった頃、伊豆大島の巡検会が一泊二日で開催された。理系オタクで、新しいモノ好きだった僕も参加したのだが、その時に案内してくれたのが静岡大学の小山先生だった。その頃の小山先生は、まだ講師か助手で駆け出しの研究者であったが、背が高くて、ダンディーで、穏やかで、説明が素晴らしく上手だった。初心者の面倒くさい質問にも、丁寧に答えてくれた。巡検参加者の多くは中学や高校の理科の先生たちで、あとは地質調査会社や鉱業関係の企業の研究者などだった。僕は完全に部外者であったが、冷えて固まった溶岩流に上って火山弾を探したりして、楽しい巡検会だったのを覚えている。

小山先生は、その後、どんどん偉くなって、日本を代表する火山学者になった。ブラタモリに出演したこともあったし、どこかの火山が噴火するとテレビで解説することもあった。

だから、こんな小さな巡検会に小山先生が来るなんて有り得ないことなのだが、案内する予定だった講師の都合が悪くなって、先生が直々に案内してくれることになったらしい。
鮎壺の滝を案内してくれた小山教授は、相変わらず格好良くって、紳士であった。偉ぶったところは少しも無くって、初心者の的外れな質問にも的確に答えてくれた。

鮎壺の滝の詳しい説明は、こちらを。「富士山―大自然への道案内」小山真人著(岩波新書)
この滝は、過去にも映画のロケ地に使われたことがある。1つは、2008年公開の「少林少女」。そしてもう1つが、あの超有名な「黒澤 明」監督の「七人の侍」である。下にいるのが主演の「三船敏郎」らしい。


で、映画で侍たちが立っていたのは、この溶岩崖の上である。


この柵を乗り越えれば、侍たちと同じように溶岩崖の上に立てるが、自己責任であるのは云うまでも無い。


こちらは、ネットで拾ってきた「サクラダリセット」の撮影風景の写真である。遠くに見える二人が「野村周平」君と「黒島結菜」さんらしい。


で、手前の岩が予告動画で「平 祐奈」ちゃんが立っていたところ。滝を形成している溶岩層が崩落したもののようだ。祐奈ちゃんと同じポーズをとる行為は特に危険ではないが、自己責任であることには変わりない。この写真を撮影した日は、記録的な渇水期であった。


黄瀬川は、富士山の溶岩流の上を滑るように流れていて、流域面積もそれほど大きく無いから、天候による水量の変化が大きい。

だから、増水するとこんな感じ。昨年の台風19号が上陸した翌日である。川幅いっぱいに滝が流れ落ちていてナイヤガラの滝状態である。


さて、鮎壺の滝がある長泉町では、映画が公開された年の秋に、イベントを開催していたようである。町の文化センターでの映画の鑑賞会を開きが、ジオパークガイドによる滝の見学会、滝のボランティア清掃の3つを同日に実施したらしい。どのくらいの参加者があったのかは知らないが、ボランティアで河川清掃をしようってオジさんたちに、サクラダリセットを見せた時の反応って如何なるものだったのだろうか。

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