2016年3月2日水曜日

「うまし うるわし 奈良」~CM放送10周年によせて~

 「うまし うるわし 奈良」は、JR東海が2006年から放送している奈良観光のキャンペーンCMです。「いま、ふたたびの奈良へ。」というキャッチコピー、ボロディンの「歌劇『イーゴリ公』より韃靼人の踊り」をBGMに使った、人気のCMです。駅で大々的にポスターが貼られたりすると壮観ですよね。今年でCM放送開始10周年ということで、本も出版されたようですから、このCMのファンの多さが分かります。
 聞くところによると、このCM、西日本では放送されていないそうです。奈良旅行に東海道新幹線を使わない人たちに向かってCMを流しても意味はありませんから、考えてみれば当然のことでしたね。

 JR東海には、もう1つ、京都を扱った「そうだ京都行こう」ってのがあって、こちらは、すでに20周年とのことです。仏像ファンの自分だからかも知れませんが、ハッキリ言って、こちらのCMはイマイチですw
 紅葉の綺麗な寺院を紹介した後で、画面の隅に「これはCM上の演出です」って出るんですけど、これって、「紅葉が鮮やかに見えるように画像を加工しました。御免なさい」っていう意味ですよね。大体、京都の良さである桜とか紅葉とか庭とかって、全て意図的に設定されたものだと思うんですよ。だから素敵なのは当たり前。でも、奈良の寺院にあるのは、歴史と仏像と、それを守ってきた人だけなんです。
 とは云っても、観光客の人数では、比べものになりませんし、奈良を褒めるために、京都を叩くというのも大人げない行為ですので、ここまでにしておきますw

 で、ホームページで確認したところ、23本のCMが、この10年間に放送されていました。もちろん、全ての場所に行ったことがありますし、それぞれに思い出もあります。

 放送順に並べると次のようになります。

 ①東大寺 ②薬師寺 ③法隆寺 ④興福寺 ⑤西大寺 ⑥春日大社 ⑦室生寺 ⑧飛鳥 ⑨平城京 ⑩唐招提寺 ⑪新薬師寺 ⑫長谷寺 ⑬中宮寺 ⑭東大寺2回目(戒壇堂) ⑮金峯山寺 ⑯聖林寺 ⑰秋篠寺 ⑱興福寺2回目(北円堂・南円堂) ⑲當麻寺 ⑳薬師寺2回目  ㉑大神神社 ㉒唐招提寺2回目 ㉓法隆寺2回目 となります。

 結局は、有名寺院ばっかりなんですけど、5番目に西大寺が出てきた時には「おおっ」って思いました。8番目の飛鳥にも意表をつかれました。唐招提寺が10番目と遅くなったのは、金堂の修理が終わるのを待っていたからだと思います。
 で、取り上げる寺院が、聖林寺とか、秋篠寺とか、だんだんマニアックになっていったんですよね。聖林寺なんて、確かに国宝の十一面観音は素晴らしいですけど、あんな小さくって観光バスも入れないようなところを紹介して大丈夫かなって、人ごとながら心配してしまいました。そうしたら、再び薬師寺とかが出てきて、2周目が始まったんですけど、ちょっと寂しくも思います。どこまでマニアックになるのか、とことんやって欲しかった気もします。

 では、10周年を記念して、今までの作品23本の中から、独断でBEST3を選んでみました。

 第3位


 これは、以前にもこのブログで貼り付けさせていただきました、西大寺です。まあ、僕が、この寺を好きってこともあるんですけど、こんな地味なお寺を東大寺・薬師寺・法隆寺・興福寺の次の5番目に持ってきたという、JR東海の見識を称えたいと思います。


 第2位


 記念すべき初代のバージョンですね。お水取り(お松明)は、それだけで絵になりますから、ズルいと云えばズルいんですけど、始めのナレーションも良い感じですし、「ああ、奈良に行きたい」って思わせる力があります。僕もお松明には、2回行きました。2時間以上、お堂の下で待ってましたよ。帰りの夜行バスに乗るまで気づかなかったんですけど、髪の毛が灰だらけでしたw
 で、出てくる仏像が大仏でなくって、広目天と吽形像って云うところがマニア心をそそります。広目天がいる戒壇堂は、2回目にも出てくるんで、CM担当者の中に、此所の四天王像のファンが絶対いると思います。

 第1位


 春日大社は、個人的には、それほど思い入れのあるところでは無いのですけど、でもこのCMは良いですね。改めて見て気づいたんですけど、出てくるのは鹿と巫女さんぐらい、でも、この巫女さんが良い感じだと思います。と云うと、何か若い巫女さん目当てみたいに思われちゃうかもしれませんが、でもやっぱり良いです。使われているBGMのアレンジも画像にピッタリだし。これを見て奈良に行きたいって思うかと云われると、ちょっと「?」なんですけど、Web限定のロングバージョンなんて、ヒーリング動画の傑作だと思っています。

 僕が古代史などに興味を持って、仏像巡りに出かけ始めたのも、10年程前からです。自分でも気がつかないうちに、このCMにまんまと影響されていたのかもしれませんw

 この10年だけでも、奈良は随分と変わりました。セントラルターミナルは、近鉄奈良駅からJR奈良駅に移ろうとしています。修学旅行生相手の旅館がどんどん廃業する一方で、全国チェーンのビジネスホテルが次々とオープンしました。スイーツを扱う店が繁盛していますが、その向かい側の老舗の奈良漬け屋さんは店をたたみました。「ならまち」が奈良観光の中心地になって、町屋カフェが乱立しています。
 それから、いつまでも変わらないのは仏像だけって言いたいんですけど、その仏像の拝観環境だって変化しています。
 でも、僕は、それらを否定的に思っていないんです。奈良を表す言葉で、1300年間変わらないってフレーズがよく使われますけど、変わり続けてきたからこそ、奈良は生き残ったようにも思います。

 「いま、ふたたびの奈良へ」というキャッチコピーは、少子化による修学旅行生の減少に苦しむ奈良の叫びです。「修学旅行で行ったかもしれないけど、それで十分なんて言わないで。」って意味だと思います。京都と違って、訪問者をあしらう術を持たない奈良の魅力を理解するには、それなりの人生経験が必要ですからね。
 とは云っても、奈良は京都と比べれば小さな町です。市内に限って云えば、京都は、10回行っても行き尽くしたと言えないでしょうが、奈良は5回も行けば、通を気取ることができます。そこが奈良の・・・ってイケませんね。また京都と比べてしまいましたw
 
 最後にもう1つ。審査員特別賞です。北円堂・南円堂ですから、円舞曲風アレンジなんですよね。どちらも特別開扉の時に拝観したのですが、僕も、お堂の中をグルグル回って、しつこく見てましたよ。
 

 興福寺の御朱印所に、もの凄い達筆のお爺さんがいるんですよ、太筆1本で、墨を注ぎ足すこと無く、さらさらって書くんです。今度会ったらもう1度書いてもらおうと思っているんですけど、なかなか巡り会えなくって。

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